第20話

 何を発展させるかは選択制なのか。

 一体どれを選ぶべきか……。


 俺は一つ一つの項目について真剣に考える。




『領地を広げる』

 今は庭レベルしかないので、領地とは呼べない。せめて辺境の弱小領地と言われる程度にはなっておきたい。これは早めに強化しておきたいな。


『領内の施設を強化する』

 今なら『古びた家』と『小さな畑』が該当するのだろうか?

 畑ももっと広く大きくすることができれば、食卓に彩りが生まれる。

 家の方も今は襲われたら簡単に倒壊しそうだ。

 こちらも早く強化したいところだ。


『新しい施設を作る』

 商店や鍛冶場、他にも色々と欲しい施設はある。更に畑が施設に該当するならこの領地内に鉱山とか温泉とかも作ることができるかも知れない。

 今は施設らしい施設がないから、早めに欲しい。


『周囲に生息する魔物のレベルを上げる』

 全くの論外だ。今出てくる魔物でも苦戦しているのに敵を強くしてどうするんだ。ハードモードを通り越してエキストラ難易度にでもしたいのか?


『周囲に存在する素材の品質を上げる』

 これはクルシュがいるおかげで必須ではないな。

 ただ、ラーレとの約束もある。なるべく早めに高品質の素材を採れるようにしたい。

 でも、最初は万能薬を作るところから始めないとな。


『???(ランダムで何かが起きる)』

 いつもなら迷わずにこれにする。もちろんセーブをしてから。

 ただ、今回はもちろんセーブ機能はない。

 一発勝負とかんがえると選ぶべきだろうか?

 最高の結果を得る可能性もあれば、最悪の結果を引く可能性もあるわけだからな。




 さて、どれを選ぶか……。



 頭を捻らせているとラーレ達が近づいてくる。



「それでもう領地は増えたの?」

「……あまり変わってないようにも思えますね」



 確かに俺が選択するまでは領地に変化が起きないからな。


 一人で考えていても決まらないだろう。

 俺は二人にも相談してみることにした。



「あぁ、そのことで二人に話がある」



 出てきた選択肢について二人に説明する。



「もちろん領地を広げる。これ一択よ!」

「で、でも、新しい施設も……」

「施設だけができても運営する人がいないじゃない。宝の持ち腐れよ」



 確かにラーレの言うことはもっともだ。

 色々と書いてあるけど、どれもメリットが出てくるのは人が増えた後。


 まず優先すべきは人を増やすことなのだ。


 ただ、これは領地を増やす……というのも同じだ。

 ここでいう領地というものはあくまでも『俺が自分の領地と認識する場所』ということだろう。


 周りの木々を切り倒し、家を作れば最悪住めなくもない。


 そうなると、選択肢はやはり一つになってくる。



「ランダム……か」

「さ、さすがにそれはもったいないでしょ? 外れを引いたらどうするの?」

「確かにそうだけど、もし運がよかったら新たな領民を獲得できるかもしれない。領地も知名度もないこんなところに来てくれる物好きはそうそういないからな」

「わ、私は物好きじゃないわよ!? でも、確かにそうかも知れないわね。領民が来てくれるならこれ以上良いことはないわね。……ところで、あんたは運は良い方なの?」

「任せろ! こう見えてもくじの類いはことごとく外してきたほどの幸運だ!」

「はぁ……、ダメじゃない。それなら今回も外すわよ」



 ラーレがため息交じりに答えてくる。

 確かにそういう結果になる可能性はある。


 ただ、俺自身がボタンを押すタイミングを選ばなくてもいいわけだ。



「俺はただ、二人のうち運が良い方の声かけしてくれたタイミングで選択するだけだな。俺の意思は関係なく。これなら俺の運は絡んでこないんじゃないか?」

「――どういう理屈よ!?」

「仕方ないだろう? 多分この水晶は俺しか操作できないんだから」

「うぐっ……、し、仕方ないわね。でも、それなら私はダメよ。今までろくに運がよかったためしがないから……。最近もランデンに騙されたところだから――」

「私は結構運が良いんですよ」



 クルシュが手を挙げながら言ってくる。

 でも、どうしてだろう。そんなことない気がするのだけど……。



「運が良いって何かあったのか?」

「はい、実は生まれてこの方、野草を食べてもお腹を壊したことないんですよ。毎回ちゃんとした食べられるものしか取らないのです。これはものすごく運がいいって言えますよね?」

「……いや、それはクルシュが持っている採取スキルの効果だ」



 思わずため息が出てくる。

 クルシュも色んな職でドジをしてしまい、仕事を首になっている。

 お世辞にも運が良い方ではないだろう。



「わかった……。俺が押すよ。なんとなく二人の話を聞いていると俺が一番マシな気がしてきた」

「えぇ、お願いするわ」



 ラーレも同じ考えに至ったようで、俺の言葉に同意してくれる。

 しかし、クルシュだけは一人、不思議そうな表情を見せていた。






 もう一度先ほどの選択画面を出すとその中から『???』にカーソルを合わす。

 そして、二人の顔を見た上で選択する。


 すると、俺の頭上に何やら霞がかったものが浮かんでくる。



 もしかして、何かものがもらえるパターンか!?

 こういう場合、大抵が高ランクの武器……と相場が決まってるよな?



 思わず期待して武器が手元に来るのを待つ。

 しかし、それはまっすぐ俺の頭に落ちてくる。



 ピコッ。



 可愛らしい音と共に柔らかい感触を頭に受ける。


 俺は頭を襲ったそれを手に取る。

 黄色の柄のついた赤いハンマー。ただし、おもちゃの。


 いわゆるピコピコハンマーというやつだ。



「って、大外れじゃないか!!」



 思いっきり地面にピコハンをたたき付ける。



 ピコッ。



 その音がすごく空しいものに聞こえてくる。

 やはり別のものを上げた方がよかっただろうか、と思えてしまう。

 ただ、何かに使えるのだろうか……と一応調べておく。



【名前】 ピコハン

【品質】 S [神聖武器]

【損傷度】 2/100

【鍛冶】 S級魔石(0/1000)→金のピコハン

【能力】 特になし



「神聖武器? ピコハンが??」



 まぁ、俺の水晶が生み出したもの……ということだから、あながち間違いではないのか。

 おそらくこの力は俺を転生させて本人、つまり神に類するものが与えた力。


 その神の能力が生み出した武器なのだから――。

 でも、どうせならもっと良い武器がよかった……。



 俺はピコハンを拾い上げると「ピコッ、ピコッ」と音の鳴るハンマー部分を弄んでいた。


 ただ、俺はこのピコハンがとんでもない好機トラブルを運んでくることになる、ということは気づいていなかった。



◇■◇■




 ソーマ達がいる国の王都、ヘルゲン。

 その王都にある神殿に一つの神託が下された。



『ヘルゲン王国の西の辺境に神が聖なる武器をお産みになった。それは黄色い柄が付いた赤いハンマーである』



 神聖武器はかつて勇者が魔王を葬った武器……とも言われる。

 そして、それは他国にいる勇者が持っている。


 勇者に値するものが現れたのか。それとも、武器だけが生み出されたのか。

 それはわからなかったが、とにかく神殿内は大騒動になっていた。



「今すぐ探しに行くべきだ!!」

「いや、でも辺境と言えば数多くの未開の地がある危険なところだ。そんなところに神聖武器を探しに行くなんて誰ができるんだ?」



 大部屋に集まった神殿の長達は一様に頭を悩ませていた。



「西の辺境と言えば、シュビルの町があるところじゃないのか? それならそこの領主、ライデンに助力を頼んでは?」

「あやつが素直に力を貸してくれるはずがないだろう。もし勇者様が生まれているのなら、おそらく殺してでも奪い取ろうとしてくるはず。それでなくても、あの強欲のことだ。神聖武器を見つけたら高値で売ろうとしてくるであろう。なんとしてもあやつより早く見つけ出すのだ!」

「では、私が出向きましょう」

「おぉ、アルバン。そなたが行ってくれるか?」



 一歩前に出た白銀に輝く鎧の男、アルバンが頷く。

 無精ひげを生やし、端から見てもかなり鍛えていると思える体つきをした神殿の騎士長。

 彼ならば辺境の地でも後れを取ることはないだろう。



「神聖武器だけが生み出されたのなら、それを持ち帰らせていただきます。しかし、勇者が生まれていた場合はどのような行動をすればよろしいでしょうか?」

「そうだな。勇者様の行動は神の行動に等しい。勇者様が何をなそうとされているか、それをしっかりと考えて、力になってくれ」

「はっ、かしこまりました」



 アルバンは胸に手を当てて敬礼をすると大部屋を出ていき、神聖武器を鑑定できる神殿御用達の商人ビーンに声を掛ける。


 そして、何人もの部下と共に辺境の地へ向かって旅立っていった。

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