第4話 取 説 〜兵隊と使い魔〜

「山で動物に食べ物を見せるな。見せれば人間は食べ物を持ってると思われて襲われるケースが増える。与えるなんて言語道断だ。

いいか?我々の使う訓練地域には野生生物がいる。彼らにも生活があるから、それはしょうがない。だが、一時の善意で人間の世界に踏み入れる機会を与えるな。その行為は絶滅を早めるだけだぞ。」

















庄野は3匹の動物と共に西にあるという国を目指して歩いていた。


1匹はダンプポーチの中に。

1匹は庄野の背負っている背嚢の上に。

1匹は鉄帽の上に。

3匹の動物、もとい使い魔は出会ったばかりの庄野に懐いていた。



(はぁ・・・。

過去の教育で餌付けについてはよく言われていた。にも関わらず、3匹の動物に結果として餌付けしたのは失態だ。元を辿ればダンプポーチを落とした俺が悪い。破れてはいなかったから、どこかで弾帯を外したときに取れたんだろう。

何にせよ、一時的に紛失したんだ。愚の骨頂だ。


使い魔ねぇ・・・。どういった動物なのか全く検討がつかない。そもそも、こいつらの食べるものもわからないな。一緒に生活していくことになるんだろうが、その辺はどうするか。


迷彩服じゃあ色々と目に付く。

食事はどうするか。

住む場所は。


衣食住をどうにかしないと、何も出来ずに野垂れ死にだ。


そういえば、こいつらによく似た人形が一時期流行ったことがあったな、確かカ○バラさ・・・ん?)










遠くの方に屋敷のような建物が見えた。サリアン王が納めていた城に比べれば小さい城だが、庄野から見れば立派なものであった。


門をくぐると、お世辞にも綺麗とは言えないが使い込まれた鎧を着た老兵が門のそばに立っていた。


(門番・・・じゃなさそうだ。

とりあえず、あの鎧を着ているお爺さんに話を聞いてみるか。)




「すいません。」

「・・・ワシにようかね?」




「サリアン王にここへ来るように言われたのですが。」

「ふぅむ?サリアン王からかね?

どういった要件だね?」




「騎士がいないと言われました。」

「・・・ほぉ、騎士ねぇ。

使い魔3匹も連れてるをよこすとは、王も太っ腹だねぇ。そしたら、サクラ様にお会いになるね。そうら、案内しましょうかね。」


「ありがとうございます。」

(英雄・・・ね。

使い魔にそれだけの価値があるのか?)




庄野は老兵と共に屋敷へと向かった。その道中はサリアンとは違い、街としての活気は無いものの、住民の顔には柔らかさがあった。










(似てるな、実家の田舎に。)









屋敷につくと、大きなテーブルと古い時計しかない部屋に案内された。


「ここでお待ち下さいね。姫様をお呼びしますね。ま、堅苦しく構える必要はないですからねぇ。」




軽く会釈をして案内をしてくれた老兵は部屋を出ていった。

庄野は椅子に腰かける。

3匹の使い魔も床にぐったりと倒れるように横になっている。



(・・・20時間以上も歩き続けているんだ。こいつらも疲れているだろう。


俺も疲れたな・・・。

食事でもとるか。

確か、ダンプポーチの中に予備の食料が・・・。


あぁ、予備はこいつらに食われたんだ・・・。



・・・少し、休むか・・・。




屋根のある場所は・・・落ち…着・・・。)















数分後、一人の女性が部屋に入った。




「失礼します。初めまし…。

・・・ええと・・・。」



部屋には、椅子に座ったまま眠っている男性と床で寝ている3匹の使い魔がいる。

驚きはしたが、その女性は庄野を起こすこともせず、庄野の隣の椅子に座り、起きるのをずっと待っていた。

















(・・・ん。

しまった、寝てたな。)




「おはようございます。よく眠れましたか?」

「・・・そうか、死んだのか。俺は。」



寝ぼけているのか、庄野と女性の会話は平行線を辿っている。



「あの・・・生きてますよ?」

「起きて早々にこんな綺麗な女神様に会えるわけがないです。」



「女神だなんて・・・。あの、起きてくださいっ!」

「起きてますよ、女神様。

俺は、地獄に行くんですかね?」


全く会話が成立せずに何度も言葉を交わす。

その中で庄野は何度も「可愛い」「素敵だ」と女性の事を褒めてばかりだった。



「うぅ・・・。ホントに寝ぼけてるんですか?

…もう!起きてくださいっ!」

「・・・ん?

あぁ、待っている間に寝てしまったみたいで、申し訳無いです。」

 


「・・・私と会話してた内容、覚えてます?」

「え、会話してたんですか?

すいません、失礼な事を申し上げていたなら謝罪します。」



「覚えてないなら、良いです。お疲れのようでしたし。

改めて、名前を伺ってもよろしいですか?」

「庄野哲也です。」



「てつや様ですね。私はサリアン王の三女、サクラと申します。

使い魔は『コピードール』、しかも3匹と契約されてるのですね。お父様に感謝しないと。」

「コピー・・・?同時契約?」




「あら?お父様からのお話を受けなかったのですか?」

「全く。そういった内容については伺ってないです。恐らくですが…」




庄野はサリアン王と会ったときに使い魔を連れていなかったこと、サリアン王からここで騎士としてサクラ姫に仕えるのが良いとしか言われていないことを説明した。








「そうでしたか。では、てつや様について、そして使い魔について私が説明しますね。」






簡単に説明すると、以下の内容であった。


・この世界には昔から魔法がありふれており、そのおかげで弓や剣といった武器の進化が無かった。


・ある時、魔物が現れた。強力な魔物は魔法への耐性が高く、倒すことができなくなっていた。


・この世界を救ったのは、魔物を討伐する能力(武器や強力な魔法、使い魔)を持つ異界人だった。


・異界人の功績で、魔物は数百年前に滅びた。


・魔物がいなくなり、武器が不要になり始めた辺りから異界人=弱者となった。




(なるほど。魔物に対抗出来たのは異界から来た人間だけだった。しかし今は不要の時代になった。


ということか。俺に対する門番の暴言もそういった所からなんだろう。)







「てつや様が不当な扱いを受けたのは、そういった所からだと思います。では、使い魔についてですが・・・」



・使い魔には大きく四種類あり、『戦闘型』『補助型』『回復型』『特異型』がある。


・『戦闘型』は攻撃特化、ドラゴンやワイバーンなど、単体で軍隊を壊滅させるほど強力である。


・『補助型』は魔法特化、グリフォンやゴーレムなど、単体の能力は戦闘型に劣るが、魔術師の魔力を増幅したり壁となり援護をしてくれる。


・『回復型』は治癒能力があるユニコーンやフェニックス。


・『特異型』は戦闘能力が低いが個体ごとに特殊能力を持つもの(コピードールは特異型)。


・使い魔は1人1匹との契約が限界とされている。しかし、契約者が異界人の場合、多数連れていることがある。


・サリアンでは、異界人がどのクラスの使い魔を持っているか、何匹の使い魔を引き連れているかで評価をされるようになってきた。




「・・・というわけです。」



(概ね理解できた。

時代の流れだからしょうがない話だろうが、『強さ』というものの解釈が変化してこうなっているんだろう。

昔は強力な魔物でも倒す事が出来る『武力』だったが、今は漠然とした『魔力の大きさ』で評価されるようになった、と。評価対象になる魔物が現れないって話じゃあしょうがない事か。


つまり・・・。)






「ありがとうございます、概ね理解できました。一つ尋ねたいのですが、西の都に俺以外に異界から来た方はいないんですか?」



「いえ、いませんよ。それと、ええと、その。てつや様の能力をお聞きしても良いですか?」








庄野はサクラ姫に『自衛隊』について、持っている『銃』について、さらっと説明をした。


(どうせあの王様の娘だ。顔立ちは綺麗で話し方も丁寧な女性だが、鼻で笑って終わりだろう。まともに説明する時間も惜しい。

とにかくここで生活の基盤を確立出来たら元の世界に帰る方法を探そう。)








「以上が俺の能力がです。」

「分かりました。では、これからよろしくお願いしますね。」




「それだけですか?使えない異界人が来たのに落胆もされないんですね。」

「ふふ、謙遜しないでください。コピードールの能力が開花すれば、あなたはこの世界で最高の騎士ナイトになります。時間はありますから、ゆっくり頑張っていきましょうね。」



「・・・はい。」






金色の長い髪を揺らしながら笑顔で庄野を見つめる。

顔に熱が帯びていく。その感覚だけが庄野の思考をボヤけさせ、『はい』という一言だけ返答をした。








(・・・認められる、という事に喜びを感じるのは久しぶりだ。素直に喜んでしまった。

よし、まずはこのコピードールの能力を把握、じ後は俺の武器が通用する戦い方を模索していく。

元の世界に戻る方法を探すのはそれと平行的に行っていこう。)










話の後、庄野は老兵に別の部屋に案内された。中はビジネスホテルの綺麗な部屋とまでは言えないが1人の人間が住むには十分だった。








「今日からここで寝泊まり出来ますからね。


あぁ、暗い話をしたくないんですけどな…。もし、何か思う事があって、ここを離れたくなりましたら、


言わず出ていっても構わない、過去の異界人も同じように出ていったから。・・・ですか?」



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