第47話

「いや、死んでないぞ。大丈夫だ」



 どうやらエーファの龍魔法はかなり威力が落ちていたおかげで男の命を落とすには至らなかったようだ。



「あっ、本当だ。それならサクッと殺っておく?」

「いやいや、詳しい事情を聞かないといけない。ソーマ様の指示を仰ぐべきだろう」



 こんな所にいる怪しい人物。

 さすがにクルシュの件とは無関係と言いがたい。


 そんな事情もあり、アルバンは男のことをにらみ付けていた。





 爆発した場所へ移動するとそこにはアルバンとエーファが誰かわからない人物を見下ろしていた。


 ――もしかして、誰か殺してしまったのか?

 でも、誰だ?


 エーファの足下にいる男は初めて見た顔つきの男だった。



「あっ、あの人です。私をさらったのは――」



 クルシュが男を指さす。

 つまり、この人物が誘拐犯か。


 なるほど……、そんな人物がいたから捕まえてくれたのだろう。

 加減できないところがエーファたちらしいけど――。



「あっ、ソーマ様。お待ちしておりました」



 エーファが嬉しそうに近づいてくる。



「あぁ、クルシュは無事に見つかった。手伝ってくれてありがとうな」



 まずは二人を労うとエーファは嬉しそうに笑みを浮かべていた。



「いえ、ソーマ様のことを思えば、このくらい余裕です。それよりもこの男、怪しかったので捕まえたのですけど――」

「たまたま近くに隠れていたのを、エーファの龍魔法で気を失っただけなのですけどね」



 呆れた様子を浮かべるアルバン。

 ただ、俺の前に来るとしっかりと頭を下げてくる。



「どうにも怪しい男でしたので、一応こうやって逃げないように様子を見ておきました。いかがしましょうか?」

「一応、どうしてクルシュを誘拐したのかが聞きたい」

「かしこまりました。では、起こしましょうか?」



 にやり微笑むアルバン。

 ただ、どうしてだろう。それがすごく輝いた笑みに見えてしまう。



「あっ、まぁ、起きるまで待つのもやぶさかではないな。だから無理に起こす必要はないぞ……」

「そうですか……。殴り起こそうとしたのですが、ソーマ様がそう仰るのでしたら」



 いつの間にか握りしめていた拳を戻すアルバン。


 もしかすると殴り起こすつもりだったのだろうか?

 さすがにそこまでするのは問題だっただろう。

 アルバンの能力を考えると一撃で倒してしまう恐れすらあった。


 すると、男がゆっくりと目を覚ます。



「あ、あれっ、俺は一体何が――」



 その瞬間にアルバンが大剣に手を掛け、ラーレが短剣を抜く。


 そして、エーファが龍魔法を放つ間際で――。



「エーファ、また吹き飛ばすなよ?」

「だ、大丈夫です。ちゃんと手加減しますから。峰打ちですから……」



 エーファが慌てふためきながら行ってくる。

 もちろん、魔法に峰なんてあるはずがない。


 呆れ顔になりながら俺は訳もわからなくてぼんやりしている男に近づいていく。



「お、俺は一体何を……。領主を探していたら突然爆発して……」



 男が必死に頭を働かせて、そこで思い出す。



「そ、そうだ。あの男だ。あの男が突然俺を攻撃して……って、っ!?」



 男はアルバンを見た瞬間に驚き、引きつった表情を浮かべていた。

 そして、ゆっくり後ずさっていく。


 するとエーファの体にぶつかる。



「ひっ!?」

「んっ、なんだ? 私に滅ぼされたいのか?」



 エーファが龍魔法を放とうとする。



「ダメだぞ」

「わ、、わかってますよ。冗談ですからね」



 エーファは俺に向けて笑みを浮かべてくる。

 ただ、どう見ても冗談には見えなかったが――。


 そして、男は今度はクルシュの方へと移動する。

 しかし、クルシュを守るようにラーレが前に出る。



「く、くそ……、これも領主の仕業か……」

「あぁ、そうだな。全ては俺の命令だ」



 領主と言われたので、俺が前に出る。

 しかし、男は首を傾げていた。



「……だれだ、お前は?」

「俺がここの領主だが?」

「いや、領主はあそこの娘で……」

「えっと、私はソーマさんのメイド? ですよ」



 少し自分の役職に迷って、メイドと答えるクルシュ。

 メイドらしいことはしてもらってないけど、今のクルシュの格好とかを総合すると一番納得しやすい職業がそれだった。



「め、メイド……。し、しかし、水晶の杖を持っていたのがメイド……。ま、まさか、俺を騙すためにわざとメイドに持たせていたのか……」

「えっと、それはたまたま――」



 深読みをしようとする男に俺は頭を掻きながら苦笑を浮かべていた。



「それよりも一体誰に命令されてクルシュを誘拐しようとしたんだ?」

「……くくくっ、それを俺が話すとでも思ったのか?」

「えぇ、話すはずだ。もし話さないというのなら……エーファ?」

「あっ、そろそろ魔法を放っても良いの?」



 エーファの手が次第に光り輝いていき、いつでも魔法を放てる状態になっていく――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る