第10話

「ご、ご、ごめんなさーい。私、ミスをしてしまって……」

「いや、今のは不可抗力だろう? なら仕方ないことだ。それよりもさすがにこうも暗かったら手元が狂って当然だろう? 明るくなってからもう一度戻ろう」

「えっ、怒らないのですか? 給料の天引きとか叩いたりとか……」

「そんなことをしても仕方ないだろう? まぁ、明日も生えてくるから大丈夫だ」

「あ、ありがとうございます」



 クルシュは大袈裟に頭を下げていた。



「いや、気にするな。それよりも明るくなったらここでの仕事を教えるから……」

「は、はい。よろしくお願いします」






 日が昇ってからクルシュに新しく仕事を教え始めた。

 しかし、クルシュのミスは続いていた。


 野菜を採取してもらい、それを家の中へ運んでもらおうとすると転んだバラバラにしてしまい、それを調理(焼くくらいしかできないが)してもらおうとすると、真っ黒に焦がしてしまう。



 なるほど……、確かにここまでミスを繰り返すのならメイドとして働けないのもよくわかる。


 すっかり落ち込んでしまったクルシュ。


 さすがにかける言葉が見つからずにその背中を眺めていた。

 その時にふとクルシュが持っていた能力を思い出す。



【スキル】 『採取』4(61/2500)『釣り』2(37/1500)『給仕』1(0/1000)



 上がらない給仕スキルは置いておく。

 『採取』と『釣り』。


 『採取』は農作業関連だと思ったけど、メイドのクルシュが畑を耕していた……なんて姿は想像できないもんな。

 それなら――。



「クルシュ、金がなかったときは何を食っていたんだ?」

「何って草むらで食べられる草を探して――」

「わ、わかった、もういいよ」



 やはり、採取というのは草などを採るスキルのようだ。

 ……いや、それだけでスキルになるというのもおかしいな。



「例えばこの辺りだとどんな草が食えそうなんだ?」

「そうですね……。例えばあれとかでしょうか?」



 クルシュが実際に草を取ってきてくれる。



【名前】 いやし草

【品質】 D[雑草]

【損傷度】 0/100

【必要素材】 C級魔石(0/5)

【鍛冶】 いやし草(0/10)→回復薬(D級)



 ちょっと待て!!

 どうしてこんなところにD級の素材が生えているんだ!?


 少なくとも俺はこの領地内を色々と調べたはず。

 E級の素材ならあったが、D級のものは一切なかった。


 それをどうしてこんなにあっさり見つけることができたんだ?


 不可解な現象に思わずクルシュの顔をじっくり見る。



「あ、あの……、私、また何かしちゃいましたか?」



 不安そうな表情をしてくるクルシュ。

 何かミスをしたと思ったのだろう。


 ただ、俺からすればこの結果のおかげで色々とわかることがあった。


 クルシュがD級素材を採取できたことが偶然ではない……と考えると理由は一つ。

 『採取』スキルが作用したとしか思えない。


 それを確かめるのは簡単だ。



「すまない、もう一つ今と同じ草を探してくれるか?」

「同じ……ものですか? これでいいですか?」



 クルシュがすぐ側に生えていた草をむしり取って渡してくる。



【名前】 いやし草

【品質】 D[雑草]

【損傷度】 0/100

【必要素材】 C級魔石(0/5)

【鍛冶】 いやし草(0/10)→回復薬(D級)



 やはりD級の素材だ!

 これで確定だな。


 一定以上のスキルレベルがある人が採取すると素材のレベルが上がる。


 『採取』スキルがどこまで影響するかはわからないが、木の枝とかにも作用するなら、古びた家を更に強化することも――。



「よし、それなら次は木の枝を拾ってくれないか?」

「……? わ、わかりました……」



 慌てて側に落ちていた木の枝を拾ってくれる。



【名前】 木の枝

【品質】 E[木材]

【損傷度】 0/100

【必要素材】 D級魔石(0/5)

【鍛冶】 E級木材(0/10)→木の棒



 ……うん、さすがにこっちは変わらないか。

 採取レベルが足りないのか?


 これも要検討しないといけないな。

 ただ、クルシュの能力はこれ以上ないくらい俺の役に立ちそうだ。


 特に開拓度を上げていく……という一点においては必要不可欠になるだろう。



「あ、あの……、そ、その……、やっぱり私、ご迷惑しかおかけしませんよね? それなら遠慮なく私をクビにして――」

「いや、そんなことするはずないだろ!! クルシュの能力はとても魅力的なものだ!」



 他に品質を上げる方法があるのかはわからないが、とにかく当面はクルシュの能力頼みになる。

 こんなトンデモ能力の持ち主を手放すわけにはいかない。


 しかし、クルシュは顔を真っ赤にして、目からは涙を流していた。



「そ、その……、わ、私、そんなこと言われたの初めてで……。あ、ありがとうございます。わ、私、頑張ります!」



 必死に涙を拭って笑みを浮かべてくる。

 さすがに泣かせるつもりがなかった俺は少し困って自分の頭を掻いていた。



「まぁ、できることをしてくれたら良いよ。とりあえず、今日はこの草を集めてくれるか?」

「はいっ! 全力でたくさん集めて見せます!!」

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