第23話
「建築……?」
表示されたその言葉を呟くと、水晶に新たな文字が浮かんでくる。
『現在建築できる建物になります。なにを建築しますか?』
→古びた小屋
古びた家
もしかして、これって簡単に建物を作ることができるのか?
しかも、それぞれ開拓度が設定されているやつだよな?
それなら一気に開拓度の数字を上げるチャンスじゃないのか?
……おっと、建築について調べるのは後からだ。
今はこのアルバンがしっかり領民になっているのかを調べるのが先決だ。
俺は気を取り直して、騎士アルバンを調べてみる。
【名前】 アルバン
【年齢】 36
【職業】 聖騎士
【レベル】 20(0/4)[ランクC]
『筋力』 30(759/2050)
『魔力』 11(243/600)
『敏捷』 5(31/300)
『体力』 24(395/1250)
【スキル】 『剣術』11(625/6000)『聖魔法』4(10/2500)『木工』3(53/2000)『威圧』6(5/3500)『剛剣』2(574/1500)
かなりの能力だ。
ただ、Dランクのラーレのときには、領民になってもらうのに苦労したのだが、その更に上のCランクであるアルバンがこうもあっさり仲間になって良いのだろうか?
いや、あっさりではないな。
今回に限っていえば、品質Sの神聖武器が手元にあったおかげだ。
条件が整ったからこそ、今の開拓度で仲間になってくれたのだろう。
ようやく納得できた俺はアルバンに対して手を差し伸べる。
「それじゃあ、アルバン。これからもよろしく頼む」
するとアルバンはその手を取るのではなくて、そっと手を添えて膝をついてくる。
「はい、神の御心のままに……」
いや、俺は神じゃないんだけどな……。
まぁ、神聖武器があるからこそ、そういう扱いをしているのは良くわかるけど。
俺が苦笑を浮かべていると、ビーンがニコニコと微笑みながら言ってくる。
「いやはや、ご無事に仕事が果たせて私もホッといたしましたよ」
さすがにこの空気はいたたまれなくなって、俺は話題を変える。
「そうだな。せっかくここまで来たのだから、ビーンにも買ってもらいたいものがある。いいか?」
すると、ビーンもそれがわかったのは、話に乗ってくれる。
「何でございましょうか?」
「いつもの回復薬だ」
「なるほど、かしこまりました」
その言葉だけで通じるようになってくれたのはすごく助かる。
さっそく俺は回復薬を取りに行った。
回復薬を売った後、ビーンとアルバンが連れてきた兵士達が帰っていった。
何だったら兵士達も残ってくれてもよかったのだが、神殿に報告する人が必要なようだった。
「では、さっそく何なりとお申し付けください」
アルバンが俺の前で頭を垂れている。
さすがにずっとこれなので、俺も困ってしまう。
すると、その様子を見かねたラーレが言ってくる。
「なに、このおっさん。頭を踏めばいいわけ?」
いやいや、いいわけないだろう……。
ただ、ラーレの毒舌も久々に聞いた気がする。
知らない人が相手だとどうしてもこのようなしゃべり方になってしまうのだろう。
「えっと、その……。さすがに頭は――」
クルシュが苦笑しながら答える。
すると、アルバンがゆっくり顔を上げるとラーレをにらみ付けながら言う。
「誰がおっさんだ! 私はまだ現役だ!」
「あらっ、そうなの? でも言われて反論するってことは自分でもおっさんだって思ってるんでしょ?」
バチバチと火花を飛ばし合う二人。
その様子を見て、俺は思わずため息が吐きたくなる。
「はぁ……、二人とも、喧嘩はしないでくれ。アルバンも俺の命令を待たなくて良いから自分で考えて行動してくれ」
「かしこまりました。それがソーマ様のご要望とあれば――」
アルバンが再び頭を下げてくる。
ようやくアルバンが少し離れてくれたので、俺は建築スキルを確かめてみることにする。
先ほど出てきた画面をもう一度表示させてみる。
『現在建築できる建物になります。どちらを建築しますか?』
→古びた小屋
古びた家
開拓度のレベルから考えると古びた小屋の方が作りやすいのだろうか?
まずは古びた小屋を選択してみる。
【名前】 古びた小屋
【必要材料】 E級木材(0/1000)
【詳細】 倒壊の危険がある古びた小屋。物置程度になら使える?
とんでもない量の木材が必要になるようだ。
ただ、何もないところに一から建てるわけだもんな。
水晶のおかげで木材だけしか使わないが、本当ならもっと色んな素材を使うわけだもんな。
それを考えると逆にありがたいか。
ついでに家の方も見てみる。
【名前】 古びた家
【必要材料】 D級木材(154/1000)
【能力】 『水回り』1(0/1000)風呂、便所、水道が使用できるようになる。
【詳細】 水回りがセットになった家。ただし、建物はボロボロ。
あれっ? 能力の欄に『水回り』はあるものの『盗難防止』は付いていない。
これは俺の家特有の能力なのだろうか?
とにかくまずはアルバンの家づくりからか。
さすがにずっと野宿をさせるわけにはいかないからな。
そうなると必要な素材を集めていくしかないか。
どうせ、家にするのだから最初から『古びた家』を建築するべきだろうな。
必要な素材は俺がバフを使うかどうかの違いでしかない。
……俺たちの小屋の強化が遠のいていくな。
ただ、それも仕方ないだろう。
それにこの建築でも開拓度は上がるはず。
よし、明日からの行動方針は決まったな。
翌朝になると窓の外からザクッ、ザクッ、となにかを掘るような音が聞こえてくる。
またか……。
クルシュには畑は耕す必要ないって言ったんだけどな……。
窓の外を見ると畑を耕していたのはクルシュではなくアルバンだった。
そして、その手に持っていたのは木の棒ではなくて自身の剣だった。
「あっ、ソーマ様。おはようございます。良い天気ですね」
まだ日も昇らぬうちから農作業をするアルバン。
その手つきはクルシュよりははるかに慣れたものだったが、大事な剣をそんな風に扱っても良いのだろうか?
「おはよう、アルバン。どうしてこんなに朝早くから畑を耕しているんだ?」
「もちろん、生活していく上で食事は欠かせないものですからな。自分で食べるものくらい自分で育てるのが当然です。畑が終わりましたら狩りにも出向いてきます。ソーマ様の分も取ってきますよ」
自信たっぷりに言ってくるアルバン。
確かに彼くらいの能力があれば余裕だろう。
これで食卓にまた皿が一つ増えそうだな。
「あぁ、期待してるよ」
「はい、お任せあれ。うぉぉぉぉぉ……!!」
俺の言葉に気合いが入ったアルバンは叫び声を上げながらスピードを上げて畑を耕していく。
すると、俺の隣の部屋にいるラーレが不機嫌そうな表情で窓から顔を出す。
「朝っぱらからうるさいわよ!!」
部屋にあった本を投げつけるラーレ。
相変わらず朝から騒がしいな……。
俺は苦笑をしながら二人の様子を眺めていた。
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