第43話

 目が覚めるとそこは6帖ほどの狭い部屋だった。

 目の前には付けっぱなしのパソコン。

 どうやら、ゲームをしながら眠ってしまったようだ。


 まるで現実のようなゲームだったな……。


 ぼんやりとそんなことを考えながらじっくり画面を見る。


 そこにはある程度育ってきた町に迫り来る強大な敵に敗れて『GAME OVER』と表示された画面があった。


 そういえば昔はストーリーを進めることを優先しすぎてろくに味方の能力を上げていなかったから全滅したことがあったんだよな。


 ……んっ? 昔?

 もしかして――。


 俺は頬をつねってみる。



「……痛くない」



 つまり今のこれは夢……ということか。

 そうだよな。

 向こうではしっかり感覚があったもんな。


 でも、それならどうしてこんな夢を?

 もしかすると、俺に忠告してくれているのだろうか?

 あまりストーリーを優先して進めると酷いことになるって――。

 今だとストーリーは領地の広さってことになるのだろうか?


 その前に個々の能力を優先して上げる……。

 そういえばエーファ以外の戦闘の能力はあまり変わっていないよな。

 ……よし、それなら先に能力強化を図ることにしよう。


 そんなことを思っていると次第に意識が遠のいていく。







「ソーマさん、ソーマさん、目を覚ましてください!」



 体が揺らされる感覚を受ける。

 なんだか妙に体が熱っぽくて重たい。


 このまま意識を落としたい気持ちになる。

 しかし、そんなときに側にいたらしいエーファがとんでもない言葉を口にする。



「主様……、少しお体が熱いですね。この辺り一帯を凍らせて冷まして差し上げましょう」「……って、俺の領地を滅ぼす気か」



 まだまだぼんやりとする頭で体を起こす。

 すると、クルシュが目を開き涙目を見せていた。



「そ、ソーマさんー!! よかった、ご無事だったのですね……」



 俺の胸で泣いてくるクルシュ。



「心配掛けてしまったな……。もう大丈夫だ……」



 本当はまだ頭がフラフラするのだが、安心させるように言う。

 しかし、そんな俺の症状はあっさり見抜かれてしまう。



「だ、ダメですよ。まだ体が熱いのですから……。しっかり休んでください」

「そうよ! あんたに倒れられたら約束を果たしてもらえないじゃない!」



 ラーレも俺のことを心配して様子を見に来てくれたようだ。



「……俺はどのくらい寝ていたんだ?」

「そうですね……。大体一日ほどです……」



 なるほど、そこまで寝ていたらさすがに心配するわけだ。



「それは心配掛けたな。でも、本当にもう大丈夫だ。あとは休んでいたらすぐ良くなるはずだ」

「わかりました。それじゃあゆっくり休んでおいてくださいね。絶対に動いたらダメですよ。後のことは私に任せてくれたら良いので」

「そうだな。しばらくはここで鍛えてもらうだけだからゆっくりさせてもらうよ」



 そういうと体を起こして水晶を取ろうとする。

 しかし、さっとクルシュに取られてしまう。



「ほらっ、言ってる側からお仕事をしようとして……。これは完全に直るまで私が預かっておきますね」



 いや、その水晶を持ったからって別に仕事をするわけじゃないんだけど……。

 まぁ、仕方ないか。

 それだけ俺のことを心配してくれているってことだもんな。


 今はクルシュの言うとおりにしておこう。




◇■




 シュビルの町の領主が再び兵を集めていた。

 理由はもちろん以前ドラゴンがいたから中断したソーマの領地攻め。

 さすがにいつまでもドラゴンが一定の場所にいるとは考えられないので、そろそろ攻めても問題ないかと判断してのことだった。



「まぁ、もうドラゴンはいないと思うが、念のために偵察に出しておく必要はあるな。あと、もし隙があるなら領主をさらうくらいのことはしてもいいかもしれん。たしか、水晶の杖を持った奴が領主……らしいからな」

「ほう……、そいつを殺せば良いのですかい?」



 領主は壁にもたれ掛かっている顔を隠した男に言う。


「いや、殺すな。あくまでも捕まえるだけだ。既にあの領主が教会の援護を受けて国王から承認をもらった……とかいう話も聞いた。下手に私が殺したと広まると私の立場が危うくなる」

「なんだ、つまらんな。殺す方が楽なのだが――」

「そこを何とか頼む。それができると信じてお前を雇ったんだからな」

「まぁ、金の分は働こう。水晶の杖を持った奴をさらえば良いのだな?」

「あぁ、それで頼む」



 それだけ聞くと男はサッと去って行った。

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