第6話
「あんたは一体……?」
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私はビーン、王都でそれなりの商会を営んでいるものになります」
商人か……。
それならなおさら俺に声をかけて来た理由がわからないな。
もし、俺が盗賊だったなら問答無用に襲われていたところだぞ?
俺が訝しんだ視線を送っていることに気がついたのか、商人は笑みを崩さずに言ってくる。
「あなた様が考えていることはわかります。いきなり声を掛けてきたので警戒しているのでしょう」
「いや、俺が……というよりあんたが……だけどな」
「私が? ははっ、さすがの私でも石の槍で魚を捕ろうとしてる愉快な人を目の当たりにしたら、警戒心なんて吹き飛んでしまいましたよ」
あぁ、さっきの姿を見られていたのか。
それならまだわかるな。
つまり良いカモだと思われたようだ。
まぁ、俺としてもこの世界の情報が欲しいところだ。
「それでこんなところで何をしていたんだ? 俺の領地くらいしかないはずだが?」
「えっと、領地……といいますと?」
あっ、やっぱり気づかれないくらいに小さいんだ、うちの領地……。
まぁ、俺一人しかいないし、隠れ家……の方が正しそうだもんな。
「まぁ、それは気にしなくて良い。それよりお前は一体何をしていたんだ?」
「私はただ、隣の町へ買い出しに行っていたのですよ。商品は見ての通りです」
商人が背中を見せてくる。
どうやら町はちゃんとあるみたいだな。
「せっかくですから仕入れた商品を見ていきませんか? 良いものが揃っていますよ」
商人が背中のリュックをガサゴソと漁り、一本の剣を取り出してくる。
「見てください、この剣を。かの有名なミスリルで仕上がった最高品です」
青みがかった白銀の刃を持つ剣。
確かに見た目からしてかなり高級そうな武器だ。
まぁ、買うことはできないが、その性能は見ておいて損はないだろう。
水晶を取り出すとミスリルの剣の性能を確かめる。
【名前】 ミスリルの剣
【品質】 B[武器]
【損傷度】 99/100
【必要素材】 A級魔石(0/100)
【能力】 筋力+15
確かにかなりの性能を持っているようだ。
でも、気になるのは損傷度。
これって、かなり壊れかけているんだよな?
そんなものを普通の武器として売るのか?
やっぱり信用ならない相手のようだ。
「まさか、これを普通の値段で売るつもりか?」
「いえいえ、お近づきの証に通常の半額、なんと金貨十枚でお譲りしたいと思います」
「ほう、それほどのものを半額……か」
「どうされますか?」
「……舐められたものだな、俺も。その程度の武器を売ってくるなんてな」
「ど、どういうことでしょうか?」
「その剣、もうすぐ壊れるものじゃないか。そんなものを買わせようなんて馬鹿にされているとしか思えんぞ!」
「そ、そんなことは……。お、おい、この剣を振って見ろ」
護衛の女性に剣を渡す商人。
「なんだい、この剣を振ってみたら良いのかい?」
しっかり剣を握りしめると、力の限り振るう。
少し距離があるのに剣を振ったときに出た風が俺の下まで届いていた。
それと同時にミスリルの剣が粉々に砕け散っていた。
「なっ!?」
驚きの声を上げる護衛の女性。
商人も目を大きく見開いていた。
「ほ、本当に壊れかけていたのですね……。でも、どうしてそれを?」
どうやら商人は本当に何も知らなかったようだ。
そうなるとたまたまか?
いや、格安で仕入れたのかも知れない。
「よ、よかったら他の商品も見てもらっても良いですか? ほ、報酬はしっかり支払いますので――」
商人が手をこねくり回して、前以上に笑みを浮かべていた。
なるほど、確かに損傷度は武器を使う者にとっては貴重な情報だ。
商人にとっては喉から手が出るほど欲しいのだろう。
それなら俺も欲しいものを要求しても良さそうだ。
今、俺の領地に必要な物は……うん、明らかに人材だな。
人がいないと俺の力を全く活かせない訳だからな。
「それなら一つ頼まれてくれるか?」
「はい、なんでしょう? どのくらいで壊れるかの情報が手に入るのなら、私ができることはやらせていただきます」
「あぁ、今俺の領地は人手が全く足りていないんだ。だから、誰でも良いから俺の領地に来たい奴がいないか募集をかけてくれないか?」
「そのくらいでしたら構いませんが、そんなことでよろしいのでしょうか?」
まぁ、募集だけなら簡単なことだもんな。
ならばもう一つ頼んでおこう。
「あとは俺の領地には商店もない。まぁ、今は庭ほどの大きさしかないからな。だからこそたまに行商に来てくれないか? それに今回持ってきた物以外にも俺に見てほしいものとかあるんだろう? あんたのところなら格安で引き受けるぞ」
どうせなにか労力を使っているわけではない。
それが金に変わるのなら俺にとってメリットしかない。
しかし、それは商人にとっても同じようだ。
「かしこまりました。これからもぜひよろしくお願いします」
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