第14話

 本来領民だと水晶には能力が表示されるはず。

 でも、ラーレの表示が出てこなかった。

 つまり、領民になったふりをして入り込んできた、ということだろう。



 誰かに雇われた盗賊か?



 いや、それならここまで堂々と来ないか。

 でも、別の目的があるのは確かだろうな。



 さすがにその目的が何なのかまではわからない。


 それにもう一つ可能性がある。

 この水晶が領民として認めるにはなにか条件があるのかも知れない。

 自然とクルシュが認められていたので、領民になろうとしたらなるものだと思っていた。


 ただ、条件があるならそれを探る必要も出てくるだろう。


 とにかく当面はラーレのことを警戒しつつ、馴染んでもらうように頑張ることだな。



「あっ、あとラーレの部屋だけど――」

「私はいらないわ。自分で作るから」



 きっぱりと言い切ってくるラーレ。

 すると、クルシュが驚きの表情を見せていた。



「ラーレさん、家が作れるのですか!?」

「家じゃないわよ。雨風がしのげれば良いのだから、簡単なテントで十分でしょ?」

「それじゃあダメですよ!? お風呂とか入らないと!」

「いらないわ。そんなもの――」

「ダメですよぉ―! せっかくですから一緒にお風呂に入りましょう」

「だから、いらないって……きゃっ」



 ラーレはあっという間にクルシュに引っ張られていった。

 クルシュの力、一しかないのによく連れて行けるな……。


 思わず感心しながら見えなくなるまでその後ろ姿を眺めていた。


 そして、改めてビーンの方に振り向く。



「では、こちらをお受け取りください」



 ビーンが調味料一式を渡してくれる。

 それと引き換えに俺も回復薬を渡していた。


 そして、その後に武器を全部調べて、その損傷度をビーンに伝えていった。






 全ての武器を調べ終わりビーンが帰っていった後、俺は古びた家へと戻った。

 すると、家のリビングにはぐったりとしたラーレが疲れた様子で床に座っていた。



「全く……、あの子は一体何なのよ……」



 髪が少し濡れていたので、しっかりと風呂に入れられたんだろう。



「まぁ、これまで領民は少なかったからな。クルシュも嬉しかったんだろう」

「領? 宿の間違いじゃないかしら?」



 確かに今は辺境宿……にも思えるな。



 でも今はそれよりもラーレに聞いてみたいことがあった。



「どうしてラーレはここに来たんだ?」

「――何でも良いでしょ。私は求人を見てきただけなのよ」

「さっき『なんで私がこんな仕事を……』って言ってたからな。領民になりにきた……というより別の目的があってここに来たんじゃないのか?」

「そんなこと、言ってないわよ。聞き違いじゃないかしら?」



 ラーレはそこで話が終わりだと言いたげにプンッと顔を背けてしまう。


 やはり何か事情があるようだ。

 でも、ここまで表情に出やすいと案外あっさりとその事情もわかりそうだな。


 とにかくそれがわかるまでラーレはそっとしておこう。






 ラーレとの話が終わった後、俺は一人畑の前に来ていた。

 そのときにふととある考えが頭をよぎる。



 ……もしかしてラーレが領民になれてないのは彼女の能力が高すぎるからだろうか?

 何か別の仕事……というのも俺たちが協力すれば簡単に済むかもしれない。

 そうすれば彼女も領民に……。



 いや、これは俺の都合の良い方に考えすぎか。

 とにかく、領地レベルを上げていくという基本方針は変わらない。

 ここを上げていって領地を安定させる。そうすれば安心してこの世界も楽しめるようになるだろう。



 俺は早速、畑の開拓度を上げる。

 すると、農業の開拓度が二になり、少し畑が広がっていた。


 ただ、領地レベルは一のままだった。




【領地称号】 弱小領地

【領地レベル】 1(4/4)[庭レベル]

『戦力』 2(2/15)

『農業』 2(0/15)

『商業』 2(2/15)

『工業』 2(13/15)


『領地レベルを上げるためのクエストに挑戦しますか?』

→はい

 いいえ




 クエスト……か。

 つまり、この領地自体を広げるためには何かのイベントをする必要があるんだな。



 でも、こういうイベントで多いのは、強敵の討伐だ。

 辺境の領地で周りに強力な魔物が住んでいる……という前情報があるのだから、そうなる可能性は高そうだ。

 そう考えると今はまだ挑戦するわけにはいかない。



 クルシュはまともに戦えない。

 ラーレは領民ではない。

 武器は石の槍か木の棒しかない。



 流石にこんなナイナイづくしの状態で、討伐クエストをするのは頭がおかしいだろう。


 特に依頼失敗が命を落とすかもしれない可能性を考えたら、今は保留にして置くより他ない。

 せめてラーレが一緒に戦ってくれるようになったら勝算はあるが。



 とりあえず、まずはラーレの目的を探って領民になってもらう、もしくはクエストを一緒にしてもらえる方法がないかを探してみよう。






 翌日、交流も兼ねてみんなで小川の方へとやってきた。



「どうして私が――」



 最初は不満を垂れ流していたラーレだが。



「そう言わないでください。この小川から取れる魚がとってもおいしいんですよ」

「美味しい魚!?」



 クルシュの言葉にラーレは一瞬目を輝かせていた。

 しかし、すぐに咳払いをして霊性を取り戻した風を装っていた。

 ただ、尻尾は激しく揺れているし、まだよだれが流れている。



 まぁ、猫の獣人だもんな。

 耳と尻尾以外は完全に人だけど……。


 魚が好きなのは全く違和感がない。



「たくさん取って食べましょうね」

「わ、私は別に興味ないんだからね。で、でも、あんた達がどうしてもって言うなら仕方なく協力してあげるわ」



 嬉しそうに尻尾を激しく揺らしながらラーレはクルシュの後を追いかけていった。




◇◇◇




 ソーマの領地からスライムの森を抜けた先にあるシュビルの町。

 そこの領主は面白くなさそうな顔をしていた。

 その手元にある魔法の地図には現在の領地が描かれていた。

 ただ、いつの間にかすぐ隣に小さく別の領地ができていたのだ。

 これを面白く思う領主はいないだろう。



「いきなり我が領地の隣に別の領地ができた件、どうなった?」



 そばに控えていた男に確認を取る。



「はっ、そちらなら現在、探索士のラーレに調べさせております。数日もあればその原因や、敵の戦力等、全て調べ終えると思います」

「ラーレか……。少し生意気なところはあるが、扱いやすい奴だからな。ただ、能力はそこまで強いわけでもない。……寝返ることがないか?」

「もちろんにございます。そのために仕事の報酬として、彼女が探していた伝説の鉱石が眠る場所の行き方を記した地図を渡す約束をしています。もっとも偽物ですが――」

「くくくっ、よくやってくれた。ラーレが戻ってきたら、あとは私の領地を奪ったやつに後悔させるだけだな」



 領主はにやり微笑んで笑い声を上げていた。

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