小さくて酸っぱいさくらんぼ

こばや

初恋は実らない物である

 小学6年生の頃、僕は恋をした。




 叶わないと分かっているのに恋をしてしまったのだ。


「千明先生、好きです」




 それでも僕はこの想いを伝えずにはいられなかった。

 例え、今の生徒と家庭教師という関係が壊れてしまうとしても。



「……ゴメンね、千歳くん。君を生徒以上の感情で見ることは出来ないんだ」

 僕よりも一回りも二回りも大きい、魅力的な女子大学生の“ 千明先生”は凛とした態度で俺と向き合った。


 ダメ元で聞いたんだ。答えは分かっていた。



 けれど

「……どうしたら僕のことを生徒以上の感情で見てくれますか?」

 僕はどうしても諦めきれなかった。


 千明先生に少しでも振り向いて欲しかったから。

 僕なりの、精一杯の足掻きだった。


 すると、千明先生はこめかみに人差し指を押し当て始めた。

 どうやら千明先生なりに考えてくれているのだろう。



 そして少し考えた後、千明先生は答えを出した。

「そうね、男らしく強引にキスしたら少しは見る目は変わるかもね」

 そう言いながら、先生の口元がニヤリと笑っていた。

 きっと出来ないと思っているのだろう。



「それじゃあ……」


 俺は彼女の意図に反して、ベッドに押し倒そうと彼女の両肩に手を添えた。



 すると、千明先生は冷たく言葉を発した。


「……でもそうなると、もう家庭教師と生徒っていう関係ではいられなくなっちゃうわよ」

 突き放すためだろうか、それとも別の意図があったのだろうか。

 しかし、その時の僕にはただただ冷酷にしか聞こえなかった。


「それってどういう……」

 俺は動揺して次の動作をどうしていいのか分からなくなった。

 キスしていいのか、それともダメなのか、と。


 いつものように答えを求めるクセで千明先生の目を見ると、その瞳は湿っていた。


「ここに来れなくなるってこと」


 運命は残酷だ。

 どう足掻いたって、千明先生とは何の進展も無いのだ。

 むしろ今までの関係を壊そうとしている。



「……だから、これで最後」

 そう言って千明先生は僕の額に優しくキスをした。





 小学6年生の頃、僕は恋をした。



 叶わないと分かってる恋を、2度も……。

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