第21話

「神聖武器……か。クルシュやラーレは何か聞いたことないか?」



 家に戻ってきた俺はテーブルに突っ伏しながらピコハンを弄んでいた。



 ピコッ、ピコッ。



 やっぱりどう見てもただのピコハンだよな。


 何か特殊な能力があるわけでもない。

 すごい威力を発揮するわけでもない。

 本当にただのピコハンだ。



「私は聞いたことがないわね。神聖って付くくらいだから神殿とかに詳しい人の方が知ってるんだろうけど……。クルシュはどう? 何か知ってる?」

「えっ? あっ、はい。少しでしたら――」



 どこか心ここにあらずのクルシュ。



 珍しいな……。

 何かあったのだろうか?



「大丈夫か? 魔物達が襲ってきたばかりだもんな。少し休むか?」

「あっ、いえ、大丈夫です。ただ、神聖武器の名前が出てきたことに驚きまして……」



 それからクルシュがゆっくりと教えてくれた。



「えっと、神聖武器は神様が作った武器のことで、人の世の困難を取り払うために現れる……って言われてるみたいです」

「人の世の困難か……。このピコハンがな……」



 ピコッ、ピコッ。



 うん、とてもそんな風には見えない。

 誰かがボケ倒す未来が来るから、ツッコミまくれってことなのか?



「それにしてもクルシュは詳しいわね。もしかして神殿に務めていたことがあるの?」

「えっと……、はい。私はメイドとして働く前は神殿に勤めていたのですよ。ただ、ちょっと大きな失敗をしてしまいまして、そこにいられなくなったんです――」



 クルシュは顔を伏せて悲しそうにする。

 あまり良い思い出……というわけではないのだろう。



「それで困難……とか、神聖武器の能力……とか、そういったものはわからないのか?」

「……私にはそこまではわかりません。お役に立てず申し訳ありません」



 クルシュが頭を下げて謝ってくる。

 するとラーレがクルシュの肩を叩いて笑みを見せる。



「まぁ、気にしても仕方ないじゃない。とりあえず、すっごく強い武器ってことでしょ?」

「……ラーレにはこのピコハンが強そうに見えるのか?」



 ピコハンで机を叩いてみると「ピコッ」と甲高い音が鳴る。



「えっと、まぁその……見方によっては強いんじゃないかしら?」



 ラーレが視線を背けながら言ってくる。



 やはりそんなこと全く思っていないんだな……。

 実際に強くないし仕方ないが……。



 ただ、困難に対してこの神聖武器を渡すみたいだからな。



 俺の困難……。

 今はこの領地を成長させることだな。



 それにこのピコハンもまだ成長させることができる。

 『金のピコハン』になれば特殊な能力が生まれるのかも知れない。



 ただ、S級魔石を千個も……。

 そもそもこれだけの数を集めることができるのか?



 いや、確かに数は多いかも知れないけど、集め続けたらいつかは集まるな。

 それにいつかは使う武器なんだろう。


 とりあえず今のところ使い道のないピコハンは部屋に飾っておく。



 それより領地レベルだ。

 今回は『???』を選択してしまったけど、ドンドン上げて他の選択肢も選んでいきたい。

 そのためにはやはり領地レベルを上げていかないとな。



 今の領地レベルを確認する。




【領地称号】 弱小領地

【領地レベル】 2(1/8)[庭レベル]

『戦力』 2(3/15)

『農業』 2(0/15)

『商業』 2(2/15)

『工業』 3(1/30)




 いつの間にか工業のレベルが上がっている。

 そして、ここまで色々と試して大体数字の上げ方はわかってきた。



 まずは『戦力』。

 これは主に人や家に関わることをすれば上がる。

 だから、今の小屋を家へと鍛えたときに上昇していった。

 他にもクルシュやラーレがここの領民になってくれたときにも上がっている。



 次に『農業』。

 これは今のところ畑のレベルを上げるしかなかった。

 でも、他のものの傾向から考えると、もっと違うところに畑を作ったり、あるいは家畜等を育てても成長していくかも知れない。



 そして『商業』。

 これは商人ビーンから何かを購入したり、売ったりしたときに上がっている。

 おそらく町に商店ができて、経済が回っていくようになったら一気に成長していくだろう。



 最後に『工業』。

 今のところ一番成長しているのは、これだけ個人でも上げやすいからだろう。

 鍛冶や錬金といった能力を使えば上昇していく。

 そして、その上がり幅は作ったものの難易度によって変わっていく。




 やはり一番上げやすいのは工業だな。

 クルシュにいやし草を集めてきてもらって、回復薬を作れば良いだけだ。


 出来上がった回復薬はビーンに売ることが出来るので、一石二鳥でもある。


 本当なら畑も上げていきたいのだが、開拓度が二になったら、D級魔石を要求されるようになった。


 D級素材はまだ集めることができないからな。



「そういえば、前に襲ってきた魔物達の魔石を集めておいたわよ。使うんでしょ?」



 ラーレが大量の魔石を出してくる。

 その大半はE級の魔石だったが、一つだけ綺麗なピンクに輝く魔石だけはC級の魔石だった。



「C級魔石はオークから取れたものね。……まぁ、取れたというよりは転がっていたのを拾っただけなんだけどね」



 なるほど。やはり魔石の場合は魔物の強さに比例して品質の良いものを落としていくんだな。

 それならばやはり戦力になる人を確保しておきたいな。

 もしくは魔石を売ってくれる人……。


 まぁ、そういうときのために金を貯めておかないとな。


 それともう一つ、気になるのはクルシュの『採取』スキルだな。

 合計十になったとき、いやし草の品質がC級になった。



 もしかすると、俺が鼓舞を使った後だと木の枝の品質もD級になるのかも知れない。


 最近はあまり拾っていなかったが、少なくとも四のときは上がっていなかった。

 六だと上がるのか、鼓舞を使って十にしたら上がるのか。

 それとも、木の枝は『採取』が関係しないのか。



 それは確認したいな。



 あとは……、念のためにこの領地に簡易的な罠を作りたい。

 今はラーレの気配探知に頼りっきりのところがあるからな。



「ラーレは鳴子のようなものは作れるか?」

「鳴子? 誰、それ?」

「えっと、糸に触れたら音が鳴るやつですよね?」



 もの自体はクルシュが知っているようだ。



「あぁ、そういうやつだ。さすがにまだ三人しかいないからな。いきなり襲われないようにそういった罠も必要になるかなと思ってな」

「確かにそうね。わかったわ、作ってみる――」



 ラーレが飛び出していく。



 えっと、作り方はわかるのか……?



 不思議に思いながら、残された俺たちはお互いの顔を見て苦笑をしていた。






「クルシュとこうやって二人で出かけるのも久しぶりだな」



 クルシュのスキルを調査するために俺たちは木の枝を探しに来ていた。

 すると、隣を歩くクルシュは嬉しそうに笑みを浮かべていた。



「そうですね。ラーレちゃんが来てからはソーマさんは付きっきりでしたもんね」

「別に他意があったわけじゃないぞ? ラーレには色々解決しないといけないトラブルがあったから――」

「トラブル……ですか」



 その言葉に反応したクルシュは俺の少し前へ進み、振り向いてくる。



「もし、私にも困ったことがある……と言ったらソーマさんは助けてくれますか?」



 意味深なセリフを呟いてくる。

 その表情を見ると彼女も何か抱えていることは優にわかる。


 でも、それを言ってこない……ということは、まだその時ではないのだろう。


 だからこそ、俺が取るべき対応は――。



「お前は俺の領民だろう? いつでも言え。全力で助けてやる」



 クルシュの頭を軽く撫でながら伝えると、そのまま木の枝が落ちているスライムの森へ向かって進んでいく。

 すると、一瞬固まっていたクルシュだが、すぐに笑みを浮かべて俺の隣に駆けてくる。



「わかりました。では、その時はよろしくお願いしますね」

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