第46話

 ――な、何が起こったんだ!?


 クルシュを誘拐した男は日も沈み始めていたので、周りから目立ちにくい場所で休んでいた。

 もちろん、クルシュからは一切目を離していない。

 間違いなく、目の前にいた。


 そのはずなのに瞬きをしたその一瞬の間にクルシュの姿はなくなっていた。


 ――もしかすると姿を消す魔法か?


 男も全ての魔法を知り尽くしているわけではなかった。

 そういったものがあったとしても頷ける。


 ――それならばまだ近くにいるはずだ。


 周囲に警戒を向ける。

 ただ、虫の音くらいしか聞こえず、他に誰も隠れているようには思えない。


 ――隠密でも得意としているのか? いや、それなら俺も負けない。


 男は周りを探し始める。

 ただし、その時クルシュは既にソーマの近くまで戻っていることを彼は知るよしもなかった。


 そして、男は索敵の範囲を広げていく。

 すると、ようやく二人組の気配を捕らえることができた。


 ――二人? つまり誰かが助けに来たのか。しかし、あの一瞬でこんなところまで。油断のならないやつだな。


 こっそりと影から様子を窺う。

 薄暗くなってきたこのタイミングだとはっきりと顔までは確認できないが、一人は小柄な少女。もう一人は体つきの良い大男だった。

 鎧を着ているところを見ると、おそらく領主を助けに来たやつだろう。


 ――つまりあいつを殺してしまえば……。


 男は毒が塗られた短剣を抜くと隙を窺う。

 ただ、その次の瞬間に男を巻き込んで大爆発が起こっていた。







「クルシュ……、無事でよかった……」



 俺は無事に戻ってきたクルシュの姿を見てホッとため息を吐いていた。



「ソーマさん、ご心配をかけてしまって申し訳ありません。ラーレさんもありがとうございます」

「ふんっ、私はあんたが無事だったらそれでいいのよ。もう誰かに捕まるようなへまをするんじゃないわよ!」

「もちろんです。これからはなるべくラーレさんと一緒に行動をしますね」

「べ、別に私はあんたのことを守ったりはしないわよ。私の邪魔をする者がいたら倒すだけで――」

「はい、それで大丈夫ですよ」



 にっこり微笑みかけるクルシュ。

 それを見て顔を真っ赤にしながら慌てふためくラーレを見て、ようやく本当の意味で一安心することができた。


 しかし、クルシュの命を狙ってきた相手がまだ近くにいるのだろう。



「ラーレ、クルシュの側には誰かいたのか?」

「そういえば『誰か』はいたわね。クルシュの気配に集中しすぎて誰かまでは見てないけど」



 もしかするとスキルの弊害だろうか?

 一個人に注視するとより気配がわかるものの、他の意識が散漫してしまう。


 ちょっと厄介かもしれない。


 今回みたいに敵が少数で暗躍してる場合はいいが、大人数を相手にするときは――。


 ラーレのスキルについて考えていたときに突然大きな爆発が起こる。



「な、なんだ!?」

「あっちのほうよ」



 ラーレが指さした先に俺たちは駆けだしていく。







 エーファとアルバンは面倒くさそうに周囲を探し回っていた。

 もちろん誰かに気づかれないように隠密行動を取る……なんてことはなく、堂々としっかり物音を立てて探し回っていた。



「なんで私がお前と一緒に見て回らないといけないんだ。本当ならソーマ様と行動を共にする予定だったのに……」

「それは私の方もだ! ドラゴンなんかと一緒に行動するなんて。し、しかし、神の代行者たるソーマ様のご命令。このアルバン、しかとこの無理難題をこなして見せましょう」

「……私と行動するのが無理なんだいとはどういうことだ?」

「人がドラゴンと行動することが無理難題と言わずになんという?」



 バチバチと火花を散らし合うアルバンとエーファ。

 するとその瞬間にカサカサと草むらが動く。

 しかし、二人はそれに気づくことなく争いあっていた。



「ふん、そなたなんて私の力にかかれば一瞬で消し炭になってしまうぞ?」

「その子どもの姿でか?」

「ならば試してやろう」



 エーファは龍魔法で火炎の弾を作り出して、それをアルバンに向けて放つ。

 ただ、それをアルバンはあっさりとかわしていた。



「その程度の攻撃しかできないのか? 軌道も単純、動きも遅い。そんな攻撃が当たるとでも……」



 ドゴォォォォォン!!



 爆発音を背にアルバンは強めの口調で言っていた。



「ぐはっ……」



 しかし、その背後からアルバンでもエーファでもない、見ず知らずの男が吹き飛ばされて、アルバンたちの前に姿を現していた。



「あっ……、殺っちゃった……」



 全身が焦げている男を見てエーファはぽつり呟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る