第3話  現 実 ~異世界最弱の兵隊~

「防衛大学校卒業、空挺、レンジャー、格闘、遊撃持ちの特戦群出身!体力、射撃共に特級。庄野ぉ、お前に勝てる自衛官なんてこの世にいねぇって!

あっはっはぁ!でもな!酒の飲める量なら俺の方が上だ。さぁ、飲もうぜぇ!」






気さくに飲みに誘ってくれた同期同僚は皆庄野の歩んできた道とその能力を高く評価していた。もちろん他の自衛官でも上記の文章だけ見ても『優秀』と分かるような内容である。
















自衛隊においては。
















庄野は大きな扉を開け、謁見の間へと入る。


(想像どおりの光景だな。よくわからないほど無駄にデカイ椅子、王と俺の間にある微妙な階段、やたらと赤い絨毯とカーテン。


そして・・・椅子に座って偉そうにしている、典型的なヒゲオヤジ。

どこの世界でもここは同じなのか。)





「頭を垂れる必要は無いぞ、異界の賢者よ。ワシがサリアン王だ。」

「失礼します(異界・・・)。」




「さて・・・いくつか質問をさせてもらうぞ。

1つ。何か特別な力を得たような感覚は無いか?」

「ありません。」



「ふむ。

では、1つ。何か特別な生き物を連れてはいないか?」

「いません。」



「・・・では。

この石に触れてみるがいい。」

「はい。」



庄野は用意された水晶玉のようなキレイな球体に触れる。

何も反応しない。






「・・・もういい、わかった。」

「えっと、すいません。

何がわかったんでしょうか?」





サリアン王は大きなため息をつく。

何も発言しなくても『そんな事も知らないのか』というような表情であることがうかがえる。



伝えられた内容は3つ。


・異界の森から来た人間は特別な能力を持っていることがあるが庄野には無い


・強力な使い魔を数匹連れていることがあるが庄野には無い


・とても強い魔力を持ってる人間が水晶玉に触れれば色が変化するが、庄野は無反応




「・・・という事だ。」

「はぁ。

で、俺はどうなるんでしょうか。」




「んん、そうだな・・・。」





長い静寂のあと、サリアン王は口を開いた。


庄野はサリアン王から『お前この世界じゃ雑魚だから他の所に行ってくれ』という内容をそれはそれは丁寧に説明を受けた。




「・・・と言うわけだが。」

「あの、俺には銃という武器があるんです。鉄の塊を高速で発射して、相手に致命傷を与える武器です。」

 


「その肩にかけているものか。

尋ねるが、どんな鉄の塊でも発射できるのか?その鉄の塊は幾らでもあるのか?」

「いえ・・・特別なもので、数に限りがあります。」




「そうか。では、これ以下だな。」

「ッ!」



サリアン王が人差し指を庄野の方へと向けた瞬間、指先から高速で何かが発射される。

その何かは庄野の頬をかすめ、パァンと弾ける音と共に壁へ直撃し、床へと落ちた。



水鉄砲ウォーターショット。子供でも扱える低レベルの水魔法だ。とはいっても、当たれば骨は折れる、頭に当たれば脳震盪を起こす。水も、発射する速度も、全て魔法で生成出来る。壁に穴が空くと困るから最小まで威力を抑えた。魔力さえ尽きなければ何度でも撃てる。

その銃とやらは、この魔法より優れているとは思えないが、どうなんだ?」

「・・・。」




庄野は何も言い返せなかった。



(・・・当然だ。無限に使える水の弾丸と有限の鉛玉じゃ優劣がはっきりしている。

使えないと言われても仕方ない。)










「ううむ・・・そうだ、この国から西に数キロ先に小さな国がある。我が娘、サクラが統治しておる。そこの騎士がいなくてな。

お主、ええと・・・とにかく兵だったのならそこで娘のために力をふるってほしい。」

「はい(サリアン王の歯切れが悪い。銃を考慮しても、この世界で兵隊を名乗るには不十分ってことか・・・)。」










庄野はトボトボと城門に向かって歩く。

目的地の情報を得るべく、門番に西の国の情報を聞く事にした。

門の前には庄野の帰りを待っていたかのように、森からつけていた例の3匹もいる。



(・・・あの3匹、まだいるのか。

わざわざ森を出て、何がしたいんだ?)










「西の国の情報が欲しいんですが」

「あぁ、あっちに道なりに行けば着くさ。」



庄野が指を刺してもらった方向へと歩くと、後ろから門番が大きな声で叫んできた。



「じゃあな!な異界人!お前みたいな雑魚と会うことは無いだろう!

何故か教えてやるよ!雑魚は2度とここに来る事はねぇからさ!ギャハハハ・・・。」

「・・・。」




イライラとした感情を抑えながら、スタスタと歩くと庄野の前に3匹の動物が立ちはだかる。



「何だ、お前らは。」

「キュー。」




よく見ると、1匹が迷彩柄のポーチを咥えている。



「ん?

それ、俺のダンプポーチじゃないか。

・・・理由はわからんが、持ってきてくれていたのか。すまんな。」

「キュッ!」



3匹のうち1匹が咥えていたのは庄野のダンプポーチだった。

ダンプポーチの使い方は様々である。射撃で使った空弾倉を入れたり、すぐに使えるように地図や道具を入れるためのものであるが、大半の自衛官は食べ物や飲み物を入れてることが多い。



庄野もポーチの中には飴玉やグミのような菓子を入れていたが中は空であった。




(しまった。餌をくれたと思ってなついたのか?

・・・いや、森の中でずっと俺をつけてきた事を考えれば不自然だ。ただの野生動物なら、わざわざ森を出て俺にダンプポーチを渡す必要はない。


ということは・・・。

さっき言ってた、『使い魔』ってやつなのか?)






ダンプポーチを受け取ると、3匹は庄野の足元をぐるぐると回っている。



そこへ、血相を変えた門番が汗水を流しながら走ってきた。



「ちょ、ちょっと待て!」

「・・・何だ?」


庄野は初対面で『無能』と言われたことに苛立ちを抑えられず、やや強めの口調で返事を返す。





「おい・・・その3匹は・・・お前の使い魔か?」

「さぁ、知りませんよ。森からずっとついてきてましたが・・・。

というか、使い魔って何ですか?いきなりこの世界に来て、何もわからないのに使い魔、使い魔、って言われてもですね。」




「あ?えっと、異界人がこの世界で魔法が使えるようにサポートをしてくれたり、代わりに魔法を使う魔物だ。俺達は産まれたときから魔力を持ってるが、魔力を持ってない異界人には加護として使い魔がついてくる事があるんだが・・・。」


(なるほど。

魔法が使えるかどうかは別として、その話から考えるに、こいつらは俺の使い魔と推定できる。)




「ありがとう。

では、先ほどの質問への回答は『その通り』です。」


「ま、待てっ!その3匹がいるなら話が変わってくる!もう一度王に・・・!」




















プチン。




























庄野の切れてはいけない脳内の安全線が切断された。
















「おい。さっきお前は俺に何て言った?」

「あ、いや・・・失礼な事を言ったのは謝る。だから、」



「『2度と会うこともない』。それは嘘なのか?

そもそも、お前は何の為に門に立っている?嘘を言うためか?」

「違う・・・。俺は、門でその・・・。」



「門とは人の出入りする場所だ。誰を入れるかどうか、それはお前の意思であるかもしれないが、同時に国の意思だ。・・・つまり、王の意思だ。その王と同じ意思を持っているお前が、俺に対して『2度と会うことはない』と言ったのなら、それは王の言伝だろう。違うのか?」

「そ、そんなわけ・・・だが、それでは俺はっ!」



「『俺は』?お前がどうした。お前の責任だろう。

お前の発言は国の発言だ。

お前個人の意思で、それを簡単に覆すのか?

そんな甘い責任感で、国に忠を尽くせるのか?」

「それは・・・でも、その魔物はお前の使い魔なんだろ?だったら、話は変わるんだよ!」




「何も変わらない。俺は戻るつもりは無いからな。


そもそも、俺が城に入る時、傍らにこいつらがいただろう。それを見つけなかったのはお前だ。俺は使い魔の制度を知らない。お前は知っている。知っているなら、確認行為をするのはお前の義務だろう。それを怠るだけでなく、剰え俺を『無能』、『雑魚』と罵った。


やる事をしっかりやってない、やらなければならない事を蔑ろにする、やらなくていい事をしっかりやってるような奴の都合を聞いてやるほど俺はお人好しじゃないんだ。


自らの失敗で信頼を失ったのなら自らの血と汗と涙で埋め合わせろ。

・・・縁があればまた会おう。」












門番は何も言い返さなかった。庄野は3匹の動物と共に西の国を目指し、トコトコと歩き始めた。



(何が国に忠を尽くせるのか、だ。・・・俺自身元の世界に戻れなくなって、仲間に・・・国に迷惑をかけてるくせに。

・・・。)



庄野が門番に放った言葉は、同時に自分に対しての戒めだった。

『だからこそ。』


庄野は強く西の国へ1歩ずつ歩みを進めていった。
















自衛隊最強に近い男は異世界で最弱、全く役に立たない事を知った。『だからこそ』、彼は西へと向かった。


自らの居るべき場所を求めて。

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