第19話
ゴブリンもウルフと同様にあっという間にラーレによって倒されてしまった。
俺はラーレが動く前にバフを掛けただけ。
あとは呆然と眺めていただけだった。
これで残すところはオークだけか――。
「ソーマさん、いやし草を集めてきました」
周囲を見渡していると、クルシュが大量のいやし草を運んできてくれる。
「ありがとう、助かる」
「いえ、私にできることはこのくらいですから……」
クルシュにお礼を言うと彼女は嬉しそうに微笑んでくれる。
さて、あとは錬金で失敗した薬をオークにぶつけるだけだが……、さすがに錬金をするのはオークが近づいてきてからだな。
下手に爆発音で余計な魔物を呼び寄せても困るだけだ。
ただ、オークが近づいてきている割には周りが静かだった。
それを不思議に思い、ラーレに確認してみる。
「まだオークは来てないか?」
「えぇ、近くにはいないわね。まぁ、隠密行動をとるような魔物じゃないから安心するといいわ」
確かに元々鈍足な上にかなりの巨体をもつ魔物だ。
さすがに近づいてきたら、気配なり音なりするはずだ。
「小休止……といった感じか。ラーレは疲れてないか?」
「まだまだ余裕よ。今すぐオークの相手にすることもできるわよ」
「それは頼もしいな。でも、だからこそ休んでおいてくれ。オーク相手だと、ラーレの力が頼りだからな」
「まぁ、そうね。わかったわ、少し休んでおくわね」
ラーレは木陰に移動すると木にもたれかかって座っていた。
それを見届けた後、今度は俺はクルシュの側による。
「クルシュ、お疲れ様。いつも悪いな」
「いえ、ソーマさんのお役に立てるなら嬉しいです」
クルシュが微笑みかけてくれる。
その笑顔を見ていると俺自身の疲れが飛んでいく気がした。
「あっ、お水でも飲みますか? 今入れてきますよ」
「いや、クルシュも休んでおいてくれ。オークとの戦いは少々骨の折れることになりそうだからな。いやし草が足りなくなったら、また集めてもらうことになるかも知れない」
「わかりました。それなら今から集めて――」
「いや、今の量で十分だから休んでおいてくれ」
どうにもクルシュは働き過ぎのきらいがあるな。
俺が命令してでも無理矢理休ませる必要があるだろう。
それからも何かにつけて働こうとするクルシュをどうにか休ませた後、俺はいやし草の山に近づいていった。
「あの威力があれば、オークも倒せるよな。もし一撃で倒せなくても、何度が当てれば確実に――」
ただ、錬金できる数には限りがある。一応、何回できるのかいやし草の数も確認しておく。
【名前】 いやし草
【品質】 C [雑草]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 B級魔石(0/10)
【鍛冶】 いやし草(154/20)→回復薬(C級)
いやし草が全部で百五十四本か……。一応、七回錬金をすることができるんだな。
それにしてもクルシュの能力は格別だな。
俺が採取してもただの雑草だ。
でも、クルシュが採取してくれると一気にD級のいやし草になる訳だもんな。
本人にも何度か説明はしたのだが、あまりすごいことと気づいていないようだった。
そのことを思い出して、苦笑を浮かべてしまう。
さて、準備も終えたことだし、俺も少し休むかな。
すぐにでも連勤を行えるように準備をしたあと、俺もその場に座り込んだ。
ただ、先ほどの詳細に少し違和感を抱いた。
何かいつもと数字が違わなかったか?
いや、数字というよりも――。
ここで錬金が失敗しても……、いや、失敗はさせるのだが、爆発してくれない結果になっても困る。
念のためにもう一度見ておこうと改めて調べる。
【名前】 いやし草
【品質】 C [雑草]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 B級魔石(0/10)
【鍛冶】 いやし草(154/20)→回復薬(C級)
やっぱりいやし草だな。
……って、なんで品質がC級になっているんだ!?
ようやく違和感の正体がわかったのだが、いつものと同じように集めてもらったいやし草の品質がどういうわけか上がっていた。
もしかして、クルシュの能力に変化が?
俺は近くに座っているクルシュを水晶で見てみる。
【名前】 クルシュ
【年齢】 18
【職業】 メイド
【レベル】 1(0/4)[ランクE]
『筋力』 1+1(19/100)
『魔力』 1+1(0/100)
『敏捷』 1+1(37/100)
『体力』 1+1(30/100)
【スキル】 『採取』6+4(182/3500)『釣り』2+2(102/1500)『給仕』1+1(1/1000)
クルシュの能力は採取が一レベル上がっているくらいで、大きく変化はなかった。
ただ、クルシュにも鼓舞の効果があったようで、プラスの数字が書かれている。
そこまでなら普通なのだが、『採取』の数値だけ大きく跳ね上がっている
更に『釣り』の方もプラス二上がっている。
そういえばラーレも『敏捷』のステータスが二上がっていたな。
もしかすると、本人の適性次第で大きく上がるのか?
これはもっと人が増えたら判断もつくだろう。
それと品質が上がった理由も『採取』レベルが上がったから……と判断できる。
あまり上がりすぎると低品質のものが作れなくなるから少し考え物ではあるが……。
まぁ、今回は爆発させるだけだから問題はないか。
しばらく休むと木を薙ぎ倒す音が聞こえてくる。
それと同時に地響きを感じ、身が引き締まる。
「ついに来たか……」
「私はいつでもいけるわよ」
ラーレが立ち上がると短剣を掴む。
「あぁ、一応もう一度バフを掛けておく」
ラーレに『鼓舞』を使っておくといやし草の準備をする。
そして、姿を見せたオークは俺の想像通りの姿をしていた。
豚面をした魔物で、俺たちの倍はありそうな背丈と厚い脂肪、更には手に棍棒(という名のただの大木)を握っており、それで障害物をなぎ倒しているようだった。
「あれがオークか」
「えぇ、そうよ。油断しないでよ!」
ラーレが俺に注意を促した後にオークに向かって走って行く。
それに対して、オークは持っている棍棒を振り下ろしてくる。
しかし、それは素早いラーレを捕らえることなく、地面を抉っていた。
ただ、アーレが言っていたとおり、一撃でも当たってしまうとただじゃすまないだろう。
でも、避けるのは簡単そうだ。
……っと、俺の方も早く準備をしないと――。
早速錬金を始めるといつもより多い種類の液体が現れる。
……ただ、今回の錬金は成功させる必要はない。
出てきた液体を全部混ぜていき、そのまま力の限りかき混ぜる。
そして、爆発の兆候が見えたタイミングでオークに向けて投げつける。
「ラーレ、逃げろ!!」
「……っ!!」
ラーレが慌てて距離を離すと、その瞬間にオークに薬が当たる。
ドゴォォォォォン!!
すると、次の瞬間に前にクルシュがしたときの何倍もの大爆発が起き、オークが跡形もなく吹き飛んでいた。
あ、あれっ?
た、確かに爆発を当てれば一撃で倒せそうだ……と思っていたが、粉々に吹き飛ぶのはさすがに予想外だ。
俺が呆けているとラーレが慌てて近づいてくる。
「な、何をしたのよ!? あの威力、上級クラスの魔法よりも強いじゃない!?」
「私が爆発させた時より強い威力……」
クルシュも近づいてきて驚きの表情をしていた。
「これほどの力があるなら最初から見せなさいよ!」
「いや、流石に俺も予想外だ。まさかここまで威力が出るとは……」
もしかすると品質が高いものの方が失敗した時のリスクも大きいのだろうか?
これはSランクの万能薬を作るときには注意しないと、領地ごと吹き飛ばすかもしれない。
「でも、これでクエストは終了だな」
しっかりクエストが終わっているか、水晶を見てみると新しい文字が表示されていた。
『クエストを達成しました。領地レベルが2に上がりました。何を発展させるか1つ選んでください』
→領地を広げる
領内の施設を強化する
新しい施設を作る
周囲に生息する魔物のレベルを上げる
周囲に存在する素材の品質を上げる
???(ランダムで何かが起きる)
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