第18話
場が少し和んできたところで改めて俺は話を戻す。
「それじゃあ、早速クエストを行うぞ。準備はいいか?」
「えぇ、いつでも来なさい!」
「わ、私も準備できましたよ」
普段通りの格好をしたラーレと大きなリュックを背負ったクルシュ。
クルシュの場合は採取や回復薬などを持ってくれているので、必然的に荷物は多くなってしまう。
俺自身も損傷度ゼロの石の槍と木の棒を持っていることを確認した後に水晶の画面を表示させる。
【領地称号】 弱小領地
【領地レベル】 1(4/4)[庭レベル]
『戦力』 2(3/15)
『農業』 2(0/15)
『商業』 2(2/15)
『工業』 2(14/15)
『領地レベルを上げるためのクエストに挑戦しますか?』
→はい
いいえ
そのまま『はい』を押すと、水晶に更に文字が表示される。
『討伐クエスト、領地を襲う魔物を撃退せよ』
ウルフ(0/10)
ゴブリン(0/15)
オーク(0/1)
い、意外と魔物の数が多いな……。
「どうだった? どんなクエストが出てきたの?」
「やっぱり魔物討伐だった。それもこの領地を襲ってくるらしい。ただ、数がかなり多いな」
「どんな魔物?」
「ウルフとゴブリンとオークだ」
「……オークは厄介ね。でも、他の魔物なら私だけで十分よ」
ラーレが頼もしいことを言ってくれる。
「でも、無理をするなよ。怪我でもされたら俺が困るからな」
「わかったわよ。でも、オークはさすがにキツいわ。一撃でももらってしまったら私なんて一溜まりもないんだから」
オークと言えば豚面をした魔物だな。
動きは遅いけど、その一撃の破壊力は鉄製の剣程度なら壊すと言われているあのオークか。
しかも、皮膚が分厚く、生半可な攻撃は通用しない……と聞く。
確かに少々分が悪いかも知れない。
「わかった。オークと戦うときは改めて俺がバフを使う。能力を強化してから戦ってくれ」
「任せてなさい!」
「クルシュは絶対に無理をせずに俺たちが傷ついたときに回復する役に徹してくれ」
「は、はい、頑張ります!」
クルシュはギュッと手を握りしめながら言ってくる。
「よし、それじゃあ臨戦態勢を取るぞ!」
家の外に出るとどこから魔物が襲ってくるのか、気配を済ます。
特にこういった索敵は探索士のラーレがいるので、不意を突かれることはないだろう。
「……来た!」
ラーレの視線がスライムの森の方角を向く。
それにつられて俺たちも視線を向けると猛スピードで向かってくるウルフの姿があった。
青いたてがみを持った狼。
その体は決して大きくなく、少し大きめの犬くらいだった。
違う点といえば、鋭い爪と牙を持っていること。
脅威の度合いで言えばスライムよりは上……といった感じだろう。
一体くらいなら俺でも倒せそうだな。
そんな気がするが、さすがに水晶に表示されていた数字は十体だった。
いくらなんでもこんなに相手にできない。
「ラーレ、あの数は大丈夫か?」
「もちろんよ。ウルフ程度なら束で襲ってきても問題ないわ」
「わかった。でも、バフは掛けておくぞ」
水晶を使い、ラーレに『鼓舞』を使う。
「うん、助かるわ。それじゃあいくわよ!!」
ラーレは短剣を抜くとものすごい速度でウルフたちへの距離を詰めていた。
とても人間の速度には見えない。
これがバフの効果なのだろうか?
改めて水晶でラーレの力を調べてみる。
【名前】 ラーレ
【年齢】 16
【職業】 探索士
【レベル】 10(0/4)[ランクD]
『筋力』 8+1(49/450)
『魔力』 5+1(62/300)
『敏捷』 18+2(712/950)
『体力』 9+1(276/500)
【スキル】 『短剣術』3+1(812/2000)『索敵』4+1(1035/2500)『気配探知』5+1(635/3000)『隠密行動』2+1(888/1500)
数値だけを見るとそこまで上昇しているようにも見えない。
つまり、あの動きは本来のラーレの力によるところが大きいようだ。
ただ、『鼓舞』はスキルのレベルも1ずつ上げられるようだ。
これは有効に使えるかも知れない。
俺もラーレがうち漏らしたウルフに攻撃しようと石の槍を構える。
しかし、ラーレは勢いを殺さずに糸を縫うようにウルフたちの隙間を進んでいく。
すると何故かウルフの動きが固まる。
そして、ラーレは気がついたときには俺の隣に戻ってきていた。
「まぁ、こんなものね。私にかかれば楽勝よ!」
「えっと……?」
何をしたのだろうか?
俺からしたらラーレはウルフたちの間を縫って動いていただけに見えたのだが――。
「もうウルフは倒したわ。次を待ちましょう」
ラーレのその声を皮切りに動きが止まっていたウルフは一様にその場で倒れていく。
「嘘だろ? 全然見えなかったぞ……。いつ攻撃を加えたんだ?」
「すれ違いざまに軽く切りつけたのよ。やっぱりソーマのバフがあったら切れ味が全然違うわね」
なるほどな。
元々速度はこのくらい出ていたのか。
いや、もしかすると他のスキルを組み合わせていたのかも知れない。
隠密行動をしながら高速で移動。
相手に気づかれることなく致命傷を与える。
ラーレが一撃で倒せる相手なら有効的だな。
ゴブリンもラーレが言うには楽勝に倒せるらしい。
やはり、問題はオーク……。
何か有効打になる攻撃があれば……。
動きが遅いのだから俺でも攻撃を当てられる。
かなり高威力の爆発とかを――。あれっ?
少し考えていると、あるものを思い出す。
もしかすると、あの攻撃なら……。
「クルシュ、悪いけど今のうちに『いやし草』を集めておいてくれ!」
「は、はい、わかりました……。でも、こんなときに一体何を?」
「いや、むしろこのタイミングだからだ! これが勝敗を左右する」
「わ、わかりました。すぐに探してきますね」
クルシュは慌てて周りからいやし草をかき集めていった。
そんな様子を見ていたラーレが不思議そうに聞いてくる。
「何をするつもりなのよ?」
「オーク相手だとラーレの攻撃力じゃキツいんだろう?」
「えぇ、さすがに私の力じゃ、あの皮膚を傷つける程度の攻撃しかできないわ」
「だからこそ、一撃でオークを倒せる攻撃方法を使う」
「一体それはどんな攻撃なの!?」
「全力で薬の錬金を失敗させる! それで大爆発が起こるからうまくオークを巻き込めば……」
「なら、私はオークの足止めとその爆発前に離脱することね」
「あぁ、危険な仕事になるけど任せたぞ!」
「誰に言ってるの? 私なら余裕よ」
自信たっぷりに胸に手を当てて言ってくるラーレ。
こういうときは本当に頼りになる。
あとはオークを無事に倒すだけだ。
「そろそろゴブリンが来るわよ。またバフをお願いね」
「あぁ、わかった」
俺たちはジッと周囲を警戒しながらゴブリンがやってくるのを待った。
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