第9話
「では、私はこれで失礼いたしますね」
ビーンが軽く頭を下げて去って行った。
さすがに疑いすぎただろうか?
どうにも商人というだけで利に目聡い、何でもしてくる相手……という印象があってダメだな。
当面は人の募集はビーンに任せておけば良いだろう。
それにいきなり大量に連れてこられても困るわけだしな。
それにしても、ボロ小屋を優先して開拓度を上げて正解だった。
古びた家になってから部屋数が増えていた。
さすがにクルシュと一緒の部屋に寝る……というわけにはいかないからな。
「それじゃあクルシュはこっちに来てくれ。部屋に案内する」
「はい、お願いします」
俺はクルシュを領地の中へと案内していった。
「見ての通り、今の領地はこれだけなんだ」
初めてこの世界に来たときよりはずいぶんと発達した。
植えられる野菜が増えていくにつれて広くなっていった畑。
物置小屋にしか見えなかった小屋も今では古家になっていた。
あとは木の棒や石の槍が至る所に転がっていた。
……どこからどう見ても隠れ家にしか見えないな。
そして、それはクルシュも同じだったようだ。
「えっと、ここがお話にあった領地……でしょうか?」
「まぁ、領地には見えないよな。ここからしっかりとした町へ成長させないといけないんだが、どこから手を付けるにも俺一人じゃどうすることもできなくてな……」
「わ、わかりました。私にできることでしたら何でも言ってください!」
クルシュが気合いを入れてくれる。
確かクルシュの能力に『採取』の能力があったな。
しかも、中々レベルが高かった。
それなら畑を任せるのが良さそうだな。
「それじゃあ、明日からあの畑の野菜を任せても良いか?」
「畑……ですね。わかりました。農作業は初めてですけど頑張りますね」
腕まくりをして気合いを入れるクルシュ。
いや、そこまで頑張ることはないと思うが、……まぁ、今までミスをして首になってきたわけだもんな。
ヤル気になっていてもおかしくないか。
あと、クルシュがこの領内の開拓を行えるのか。
その場合、開拓度は上がるのか。
あと、クルシュ自身の能力がどう上がるのか。
それと、俺自身の能力もだ。『鼓舞』と『激昂』がどういった能力なのかはきっちり調べておく必要がある。
そう考えると調べるべきことはたくさんあるわけだ。
領内の開拓も同時にしつつ、そこを強化していく……。
ただ、古びた家はこれ以上強化することができない。
D級素材を探すこともやらないとな。
他にもこの世界の知識を得ていくのも必要だ。
「ちょっとまて……。やること、増えてないか?」
「……? どうかしましたか?」
「いや、気にするな。それよりも明日からは大変になる。今日は早めに寝ようか」
「はいっ!」
笑顔のクルシュを部屋へ案内した後、俺は自室へと戻る。
翌日、どうにも眠れなくて早起きしてしまう。
すると家の外から『ザクッ、ザクッ……』と変わった音が聞こえてきた。
「……んっ? 何の音だ?」
この領地には俺だけしか……。いや、昨日からクルシュもいるんだったな。
それじゃあこの音はクルシュが出してるものか?
一体何をしているんだ?
窓の外を見ると、まだ日も上っておらず真っ暗だった。
特にここは照明が家の中以外にはないので、家の外は闇夜が広がっていて、ろくに歩けないはずなのに。
もしかして、この領地を壊そうとなにか企んでいるのか?
さすがにそのままにはしておけず。俺は音が聞こえてくるクルシュがいると思われる場所へ向かっていく。
すると、クルシュは腕まくりをして畑の側を木の棒で叩いていた。
「んっしょ、んっしょ。あっ、ソーマさん、おはようございます」
「あぁ、おはよう。……それより何をしているんだ?」
「えっと、畑作業です。確か畑って朝早くから仕事をするものだって聞いた覚えがありますので――」
「いや、それはわかるがなんで木の棒で地面を叩いているんだ?」
「本当はクワが欲しかったんですけど、これしかなかったので、これで畑を耕しているんですよ」
「……やっぱりそうか」
まぁ、地面を叩いている理由なんてそれくらいしか思い浮かばないもんな。
ただ、それが畑になにか効果があるとは思えないのだが――。
苦笑を浮かべつつ水晶で畑を見てみる。
【名前】 荒れた畑
【開拓度】 1(7.0001/10)[農業]
【必要素材】 E級魔石(0/3)
【状況】 キュウリ(7/7)トマト(7/7)キャベツ(4/4)
ほらっ、数字はほとんど変わってない……あれっ?
よく見ると開拓度の数字に小数点以下の文字が加わっていた。
一応こうやって畑を耕したりとか、本来畑にするようなことをしても開拓度は上がるのか。
……いや、普通はそうやって畑を育てるんだもんな。
それだけでもわかっただけで上出来だ。
上級の素材はそれだけ手に入れにくくなる。
それならこうやってちょっとずつ数字を上げていった方が早い場合もあるかも知れない。
「それじゃあ、私は畑作業に戻りますねって、あわわわっ……」
クルシュはつまずいてしまい、そのままトマトの上に木の棒を振り下ろしてしまっていた。
もちろんそのトマトは粉々に砕け散ってしまう。
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