第25話
アルバンが建物を作り始めたので、俺たちも協力しようとする。
手短に近くにあった木の板を持つが、それを見たアルバンは首を横に振っていた。
「私なら一人で大丈夫ですので、ソーマ様はそこで見ててください」
「でも、俺の能力には時間制限があるからな。この家は三十日で完成させないといけない。流石に一人じゃ厳しいだろう?」
「……でも、ソーマ様に手伝わすなんて――」
アルバンが自分の頭の中で葛藤を繰り返していた。
しかし、ようやく決着が付いたようで申し訳なさそうに言ってくる。
「そうですね……。さすがに私一人ではその時間には間に合いませんね。申し訳ないのですが、手伝っていただいてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、任せておけ!」
改めて木の板を持つと、やっぱりアルバンは首を横に振っていた。
「ソーマ様、まだ木の板は使いませんよ。まずは土台の基礎から作っていきますので」
「――なるほど。たしかに普通ならそうか。やっぱりアルバンは詳しいんだな……」
「私の親は大工でして、昔手伝ったこととかがあるのですよ。まさかこういった場で建物を作るなんて思っていませんでしたが――」
話しながらも手を動かし続けるアルバン。
その手際の良さは思わず感心してしまうほどだった。
「よし、それなら指示はアルバンが出してくれ! 俺たちはそれに合わせて作業をしていくから」
「そ、そんな……。私にはソーマ様に指示なんて……。あっ、ラーレ、その素材取ってくれ。それにクルシュ様にもとてもじゃないけど、何か頼むなんて……。ラーレ、その素材が終わったら木の板を運んでくれ」
「なんで私にばっかり言うのよ!」
ラーレが木の板で思いっきりアルバンを叩く。
「ら、ラーレ、さすがに木の板でつっこむのは危ないぞ……」
「大丈夫よ、峰打ちだから……」
自信たっぷりに言ってくる。
いや、木に峰なんてないぞ……。
思わず苦笑を浮かべ、アルバンの様子を見てみる。
「いたたたっ、さすがの私でもちょっと痛いぞ……」
アルバンは全く効いた様子がなく、軽く頭を触ってる程度だった。
さ、さすが戦闘力に特化してる能力を持ってるだけあるな……。
「え、えっと、遊んでても大丈夫なのでしょうか?」
クルシュが心配そうに言ってくると、作業を再開した。
最初は中々俺やクルシュには指示を出してくれなかったアルバン。
ただ、慣れない手つきで危うそうに見えたのか、いつしか俺たちはにも作業を教えてくれるようになり、最後にはみんなで協力して作業を行っていた。
そして、ついにアルバンの家が完成した。
【名前】 木造の家
【開拓度】 3 (0/20)[戦力]
【必要材料】 C級木材(0/5)
【能力】 『冷蔵庫』1(0/1000)物を冷やすことのできる収納がある。
『水回り』1(0/1000)風呂、便所、水道が使用できるようになる。
【状況】
新築の家。
――ちょっと待て。
俺たちのより良い家が出来上がってしまったのだが……。
そうか、アルバンの木工スキルが作用してるのか。クルシュの採取のように家の出来が一段階上がったのだろう。
「えっと、本当にここが私の家でよろしいのでしょうか?」
完成した家を見て、アルバンが心配そうに聞いてくる。
「もちろんだ、これはアルバンのために作った家だからな」
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
アルバンが嬉しそうに頭を下げてくる。
すると、クルシュがおどおどと手を上げてくる。
「あ、あの……、ちょっといいですか?」
「どうかしたのか? あっ、大丈夫だぞ。アルバンにはまだ俺たちの家には――」
「い、いえ、そちらももう大丈夫なんですけど、この家の完成とアルバンさんがこの町……、いえ、村……、えっと、領地?」
クルシュがこの領地について、どのように呼ぶか少し迷っていたようだった。
まぁ、まだ町とか村とは呼べないよな。
「領地でいいぞ」
「はい、ではアルバンさんがこの領地に来てくれた歓迎会をしたいな、と思ったのですけど、いかがでしょうか?」
不安げに言ってくるクルシュ。
まさかクルシュの方からそんな提案をしてくるとは思っていなかったのだが、これも一緒に家を作るという作業をしたからだろうか?
クルシュの良い傾向にホッとしつつも、驚きで動きが固まってしまっていたら、クルシュが「ダメ……でしょうか?」と再度聞いてくる。
「いや、ダメじゃないぞ! そういえばクルシュやラーレの時も歓迎会をしていなかったな、と思ってな」
「ふ、ふん、まぁ、他ならぬクルシュの頼みなら反対する理由はないわね」
「クルシュ様が私のために……。このアルバン、感動で前が見えません……」
アルバンが感激のあまり盛大に泣いていた。
すると、それを見たクルシュは慌て始める。
「わ、私、何か変なことを言ったでしょうか?」
「いや、そんなことないぞ。むしろ俺たちだけだったら思いつかなかったことだ。よし、それじゃあ今晩は皆がこの領地に来てくれた歓迎会だ! ご馳走を準備しよう。まぁ、この領地で採れるのは野菜だけだけどな……」
「……わかったわよ。それじゃあ私は魚でも釣ってくるわね」
「それなら私は肉でも取ってきますね」
「それじゃあ私は、ラーレさんと一緒に魚を釣りに行きます」
こうして夜にする歓迎会のために皆で食料を集めるのだった。
夜の歓迎会は無事……といって良いのかはわからないが、ちゃんと終えることができた。
アルバンが取ってきた狼を丸焼きにして置いたり、クルシュが取ってくれた魚を焼いてくれたり、ラーレが小さい魚しか取れなかった……と落ち込んでいたり……色々なトラブルはあったが――。
それでも、メンバー同士の仲がかなり深まったような気がする。
そんな中、アルバンがふと聞いてくる。
「そういえば、ソーマ様。この領地を治めてることって、国王様に報告されていますか?」
「いや、今いる人数も人数だから、報告に出向くこともままならなくてな」
「やはりそうでしたか。それならよかったです。私の部下に何のために国王様へ報告するように伝えておきました。神殿からの報告は流石の国もむげにはできませんので」
「神殿って力を持ってるんだな……」
「唯一神の声を聞けると言われるのが、神殿ですからね。さすがに神に喧嘩を売る人はいませんから……」
「なるほどな。それは助かる。このまま放って置いたらいつこの国から襲われるかもしれなかったからな」
「ははっ、もしここが襲われるようなことがあれば、その時は私が全力でお守りしますゆえ、ご心配なく――」
アルバンが頼もしいことを言ってくれる。
ただ、俺自身もできることをしておかないとな。
今はとことん開拓度を上げていく。
そして、領地を強化していくしかないだろう。
◇■◇
シュビルの町の領主邸。
そこで領主、ランデンが少し荒れた様子で執事にむけて叫んでいた。
「ぐっ、ラーレはまだ戻ってこないのか?」
「ここまで戻ってこないとなると、裏切った可能性がありますね」
「お、お前……、ラーレは裏切らない、と言っていたではないか!」
ランデンはテーブルを強めに叩く。
しかし、執事は顔色変えずに答える。
「おそらくは報酬が偽物だとバレてしまったのでしょう。それ以外、ランデン様を裏切るなんて考えられませんので――」
「……やはり一介の探索士に任せるのがダメだったんだ。次は裏切ることのない我が兵士で――」
「大丈夫でしょうか? もし相手が国から領地の承認を受けているのだとしたら、国への裏切り行為とも取られますよ?」
「そんなことをしているわけない。そもそも人がそれほどいる地ではないのだろう? わざわざ王都まで行く余裕すらないはずだ。それでも時間との勝負になる。今すぐに編成をしろ!」
「はっ、かしこまりました」
執事が慌てて部屋を飛び出していった。
それを見て、ようやく邪魔な相手を排除できるとランデンはニヤり笑みを浮かべていた。
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