第15話

 小川へとやってくると、早速クルシュは釣り竿を取り出していた。

 木の棒に糸と針を付けただけの簡易的な物……。



「……そんな簡単な釣り竿でいいの?」

「えぇ、これでたくさんのお魚が釣れますよ」

「ふーん……、そんなものなのね。ねぇ、私にもやらせてくれる?」

「えっと、釣り竿は一本しか作ってなくて……。糸と針はあるので、木の棒さえあれば……」

「それなら俺が持ってるぞ」



 いつもなら武器として使っている木の棒だが、石の槍も持っているので片方なくても問題ないだろう。

 それに、今この状態で襲われたとしてもラーレがいる。


 さすがにこの状態だと手を貸してくれるはずだ。



「それじゃあ、その木の棒をお借りしますね」

「あぁ、よろしく頼む」



 ラーレに渡すと普段の姿からは想像も付かないほどに、器用に釣り竿を作ってくれる。


 それを水晶で調べてみるとしっかり表示が出てきた。



【名前】 ボロボロの釣り竿

【品質】 E[武器]

【損傷度】 7/100

【必要素材】 E級魔石(0/1)

【能力】 筋力+1



 あれっ?

 釣り竿って武器なのか?



 確かに針がついてるし、木の棒の部分はそのまま打撃武器としても使えるのか。



 あと、品質を上げるのがやけに簡単だった。

 おそらく品質を上げたらいい魚が釣れるのだろう。それなら上げておくべきだな。



 そんなことを思っていると、まるで計ったようなタイミングでスライムが出てくる。


 ただ、俺たちが身動きを取る前にラーレが短剣を取り出してスライムを切り倒していた。



「まぁ、こんなものね」



 颯爽と短剣をしまうその姿に俺たちは思わず見惚れてしまう。



「やっぱり凄いな……」

「はい、とってもかっこいいです……」



 俺たちが褒めるとラーレは恥ずかしそうにそっぽを向く。



「ふ、ふんっ、こ、こんな相手、倒せて当然よ。雑魚モンスターじゃない」

「いや、俺が戦うと数十分はかかるぞ……」

「それは、あんたが戦闘職じゃないだけでしょ! 領主なんだから後ろで応援していたらいいのよ!」

「……それもそうだな。せっかくだし、応援でもするか」

「――はぁ!? あ、あんた、本気で言ってるの? 応援なんかいらないんだからね」



 いるとかいらないとか忙しいな……。


 でも、一度くらいスキルは使っておきたいもんな。


 まぁ、ラーレには効果はなさそうだけど、クルシュには効くだろう。



 今の状況だと『鼓舞』スキルになるのか。

 どうやったら発動できるのだろう?



 不思議に思うと水晶に文字が浮かび上がる。。



『鼓舞を使いますか?』

→はい

 いいえ



 あっ、これも水晶から発動するんだ……。

 ますますこの水晶を盗られることは致命傷になりそうだ。

 対策を何かしら考える必要があるな……。



 そんなことを考えながら実際にスキルを使ってみる。

 しかし、『はい』を押しても何か起きた気がしない。



 戦闘がすでに終わってるからか?

 何か効果が発動したのかを調べる方法はないか?



 いや、単純なことだな。

 俺のスキルレベルを見れば良いのか。



 あれは使用回数でレベルが上がっていく。うまく発動しているのなら、回数が増えているはず。

 そう思い、水晶をのぞき込む。



【名前】 ソーマ

【年齢】 24

【職業】 辺境領主

【レベル】 1(0/4)

『筋力』 1(27/100)

『魔力』 1(0/100)

『敏捷』 1(6/100)

『体力』 1(22/100)

【スキル】『鼓舞』1(2/1,000)『激昂』1(1/1,000)



 やっぱり、数字が一つ増えている。

 しっかり、スキルは発動していたようだな。



 どういう効果だったのかはわからないが――。



「それより早く魚釣りを始めましょうよ!」



 ラーレがそわそわしながら俺たちを急かしてくる。

 ただ、さっき倒したスライムの魔石が転がったままになっている。



「ラーレ、スライムの魔石はいらないのか?」

「あの大きさの魔石はお金にならないのよ。欲しいなら上げるわよ」

「あぁ、それじゃあ遠慮なく……」



 それにしてもE級の魔石は値段がつかないほど安いのか。

 もしかすると、安めでも値段を付けるとたくさん買い取ることができるかもしれない。



 まぁ、数が必要な畑の強化は終わってしまったが――。



 とにかく早速釣り竿を強化してみよう。



【名前】 ボロボロの釣り竿

【品質】 E[武器]

【損傷度】 7/100

【必要素材】 E級魔石(1/1)

【能力】 筋力+1


『品質を上げますか?』

→はい

 いいえ



 ここは迷わずに『はい』を押す。

 すると、ただの木の棒に糸を付けただけの釣り竿がしっかりした普通の釣り竿に変わっていた。



「な、何をしたのよ!?」



 驚きの声を上げるラーレ。

 そういえば、ラーレの前で品質を上げるのは初めてか。



「今のはだな――」

「ソーマさんの領主パワーですよ」



 クルシュが笑みを浮かべながら答えてくれる。

 すると、ラーレは呆れ顔を見せていた。



「はぁ? そんなわけないでしょ。明らかに別のものに生まれ変わってるじゃない!」

「そうだな。ただ、クルシュがいってることも間違いじゃないんだ」

「――どういうことなの?」

「俺の領主としての力に『特定の素材があれば、ものの品質を向上できる』というものがある。だから今、釣り竿の品質を上げたんだ」

「そ、そんなことができるはず――」



 ラーレが驚きの顔を見せる。



「も、もしかして、それは薬にも適用され……いえ、何でもないわ」



 薬か……。

 まだあまり試したことはないけど、回復薬には表示されていたな――。



「少なくとも回復薬は品質を上げることができるな。他のは試したことがないが――」

「……っ!?」



 ラーレが指を口にくわえて歯痒そうな表情を見せる。


 ……これはラーレの信頼を得るチャンスか?



「なにか品質を上げて欲しい薬があるのなら言ってくれ。素材を集める必要はあるが、力にはなれると思う」

「そ、そんな……、今更そんなことを……」

「今更も何も領民のために力を尽くすのは領主の役割だ。ラーレもここの領民になってくれたんだから、そのために力を貸すのは俺の仕事だ!」



 ラーレが動揺した顔を見せる。


 もう一押しだろうか?

 いや、ここまで押したのだから一旦引くべきだな。



「まぁ、考えておいてくれ。力を貸して欲しくなったらいつでも言ってくれたら力を貸す。それよりも今は釣りを楽しもう」



 俺は品質を上げたばかりの釣り竿をラーレに渡す。

 一瞬迷ったラーレは釣り竿を受け取りながら小声で言ってくる。



「……ありがとう」

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