第38話
ちょっと待て! これはまずくないか?
ここに書かれている水晶の表示を信じるなら九十日以内に家を五軒作った上で道を作っていかないといけない。
その道がどのくらいのものを作るのか、はわからないがとにかく残り時間がまずい。
今現状だと三十日で家一軒作れるくらいだった。
それが倍の速度必要となるとどう頑張っても間に合わない。
何か手を打たないといけないわけだ。
ただ、考える前に――。
「アルバン、すまないが建築をまた頼んでもいいか?」
「はい、もちろんでございます。それで今回はどこに建物を作ればよろしいでしょうか?」
「場所は任せる。ちょっと件数が多くてな。五軒建ててもらわないといけないようだ。更に町の道も作らないといけないから時間がない。やりやすいように作ってくれ」
「は、はっ……。かしこまりました。ですが、さすがにそれだけの軒数となりますと私一人だと少々難しいかと――。死力を尽くしますが、力不足で申し訳ありません」
「いや、気にすることはない。それを考えるのは俺の役目だ。だからお前は俺の指示通りに動いてくれたら良いからな」
「ソーマ様……。はっ、かしこましました。このアルバン、ラーレと共に全力で建築に当たらせていただきます」
「ちょ、ちょっと待ってよ! だからなんて私ばっかり――」
ラーレを連れてアルバンは去って行った。
作る建物は置かれている素材から『古びた小屋』であることは想像が付いた。
ラーレでも十分に作れるはずだ。
問題があるとするならばやはり人手。
しかし、この領地を広げるのは報酬なので、絶対にできないことは指示してこないはず。
そう考えると何かしらの手はあるはずだ。
人手を――。そうだ、バルグとかはどうだろうか?
怪力スキルの持ち主なので、戦力になるかも知れない。
そこまで考えた時点で俺は急いで、彼らの下へと向かっていた。
バルグはワイバーンの解体をしていた。
縛られて血抜きされているワイバーン。
その側で包丁を研いでいたバルグ。
そのあまりにも恐ろしい様子に一瞬身じろいでしまう。
すると、バルグが俺に気づいて話しかけてくる。
「りょ……、ど……」
領主様、どうかしたのですか?
とでも聞きたかったのだろう。
そのほとんどが聞こえていないが――。
「あぁ、少し聞きたいことがあってな。ちょっと領地開拓に建築できる奴が必要になってな――」
「――わかった。連れてくる……」
バルグはそれだけ言うとワイバーンを載せて馬車で何処かに向かって走り去っていった。
えっと、おれはただバルグに手伝ってもらおうとしただけなんだが――。
バルグの後ろ姿を見ながら俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。
するとそんな俺の後ろからユリが話しかけてくる。
「あーあ……、またバルグ、勝手に行っちゃった?」
「い、いや、俺が頼み事をしたから――」
「大丈夫、一応その頼み事は果たしてくれるよ。あぁ見えてすごく優しい人なんだから……」
ユリが頬を赤く染めていた。
「まぁ、信じるしかないか……。あと、一応聞いておくけど、ユリって建築ができたりしないか?」
「ボクにできると思う?」
腰に手を当てて荒ぶって見せるユリ。
その様子を見て、まぁ予想通りだな……と思わず苦笑を浮かべてしまう。
そして、次にバルグが戻ってきたのは一月後のことだった。
あまり順調とはいえないが、それでもアルバンはかなり頑張ってくれて建物は一軒半ほど完成していた。
でも今のペースでは間に合わない。
建物は完成するものの道を作っていくには足りないだろう。
それでもクルシュやエーファ、ユリの協力もあり、少しずつ町中の道を作っていった。
とはいえ、叩いて固めていくだけの簡易的なものだが、道自体のための素材は出てきてないので問題はないはず。
さすがにそろそろ別の手をつくことも考え始めていたその時にバルグが戻ってくる。
「ただ……」
「おかえりー!」
嬉しそうにバルグに飛びつくユリ。
それを無表情のまま抱きとめるバルグ。
ただ、俺は彼の後ろにいる人たちが気になった。
バルグ同様に体つきの良い男たちが五人。
でも、戦力レベルは前と変わらないので今はこれ以上人が増えることはないはず――。
どういうことだろうか?
俺が首を傾げるとバルグが説明してくれる。
「た、建てる……」
「えっと、ソーマが建築してくれる人を探してたから一時的に雇ってくれたんだって。ワイバーンのおかげでお金もあったから、店くれたお礼って」
「お礼なんてしなくても良かったのに……。でも、助かった、ありがとう――」
これだけ人がいれば期間内に建物も道も完成するだろう。
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