第31話

 翌朝から俺たちはエーファの特訓に付き合うことになった。

 まずはスキルを使うための最低能力が足りていない……という前提で能力値を上げていってもらう。


 特に元々の数値を見ていた俺は、エーファが魔力寄りの能力をしていたことを覚えているので、まずはそれから上げていってもらう。



「アルバン、魔力を上昇させるにはどんな特訓方法があるんだ? 魔法を実際に使う以外に――」

「そうですね。魔道書を実際に読む……とかでしょうか?」

「魔道書か……。それなら商人ビーンに頼んで買うしかないだろうな」

「私ので良ければ一冊ありますよ」



 アルバンが本を一冊渡してくる。

 もちろんそこに書かれている文字は俺には読めないが。


 ただ、中に描かれた模様とかを見ていると賢くなれる気がした。



「ありがとう、アルバン。助かるよ」

「いえ、ソーマ様のお力になれるなら、このアルバン、何よりの幸せにございます」



 アルバンは軽く頭を下げてくる。

 本当にこういうことはアルバンが詳しいので助かるな。


 元々の能力も(エーファを抜いて)一番強いだけある。


 早速、魔道書をエーファに持っていくことにする。






 エーファの部屋へと向かう。

 一応念のために扉をノックすると、中から声が聞こえてくる。



「誰ですか?」

「俺だ。ソーマだ」

「あ、主様ですか!? しょ、少々お待ちください……。今部屋をかたづけますので――」



 中からドタドタ……と大慌てで部屋を片づける音が聞こえてくる。



「はぁ……、はぁ……、ど、どうぞ、お待たせいたしました」

「そんなにかたづけなくてもよかったんだぞ?」

「い、いえ、主様を汚い部屋になんか入れることはできませんので――」

「元々、この家がボロ小屋だったときから住んでいるからな。そんなこと気にしなくて良い」

「いえ、そういうわけには――」



 まぁ、エーファのこだわりなら仕方ないか。

 これ以上は押し問答になってしまいそうなので話を切り上げる。



「それでエーファは何をしていたんだ?」

「えっと、ぼんやりと――」

「その割には色んな物を出していたんだな」

「そ、そんなことないですよ……」



 エーファが苦笑を浮かべる。



「一応こんな本を持ってきたんだ。アルバンの私物だけど、エーファの能力を戻すのに使えるかと思ってな」



 魔道書をエーファに渡す。

 すると、彼女は渋い顔を見せてくる。



「えっと、この本はなんでしょうか?」

「あぁ、これは魔道書だ。読むとおそらく魔力のステータスが上がる……はずだ」

「ま、魔力なら龍魔法を使い続けたら上がっていきますので大丈夫です――」



 どこかエーファは慌てていた。



「もしかして、本を読むのが苦手なのか?」

「そ、その……、はい。じっと一つのことを集中するのはどうしても苦手で――」

「ただ、少しでも早くエーファの能力を戻すためだ。我慢してくれないか?」

「そ、それならこうやって魔法を使い続けたら大丈夫ですよ」



 エーファは目の前で龍魔法を使ってくれる。

 しかし、それは目の前で「ポンッ」と軽い音を鳴らすだけで、それ以上のことは起きなかった。



「こ、こうやって使い続けたらいつか使えるはずですから――」



 本当に大丈夫なのだろうか?



 少し心配に思いながらエーファの能力を調べてみる。



【名前】 エーファ

【年齢】 10752

【職業】 白龍王

【レベル】 1(1/4)[ランクE]

『筋力』 1(20/100)

『魔力』 2(6/160)

『敏捷』 1(5/100)

『体力』 1(51/100)

【スキル】 『威圧』1(51/1000)『龍魔法』1(166/1000)『飛翔』1(20/1000)



 いつの間にかエーファの魔力が一上がっていた。


 そう簡単に上がるものではないので、本当に一日中魔力を上げるために魔法を使い続けたのじゃないだろうか?



 これならこのままエーファは任せておいていいかもしれない。

 すぐに龍魔法を含めて、他の魔法も使えるようになってくれるだろう。



「わかったよ。それじゃあ上げ方は任せる。ただ、無理はするなよ。時間はまだある。のんびり上げていくといい」

「はいっ、わかりました!」



 さて、エーファがこの調子で能力を上げていってくれるなら俺は特になにも気にしなくていいだろう。


 ただ一つレベルを上げただけじゃ龍魔法は使えない……か。

 いったいいつになったら使えるようになるのだろうな。






 それからしばらくエーファの特訓を眺めていた。

 たしかにエーファが言っていた通り、ポンッポンッ、と音を鳴らすだけで魔力が上昇していった。


 それとエーファが部屋を散らかした理由もわかった。


 龍魔法はそのほとんどが軽く音が鳴るだけなのだが、ほんのたまに小さな爆発が起きていた。


 そして、その衝撃で部屋の物が崩れてきて、部屋が散らかってしまった。


 その都度エーファは申し訳なさそうな顔をしていた。



「いや、気にするな。部屋の中でずっと魔法を使っていたらこんなこともある。ただ、本格的に龍魔法が成功するようになったら部屋では使わないでくれよ」



 なんとなく家が吹き飛ぶ未来が見えて思わず身震いしてしまう。



「わかりました。その時は家の外で使うようにしますね」



 そんなことを言いながら龍魔法を放つエーファ。


 ずっと魔法を使っていたからか、魔力レベルは四まで上がっていた。

 レベルが上がった時点で止めておくべきだった……と、俺は後々ながら後悔した。


 そんな俺たちの目の前は大穴が空き、外が丸見えになっている。



「え、エーファさん、大丈夫ですか!!?」



 扉をクルシュが必死に叩いて聞いてくる。

 そのすぐ後からラーレの声も聞こえてくる。



「ちょっと、なにやってるのよ! 怪我なんてしてないでしょうね!!」

「あ、あぁ、大丈夫だ……。ちょっとエーファの魔法が発動してしまっただけだ……」



 扉を開けるとクルシュもラーレも穴の空いた壁を見て、大きく目を見開いていた。



「全く、なにやっているのよ……。部屋で魔法なんて使うからよ……」

「そ、そうだよね……。うん、次から気をつける……」



 ずっとポンポン言っていただけだからまさかエーファも成功するなんて思っていなかったのだろう。

 ただ、これ一発はまぐれで成功しただけかも知れない。


 一応もう一度試してもらうことにする。



「エーファ、念のためにあの空いた壁にもう一度魔法を使ってくれるか?」

「わかりました、主様」

「ちょっ!? 何考えているのよ!! 既にこの部屋の壁、壊れてるじゃない!?」



 慌てるラーレを他所にエーファは再び龍魔法を使う。

 すると予想通りに龍魔法は発動するようになっていた。



 やはり発動条件が魔力四以上だったのだろう。

 これならラーレも戦力として数えることができる。



 再び爆発が起こり、魔法を発動させて方の壁が完全になくなってしまったが、そのおかげで龍魔法は一レベルでもかなりの威力を発揮することがわかった。


 さて、あとは――。



「この壁をどうしようか……」

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