第17話

 領民になってくれたのでラーレの実力がある程度わかった。


 武器系スキルがあるので、ろくに戦えない俺たちとしては凄く助かる。


 そして、ラーレが仲間になったということで、いよいよ『領地レベル』を上げるときが来たようだ。


 ただ、その前に気になることもあるのでそのことをラーレに聞いてみる。



「ラーレが仕事を受けた相手って一体誰なんだ?」

「それは……。うん、もういいわよね。隣町、シュビルの領主、ランデン・シュビルよ」

「隣町の領主……か。そうか、突然知らない人物が領主として現れたら調べに来るよな」



 相手の領主からしたら、いきなり自分の領地に脅威が現れたわけだもんな。


 まずは相手の戦力の分析、どんな力を持っているのか、等々を調べていくだろう。


 それなら俺のことを調べてくるのも良くわかる。



「それでラーレに仕事を依頼したのか」

「えぇ、高値で売れる鉱石の地図を報酬にくれると言っていたからね。今思えば、あのときの領主の使いの態度、どこか変だった。きっと偽物でも掴ませるつもりだったのでしょうね」



 ラーレはS級の薬を必要としている。

 そのためにはかなりの額の金が必要になるはずだ。



 それを知っていて良いように使おうとしたのだろう。

 探索士……、ラーレのスキルを見る限り、調査には向いていそうだもんな。



「……気にくわないな」

「えっ……?」

「うちのラーレを傷つけようとしたんだからな。もし、地図が偽物だとわかったらそのときはライデンとかいうやつには痛い目に遭ってもらう」

「で、でも、相手は一国の領主よ。こんな人数で勝てるはずはないわ!」



 ラーレが少し慌て出す。


 確かに今ではないな。やるにしてもしっかり勝てる状況を作ることが優先になる。


 それに、ただの荒野ではなくて、ここの領地も誰かの国土内なのだろう。

 今は領地を開けるわけにはいかないので出向けないが、商人ビーンを使って挨拶くらいはしておいた方が良いか。



「大丈夫だ、やれる手は打ってやる。ラーレの薬を作る前に潰れるわけにはいかないもんな」

「そ、そうよ。あんたには倒れられたら困るんだからね! 私にできることがあったら言いなさい! 協力して上げるから」

「ははっ……、そのときはよろしく頼むよ」



 俺が笑いかけると、ラーレは顔を染め上げていた。






 翌朝、俺は二人を呼び出していた。

 もちろん目的はこの領地のレベルを上げること。


 ただ、朝ということもあり、ラーレは寝間着姿のまま小さくあくびをしていた。

 クルシュの方もエプロン姿のまま俺のところに来てくれた。



「どうしたのですか? 何かトラブルでも……?」

「ふわぁ……。まだ寝てたのに起こさないでよ――」

「いや、これから二人には大事なことを伝えておきたいと思ってな」



 俺が真剣な表情を見せるとクルシュが少し怯えた様子を見せてくる。



「大事なことですか? も、もしかして、私、領民をクビ……とか?」

「……そんなことするはずないだろう。クルシュは十分役に立っているよ」

「あ、ありがとうございます……」



 クルシュは嬉しそうに笑みを浮かべてくれる。

 その一方でラーレは机に頬杖をついて半分寝ていた。


 その様子に俺はため息をつきながら、領地レベルのことを説明していく。



「えっと、つまりそのくえすと? というのをすれば領地が広くなるのですか?」

「にゃにを言ってるのよ……。そんにゃことあるはずにゃいでしょ……」



 寝ぼけながらラーレが話してくる。


 まぁ、普通に考えたら一般的な領地の広げ方じゃないな。



「まぁ、俺もやるのは初めてなんだ。とりあえず試したいから準備だけしておいてくれるか。多分、危険があるクエストになると思うからな」

「……わ、わかりました」



 クルシュが固唾をのんで俺の顔を見てくる。

 ラーレはすっかり眠りについていた。






 ラーレの目が覚めるのは昼前だった。

 ようやく本調子を取り戻したラーレは腕を組みながら聞いてくる。



「それで私は何をしたら良いの?」

「まだ出てくるクエストはわからないけど、おそらく魔物討伐クエストだと思う」

「なるほどね。わかった、私の力を思う存分見せてあげるわ」



 ラーレが嬉しそうににっこり微笑んでくる。



「それにしてもその石ころ……、持ちにくくない?」



 ラーレが俺の水晶を指さしてくる。



「あぁ、確かに常に持って歩くのは面倒だな」

「ちょっと貸してくれる?」

「あぁ、いいぞ」



 ラーレに水晶を渡すと彼女は色んな角度から水晶を眺めていた。



「それしかないから壊すなよ?」

「大丈夫よ。それにしても変わった石ころね。そのまま持つのが面倒なら例えば杖にしてみる……とかだと持ち運ぶのが楽になるかも」



 なるほど……。確かに水晶が先端についているような杖なら武器にも使えて持ち運びにも便利か。

 考える余地がありそうだ。



「ありがとう。助かるよ……」

「ふんっ、あんたにはこれからS級の万能薬を作ってもらわないといけないのだからね。それまではせいぜい力になって上げるわよ」

「万能薬? そういった薬があるのか?」

「えぇ、そうよ。そのS級となったらどんな病気も治すって言われているわ。お母さんの石化病も……」

「まずは万能薬を作るための素材が必要になるな。それも合わせて探さないと。それはクルシュの出番だな」

「任せてください。私がしっかり集めて見せますね」



 クルシュは出番が来たと嬉しそうに頷いていた。



「そんな……。いいわよ、ものがわかったら私も手伝うから……」

「いや、採取はクルシュに任せて欲しい。クルシュには採取に特化したスキルがあるからな」

「えへへっ、私も知らなかったけど、そうらしいのですよ」

「そっか……。良いスキルを持っているのね。わかったわ。それならお願いね」

「はい、任せてください!」

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