第2話 始まり ~そこは異世界 サリアン~

「庄野2尉、来週転属なのに訓練参加するってストイックっすね!」


「このメンバーで訓練をやるのが最後って思うと、参加しないわけにはいかないからな。」




訓練参加の前日、庄野の最後の会話はいつもと変わらないものだった。





この会話から24時間。

まさか火を吐くトカゲを捌き、森の中をさまよう事になるとは思いもしなかっただろう。


庄野は何匹もトカゲを殺しては捌き、殺しては捌いた。

これを繰り返しながら森の出口を目指していた。






(食料は・・・今日もトカゲか。

89式も拳銃も残り1弾倉。銃剣とマチェットはまだ使える。エンピは・・・まぁいいだろう。

もう1週間も歩き続けているのに、まだ出口が見当たらない。真っ直ぐに歩いているはずだから、何かあっても良いんだが・・・。


それに・・・ずっと俺をつけてる動物が3匹いる。)












庄野の後方を付かず離れずこそこそとつけている動物がいる。

全長30cmほどの大きさで、犬でも猫でもない。茶色毛並みで、3匹とも容姿は似てるが大きさは疎らである。






(死んだ俺を喰らうつもりなのか?


可愛い見た目とは裏腹にしたたかだ。森の中で生きる為の知恵なのだろう。野生の世界は厳しい。


ん?あれは・・・!)














微かに森の木々の間から灰色の建造物の一部がうっすらと見えた。

庄野はそこへ向かってほとんど上がってない脚を引きずりながら森の外へ出る。








(・・・西洋の城のようなものがある。相当大きいな。こんな場所、日本にあるわけがない。

・・・まぁ、そもそも火を吐く生物と遭遇した時点で、ここは別のどこかなんだろうが・・・。

どうやら、俺はよくわからない場所に来てしまったようだ。どうしたものか・・・とりあえずあそこへ行って情報を得るか。)








森を出て城の方へゆっくりと進む。

例の3匹も庄野の後を森から出た後もずっと後をつけてきていた。庄野が城門に到着すると門番と思われる甲冑に覆われた男が長槍を向けてくる。








「止まれ。」


「・・・はい。」


「どこの国の者だ。」


「ええと・・・あそこから来たんですけど。」










想定内の質問だったが、疲労で頭がまわらず庄野自身が出てきた森を指差す。

『あの森から来た』と言って納得がいくような人間はこのご時世いないだろうに。




「わかった。来い。」


「・・・(良いのか?テンパって変な回答をしてしまったんだが・・・)。」




歩いて約15分。庄野は城の中へと案内されていく。城に来る途中、二足歩行している狼が町のおば様達と会話していたり、背丈が89式小銃もない岩のような体つきのおじ様が歩いている。








(すごいな。まさに異世界ってやつか。とりあえず・・・一番不安だった日本語が通じているのは有難いな。あとは医療と法律、そして軍事がどこまでのレベルか・・・。)




海外派遣に行く際に重要視されるのは医療、法律の二つである。


どんな疫病が流行っているか分からない、治せる薬があるかわからない。国によっては歯科が無いなんて所もあるので「虫歯があると海外派遣に行けない」というくらい、海外派遣要員のパスは厳しいものだ。


法律は言わずもがな・・・である。










しばらくして庄野は謁見の間に連れてこられた。










「ここだ。サリアン王に粗相の無いように。」


(サリアン、ね・・・俺の最初の転属場所。


粗相の無いようにって言われても、この国のマナーがわからんが、いいんだろうか・・・。

約一週間動き続けて、疲労困憊の中でやっと着いた状態だ。はっきり言って、不安しかない。


もし、戦いになったら・・・どうする?

残弾、体力共に僅か。気力だけで何とかするか・・・?


『尚、士気については旺盛であります。』ってね。)


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