第5話

 翌朝、目が覚めるとまず畑を見に行く。

 すると、俺の予測通りにキュウリが生えていた。


 やはり一日経つと数字は回復するようだ。


 ただ、トマトの方は依然としてゼロのままだった。

 これは畑の開拓度を上げてから一日……と考えるのが良さそうだな。


 そして、石の槍と木の棒改(勝手に俺が名付けた。実際はE級木材で品質を上げた木の棒)を持つと、一応領地……となっている部分をまず調べていくことにした。


 これはどういうわけか感覚でわかるようになっていた。

 領地の外に出たら、ここから外は魔物が出てくる……とか。

 だからこそ、そのギリギリのラインを見極めて、木の棒改で線を引いていく。


 すると直径三十メートルくらいの円が出来上がった。


 俺だけが住む……と考えると十分すぎるほどの広さだが、領民の力を上げることのできる領主として考えるならイマイチだ。


 早く誰か領民となってくれる人を探したい。

 そのためには領地の範囲を広げるしかないだろう。


 そうなってくると俺が次に上げるべき数字は【領地レベル】だろう。


 なにも移さずに水晶を見たときに現れる俺自身の能力。

 そこに表示されていた領地レベルというのがおそらくこの領地の広さを表しているのだろう。隣に[庭レベル]とも書かれていたし。


 でも、そのためには四つの数値を上げないといけない。



【領地レベル】 1(0/4)[庭レベル]

『戦力』 1(1/10)

『農業』 1(1/10)

『商業』 1(0/10)

『工業』 1(3/10)



 前見たときより数字が上がっているのは、小屋を治したり実際に鍛冶をしたりしているからだろう。

 ただ、まだまだ次の数字までは届かない。それに、商業……。

 こればっかりは人に会わない限り、どうやっても上げようがない。


 そのためにもこの領地周囲には何があるのか……。

 それをじっくり調べていく必要がある。


 まずは小屋の出口を北と仮定して(日の出入りから判断)、西側は昨日俺がスライムを狩りに行ったところだ。


 スライムの森と名付けておこう。


 奥の方までは進んでいないが、今はまだ行ったことのない場所を見ておきたい。

 今日はまっすぐ北に進んでみることにする。


 小屋のドアが向いている……ということは、本来人が行き来する道はそちら側……ということなので、もしかしたら人が通った痕跡のようなものが見つかるかもしれない。



「よし、早速行ってみよう!」







 しばらくまっすぐ進んでいたが、確かに森のような障害物もなかったが、人が通った痕跡もなく、草木生い茂る原っぱがまっすぐ広がっていた。


 先の方まで見通せるのは良いことだけど、少なくとも目に見える範囲で、村や町のようなところは見えない。

 所々狼や獅子みたいな魔物が歩き回っているくらいだ。


 まだ距離があるから問題ないが、ここを通り抜けるのは至難の業だろう。


 そうなると次の場所だ。


 一旦小屋に戻ると今度は東側を進んでいく。

 すると、しばらく歩いた先に綺麗な小川を発見する。


 川の底が見えるくらいに透明感があり、飲むには問題ないように思える。



 ……ゴクリッ。



 昨日から飲み物を飲んでいなかった俺は思わずのどを鳴らしてしまう。

 そして、川へ向かって駆け出すと、試しに一口飲んでみる。



「うまい!!」



 冷えた水が渇いたのどを潤してくれる。

 これから飲み水はここで確保できそうだ。


 更にこの川には魚が泳いでいるようだ。

 あれを取ることができたら、空腹を満たすこともできるだろう。


 ただ釣り道具はなく、網といった類いのものもない。

 手にあるのは石の槍。


 これを使って銛のように突く。

 それしか魚を捕まえる方法はないだろう。


 イメージするは取れた魚を高々と上げ、大声で叫んでいる自分の姿。


 俺ならできるはず。

 じっくりと魚に狙いをつけて、思いっきり放り投げる。


 すると、魚たちはそれをすり抜けていき、槍は川底に刺さっていた。



「くっ、やっぱり初挑戦でうまくはいかないか。それなら成功するまで何度も挑戦するだけだ!」



 俺は再度気合を入れると、石の槍を構えて魚に狙いをつける。






「はぁ……、はぁ……。そ、そう簡単に捕まえられるわけないか……」



 幾度となく挑戦をしたが、結局そんな俺の努力を嘲笑うかのように、魚たちは槍のそばをすり抜けて、優雅に泳いでいた。



 まぁ、そんなに簡単に魚が取れるなら誰でも取ってるよな……。



 川の側で大の字になって寝転がっていると突然知らない男の声が聞こえてくる。



「こちらで何をされていたのですか?」



 声のした方に振り向くと朗らかな笑みを浮かべた恰幅のいい男性がいた。

 その背中にはたくさんの荷物が積み込まれたリュックが背負われていた。



 一体こんなところにいる誰とも知らない人に声をかけてくるなんてどういう理由だ?


 特に戦える男には見えないが、周りに魔物があるような地に一人で――。



「おーい、ビーンの旦那。そろそろ休憩は終わりにしないか? こんな何もない地にいても仕方ないだろう?」



 遠くの方で大事な部分だけを鎧で隠した、ゲーム画面でしか見たことがないようなビキニアーマーを着た女性が手を振っていた。



 あっ、見えないところにいただけでしっかり護衛はいたのか。



 明らかに戦闘職の女性だ。

 ああいった人に仲間になってもらえると領地開拓も一気に捗るんだけどな……。

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