第22話
スライムの森にたどり着くとまずは俺が木の枝を拾ってみる。
ただ、結果はいつもと同じE級品質のものだった。
「次はクルシュが採ってくれるか?」
「わかりました。木の枝を拾えば良いのですよね?」
クルシュも俺と同様に木の枝を拾ってくれる。
しかし、その結果も同じでE級の木の枝だった。
『採取』レベル六でもまだ品質があがらないのか。
むしろ木の枝は上がらないのだろうか?
そんな気持ちに苛まれながらもクルシュに『鼓舞』を使う。
「これでもう一度拾ってくれるか?」
「は、はいっ……。わかりました」
再度クルシュが木の枝を拾ってきてくれる。
すると、今回は品質が上昇していた。
【名前】 木の枝
【品質】 D[木材]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 C級魔石(0/10)
【鍛冶】 D級木材(0/20)→
これで変化した……ということは採取レベルが足りなかったということだな。
でも、これで古びた家も強化できるぞ。
「ソーマさん、どうでしたか?」
「あぁ、思ってたとおりの素材だ。助かったよ」
「それはよかったです。では、もっと集めましょうか?」
「そうだな。頼んでもいいか?」
クルシュが更に木の枝を探してくれる。
その間、俺はクルシュにかかっているバフがどのくらいの時間、継続されるのかを数える。
一応重複で掛けられるかも確かめはしたのだが、重複効果はなかったようだ。
ただ、同じスキルだから……という可能性も捨てきれない。
『激昂』が使えるタイミングで試しておきたいな。
でも、激昂は俺自身が怒りの感情を持っているときにしか使えないようで、結構使用の制限がかかってしまう。
その分、効果は『鼓舞』よりも大きかったが――。
そして、クルシュが木の枝を採ってくる間に量った結果、バフが有効なのは一分程度ということが分かった。
意外と短いようで、下手をすると戦闘中に効果が切れてしまう可能性もある。
これは注意しておく必要があるな。
途切れないように度々掛けていかないと……。
「ソーマさん、木の枝はこのくらいでよろしいでしょうか?」
鞄一杯に木の枝を詰め込んだクルシュ。
おそらく足りなくはなってくるが、今のところはこのくらいで問題ないだろう。
これで『古びた家』の開拓度を上昇させることができる。
やっぱり住みやすさって大事だもんな。
「よし、それじゃあ一旦帰るか」
「あっ……」
クルシュからさりげなく鞄を受け取ると俺たちは領地へと戻っていく。
俺の領地へと戻ってくると、その瞬間になにか糸のようなものに引っかかってしまう。
これは俺が頼んだ鳴子か?
なるほど、意外とうまくできてるな。
後はしっかり音が鳴るか……と思ったら頭の上から何かが落ちてくる。
ピコッ。
……。
思わず声を失ってしまう。
「やったー! うまく音が鳴ったわよ! これでいいのよね? さすが私、ここまで天才とはね」
ラーレは自信たっぷりに胸を張っていた。
「全然違う……。これだと相手に気づかれるだろう? 何でぶつけるんだよ」
「音を慣らすためなんだから仕方ないでしょ?」
「でも、それだと相手に『ここに何かある』って気づかれてしまうだろう?」
「……はっ!?」
ようやくラーレも気づいてくれたようだった。
まぁ、でも何も知らない状態でここまで作ってくれたのだから上出来だろう。
「い、今のは試作品よ。今度はもっとすごいものを作ってみせるわ」
ラーレが自信たっぷりに言ってくる。
まぁ、頑張ってくれているのだから、下手に何か言わない方が良いのだろうな。
そんなことを思っていると、ラーレが仕掛けた鳴子(失敗作)が再び作動する。
……この領地には現状、俺たちの他に誰もいないはず。
となると、本当に怪しい人物が来たようだ。
「ラーレ、武器は持っているか?」
「もちろんよ!」
ラーレの顔を見ると彼女は自分の胸を叩いてみせる。
「クルシュは俺の側を離れるな」
「は、はい」
クルシュはどこか不安そうな表情を見せながら、頷く。
「最悪、爆発させる。一応いやし草があったら拾っておいてくれ」
「わ、わかりました」
注意を促した後、俺たちは別の鳴子の元へと向かっていった。
鳴子の先にいたのは
その姿を見て、俺はホッとため息を吐く。
ただ、その後ろにいる護衛はいつもの人ではなかった。
やたら煌びやかな白銀の鎧に身を包んだ男性。
確かに強そうには見えるが、護衛として雇うには不思議な印象を受ける。
どこか騎士のように見える。
騎士の姿を見たクルシュが何故か俺の後ろに隠れて、体を縮めていた。
知らない人だからだろうか?
「ソーマさん、お久しぶりです」
「久しぶりだな。今日も武器の損傷度を調べたら良いのか?」
いつも通り笑みを見せながら話しかけてくるビーン。
それでいつもの用事かと予測したが、どうやら違ったようだ。
「あっ、いえ、今日はそうではないのですよ。こちらの神殿の騎士さんが近くで探し物をしてまして、そのお付きでございます」
「ビーンがお付き……?」
「えぇ。商人はアイテムを調べることができるのはお話ししたことがありますよね?」
なるほどな。
特定のアイテムを探すときは商人を連れて行く必要があるのか。
そして、アイテムを鑑定させるわけだ。
損傷度は調べられないようだけど、品質くらいまではわかるようだから――。
「それで何を探しているのですか?」
「ソーマさんに言ってもわからないかもしれませんが、神聖武器を探してるんですよ」
神聖武器……って、ピコハンのことだよな?
どうして、ここに神聖武器があるってわかったんだ?
まぁ、神殿の人が相手なら隠す必要はないか。
もし盗られたとしても、能力がないただのおもちゃなんだから――。
「神聖武器……ってこれのことか?」
俺はピコハンを取り出して、ビーンに見せる。
すると、騎士の男が近づいてきて、俺のことをにらみ付けてくる。
「……なんだ、そのおもちゃは? 私を馬鹿にしているのか?」
初めて口を開く騎士。
しかし、その声は低く、どこか怒りの様子を含んでいた。
まぁ、ただのピコハンだもんな。
こんなものを見せられたら馬鹿にされているようにしか見えないか。
しかし、ビーンがピコハンをじっくりみた後に騎士に対して首を横に張っていた。
「どうやら本当のようです。こちらは間違いなく神聖武器です」
それを聞いた瞬間に騎士は青ざめた表情をして、慌てて頭を下げてくる。
「も、申し訳ありません。本当に神聖武器とは分からずに出過ぎた真似をしてしまいました。この罰は何なりと……」
「いや、誰にでも勘違いはあるだろう? そんなこと気にしない」
むしろ、ピコハンを見てここまで頭を下げられることの方が気になるのだが、騎士の男はなぜか目を輝かせていた。
「まるで神のごとき心の広さ。それに神聖武器を持っていると言うことは、あなた様が勇者様ですか?」
「いや、俺はただの領主だぞ?」
「でしたら、この神聖なる武具を見つけてくださったのですね。感謝いたします」
再び頭を下げてくる騎士。
さっきまではおもちゃと言ってたのにな……。
その態度の変わりように俺は苦笑しか浮かばなかった。
「見つけた……というよりは俺の能力で生みだしたものだな」
「でしたら、やはりあなた様が神に選ばれしもの……。このアルバン、あなた様にお使えしたく思います。ぜひ末席にでも加えていただければありがたいのですが――」
あれっ、これって領民になってくれるってことか?
理由はわからないが、どうやら神殿はこの神聖武器を持っている人物をかなり重要視しているようだ。
俺としても人手が増えることは助かる。
あとはクルシュとラーレが承諾してくれれば……だけど。
「ふーん、末席ってことはつまり私の部下ってことね。悪くない気持ちね」
ラーレは悪人みたいなことを言っている。
まぁ、反対はしていない様子だな。
ただ、クルシュの方は――。
「わ、私は……その……」
酷く怯えた様子を見せていた。
そういえば、神殿で大きなミスをしたと言っていたもんな。
「大丈夫だ。クルシュに手を出させるようなことはさせないから――」
「ソーマさん……、ありがとうございます……」
クルシュはホッとした様子を見せる。
ただ、こうなってくると一緒に住む……というわけにはいかないな。
「わかった。ここの領民になってもらってもいい。ただし、一つだけ条件がある。それが飲めるなら……だけどな」
「もちろんでございます。どんな条件も丁重にお受けいたします」
頭を下げたまま、アルバンが言ってくる。
「なら、極力クルシュには近づかないでくれ。どうにも神殿となにか確執があるようでな。一緒に住む上でどうしても……ということはあるが、慣れるまでは我慢してもらえると助かる」
「……なるほど。クルシュ……といえば、聖女見習いだった少女ですね。もちろんでございます。あなた様がそう仰るのでしたら、なるべく距離を取らせていただきます」
「すまないな……」
「いえ、これも私に与えられた試練と思えばたやすいことです」
なんだか目が燃えているような印象を受ける。
もしかして、試練を与えられたら逆に燃えてくるという試練マニアか?
その様子に苦笑をしながら、本当に領民になっているかを確認するために水晶を取り出す。
すると、そこには文字が浮かび上がっていた。
『領民が三人になりました。開拓スキル、【建築】が解放されます』
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