第42話

 盗賊たち……、いや、今は農家たちだが彼らも加えて、領地の発展速度は更に上がっていた。

 最初は何度もアルバンに怒られていた元盗賊たちも今では楽しげに畑を耕している。

 食べるのに困って、盗賊になった奴らなのだから、食べる物さえあれば別に盗賊になる必要なんてなかったのだ。

 ただ、彼らのリーダーだった男だけは畑に馴染めなかったようだ。

 しかし、すぐに彼の適性も見つけることができた。


 元々の彼の職業は猟師兼冒険者。

 一人食べていくだけなら本来何とでもなっていたのだ。


 それでも、他の人らの分まで獲物を捕れるほど凄腕ではなかったので、結局同じように盗賊に身を落とそうとしてしまったのだ。

 そんな姿から他の盗賊たちに慕われていたのだろうが――。


 とにかくそんなおかげで俺の領地内の食糧事情はずいぶんと改善されつつあった。

 肉や野菜がしっかり採れ、すぐ近くに小川があるおかげで魚も捕れる。


 しかし、それだけ素材が豊富になったことで更なる問題に襲われていた。

 家族連れでやってきた大工や商人のバルグは問題ないのだが、それ以外の、主に独り身の人たちが重大な危機に瀕していた。


『料理が作れない!』


 焼いたり、ちょっと調味料を付けたり……といったことならできるが、これだけ食材が揃ってきた今、ちゃんとした料理が食べたくなってくる時期でもある。


 しかし、素材を前にして、動きが固まり、結局焼いて終わり……となる日々が続いていた。

 ただ、ついには集団で俺の下に直談判しに来るまでになっていた。


『料理屋を……。この村にも料理屋を作ってくれ!』


 いや、村じゃないぞ。ちゃんとした町だからな。


 そんなことを心に思いながらも、必要な店ではあったので、俺は頷いていた。

 ただ、料理屋を作る上で問題になることがいくつかあった。


 まずは料理人を実際に連れてくること。

 これは募集する以外に道はないだろう。


 そして、次は料理屋の建物を作ること。


 今ある建物は全て所有者がいる。

 新たに建物を作っていく必要がある。


 そうなると改築している方の手が止まってしまう。

 そこは少し悩みの種ではある。


 あとはやはり領地の広さだ。

 結構人が増えてきたので、俺の能力を無視して領地を広げてしまっても良いかもしれないが、効果の範囲外だと色々な問題が出てきたときに対応しにくくなってしまう。


 結局地道に開拓度を上げていくしかないだろう。



【領地レベル】 4(16/32)[村レベル]

『戦力』 12(15/75)[人口](17/21)

『農業』 8(34/45)[畑](8/8)

『商業』 9(41/50)[商店](1/9)

『工業』 15(0/90)[鍛冶場](1/1)



 上げられいる数値はしっかり上がってきた。

 最近、あまり鍛冶ができていないのが少し気になるところであるが、しばらくすると領地を広げることはできそうだ。


 そうなるとドンドン人を募集していっても問題はなさそうか。


 さっそく俺は知り合いに料理人がいないか聞くために商店へと向かっていった。






「……せ」



 店に入るとバルグが一人でいるようだった。

 そして、おそらく「いらっしゃいませ」と言ったのだろうと予測する。



「ルリはいないのか?」



 料理人ならバルグよりユリの方が詳しそうだな、と思ったのだが、バルグは首を振っていた。



「で……」

「あぁ、出かけているのか……。そうだな……、バルグは料理人の知り合いとかいないか?」

「……っ」



 バルグが首を横に振っていた。


 どうやら知り合いはいないようだった。

 まぁ、仕方ないだろうな。バルグ自身、こういった性格もあり、あまり外で食事を取るようなタイプに思えなかったから……」



「またルリ……く」

「あぁ、帰ってきたら聞いてくれるか?」

「まか……」



 だいぶバルグが言いたいことも分かるようになってきた。

 バルグが「任せてくれ」と言ってくれたので、後のことは彼に任せて良いだろう。






 これでしばらくは任せておいて大丈夫そうだな。

 あと、俺がすることは――。


 領地内を見回って行き、発展の度合いを確認していく。

 ただ、足取りが少し重く、頭がぼんやりとしていた。


 ちょっと無理をしすぎてるか?

 いや、でも時間は有限だからな。

 なるべく開拓度を上げられるものは上げておきたい。

 それだと今できることは――。


 ふらつく足取りのまま、視察を続ける。

 すると、クルシュがちょうど素材採取から戻ってきてくれたところだった。



「ソーマさーん、って、どうしたんですか!? 顔が真っ赤ですよ!?」



 手に持っていた素材をその場に落とすと慌てて俺に近づいてくる。

 その瞬間に俺はフッと意識が飛んで、その場に倒れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る