第24話
日の光が出た後、俺たちは木の枝を探しにスライムの森へとやってきた。
「ねぇ、本当におっさんを残してきてよかったの?」
ラーレが不安そうに聞いてくる。
一応アルバンと口悪く言い争っていたのも俺の領地のことを不安に思ってから……、だったのだろう。
その心遣いを嬉しく思い、彼女の頭を軽く撫でるとラーレは顔を赤く染め、慌てふためく。
「心配してくれてありがとうな」
「ふ、ふん、べ、別にあんたの心配をしてるわけじゃないんだからね。ただ、あのおっさんが家を壊したり余計なことをしないか心配なだけよ」
「今のところは大丈夫だな。どういうわけか神聖武器を崇拝しているようだからな」
「それもどこまで本当かわからないわよ」
「はははっ……、それならラーレがアルバンのことを注意して見ていてくれ。それなら問題ないだろう?」
「わかったわ。余計なことをしてこないように一挙手一投足まで監視してるわね」
「まぁ、ほどほどにな……」
「それで、今日は何を探すの?」
「木の枝だな。ただ、少し品質の良いものを欲しい」
「枝ね……。いつもソーマがしている水晶の能力に使うの?」
ラーレが俺の水晶を覗き込んでくる。
まぁ、今は何も表示されていないのでただの水晶にしか見えないだろうが。
「……アルバンの家を作ろうと思ってな」
「なるほどね。確かに家は必要よね。まぁ、それが木の枝っていうのがあいつにはうってつけよね」
いや、そのまま使うわけじゃないんだけどな……。
俺はそんなラーレの姿に苦笑を浮かべてしまう。
それから数日間、スライムの森で木の枝を探し続けて一週間、ようやく【古びた家】の素材が集まった。
【名前】 古びた家
【必要材料】 D級木材(1050/1000)
【能力】 『水回り』1(0/1000)風呂、便所、水道が使用できるようになる。
【詳細】 水回りがセットになった家。ただし、建物はボロボロ。
『古びた家を建築しますか』
→はい
いいえ
ただ、一発勝負ということを考えると少し緊張してしまう。
いつもの鍛冶とかを考えると、どう考えても作業的なことがあるのだろう。
これほどの素材を使った作業……。
一体何をさせられるのか……。
失敗したときにまた素材集めに一週間かかることを思ったら手が止まってしまうのもわかる。
すると、隣にいたクルシュが微笑みかけてくる。
「大丈夫ですよ、ソーマさんなら――。今までも乗りきってきたのですから――」
「そうだな。ありがとう、クルシュ」
「いえ、お気になさらないでください」
クルシュに励まされるようではダメだな。
俺がもっとしっかりしないと。
気合を入れ直して、領内のどこにアルバンの家を建てるかを考える。
「そういえば当のアルバンはどこに行ったのだろう?」
周りを見渡すと、アルバンは自分の畑の方からやってくる。
少し泥に汚れた手と汗ばんだ服を見ると、今日も畑の世話をしていたのだろう。
俺の畑のそばに使っているアルバンの畑を……。
「ソーマ様、何か御用でしょうか?」
「アルバンの家を作ろうと思うのだが、どの場所がいい?」
「わ、私めにそんなお手間を取らせるわけにはいきません。家なら見ての通り、既にありますので問題ありません」
アルバンが指差したのは、辛うじて雨風が凌げるように葉っぱで屋根を作っただけの寝床だった。
「って、あんた、こんなところで寝てたの!?」
ラーレが驚きの声を上げる。
「うむ、これも試練と思えばこれもたやすいものだ」
「試練って……何考えているの。普段の生活に試練の何もないわよ。しっかり体を休めないでいざというときにどうするつもりなの!」
「むむっ……、確かにそれも一理あるな。しかし、ソーマ様のお手を煩わせるわけには――」
「まぁ、見てなさいよ。それよりも家を建てる位置はあのボロの所で良いわよね?」
「ボロとは何だ! あれでも私が一日掛けて――」
アルバンが口調を荒くしているが、ラーレはそれを気にすることなく、「あのボロの所で良いみたいよ」と俺に言ってくる。
その様子に苦笑をしながら俺は水晶を操作して、『建築する』を選んでいた。
俺の目の前にはたくさんの木材や釘、更に金槌といったものが広がっていた。
それも、古小屋を改修したときとは大違いで辺りを埋め尽くすほどの量が置かれている。
更に表示されている残り時間。
『30:00:00:00』
えっと、なんだかいつもより表示が多くないか?
これって三十日ってことだよな?
いや、家を一軒建てるのだ。
三十日じゃかなり少ないか。
「こ、これは一体……」
アルバンが驚きのあまり口を開く。
「ふふーん、これもソーマの力よ!」
なぜかラーレが胸を張って誇っていた。
「ソーマ『様』だろう? 全く口の減らない獣人はこれだから……」
「頭の固い神殿騎士よりはマシよ。ねぇ、クルシュ」
「え、あっ、はい。そうですね……」
「はははっ、クルシュは私側の人間だ。なんと言っても元聖女見習いだからな」
アルバンが嬉しそうに言う。
しかし、クルシュは顔を伏せてしまう。
「なによ、聖女見習いって?」
「神の御言葉を託宣として聞くことができる、神殿の長である。そのお方が我々を導いてくださるのだ」
「ふーん、それならクルシュこそが真の聖女ってことにならないかしら?」
ラーレがクルシュの背中に手を回すと、クルシュは驚きの表情を浮かべていた。
「ど、どういうことだ!? そやつは神殿に置かれているご神体を掃除の途中に倒して壊したやつだぞ」
驚きの声を上げるアルバン。
なるほどな。神殿が保管してるご神体を壊したのなら、その場にいられなくなるのは良くわかる。
そして、クルシュはその後ろめたさからあまりアルバンと関わろうとしなかったのだろう。
そのことを話されたクルシュは肩を振るわせている。
しかし、そんな様子にラーレはため息を吐いていた。
「だからあんたは頭が固いのよ。今、神聖武器を持っているのは誰? ソーマでしょ。あんた達の言葉で言うなら神の代行者……とかでいいのかしら? まぁ、なんでもいいわ。あんたはソーマが神聖武器を手に入れたから彼を発見することができた。それでいいかしら?」
「あぁ、もちろんだ。現聖女が神託を受けて、それで探しに来たのだから――」
「でも、あんたより先にソーマといたのはクルシュよ。つまり、クルシュはご神託なんていらない。既に神の代行者はいるのだから――。そういうつもりだったのじゃないかしら?」
「はっ!?」
アルバンは驚きの表情を浮かべ、クルシュの方を見る。
当のクルシュは必死に首を横に振っているが、ラーレは更に言葉を続ける。
「ソーマに初めて会ったのはクルシュで良いのよね?」
俺の方に確認をしてくる。
「まぁ、そうだな。俺の領民募集にいち早く反応してくれたのはクルシュだな」
「つまりはそういうことよ。クルシュはソーマに使えるためにここに来たのよ。これが真の聖女じゃなくてなんて言うの?」
「……っ!! も、申し訳ありません。クルシュ様。わ、私はとんでもない勘違いを――」
「だ、だから、それが既に勘違いなんですぅ!! 私はただ、ドジでご神体を倒してしまって壊しただけなんですから――」
「その献身的な態度……。まさに聖女様にふさわしい……。これからはソーマ様同様にクルシュ様にも力を尽くさせていただきます」
アルバンがクルシュに対して頭を下げる。
その様子にクルシュは目を回して慌てふためいていた。
「と、とりあえず早く家を作ろう。俺の能力は時間制限があるからな」
既に残り時間が五分減っていた。
まぁ、今回はかなり長期戦になるので、誤差の範囲ではあるがそれでも余計な時間を使っている暇はない。
「それなら私にお任せください。ソーマ様にここまでしてもらったのですからあとは私が力を尽くさせていただきます」
アルバンが自信たっぷりに答えてくる。
たしかに木工のスキルがあるから、木材を使った作業は得意なのかもしれない。
「わかった。俺たちも協力するからよろしく頼む」
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