第17話 vs.上級ウイルス②
「あ、あいりすって……今、お前の名前を呼んだよな……?」
俺的に、今のはわりと衝撃があったのだが、当のアイリス的には、なんてことないことなのか普通に返事された。
「ええ、そうね。言ったでしょ。奴等にも意思がある。自分の仲間を駆除するウイルスバスターの存在が、ウイルス側に認識されていても不思議じゃないわ」
「はぁ。そういうもんなのか。……あと、黒鬼っつってたけど?」
「そ……それはっ……! あ、あだ名みたいなものよ! 私が名乗ってるわけじゃなくてアイツらが勝手に言ってるのよ! ほんっと迷惑!」
アイリスは、恥ずかしい秘密が露呈したように顔を赤くして早口で弁明し始めた。
「え、ウイルスにあだ名? ……友達?」
「そんなわけないでしょ!」
「HAHAHAHA! ウイルスを前に男とイチャつく余裕があるたァ、流石は黒鬼ってとこかァ?」
「めちゃくちゃ、あだ名で呼んでんじゃん……」
「うるさい……!」
顔を赤くして横目で睨みつけるアイリスだが、この一連のやりとりの間、常に上級ウイルスへの警戒は怠っていなかった。
その気の張りようからも、目の前の相手が只者ではない事を物語っていた。
「さぁて、説明は終わったかァ? 気になる疑問もスッキリしたことだし、次は……俺の気分をスッキリさせてくれよォ!!」
『……!!』
動物が威嚇する際に身体を大きく見せようとするように、腕を大きく開き、目を見開いて睨みを効かせてくる。明らかに、戦闘態勢に入ろうとしているのが伝わってきた。
その迫力に、アイリスはどうかわからないが、少なくとも俺は気圧された。身を守ろうという防衛反応が働いたのか、無意識的に思わずプラズマソードを構えていた。
見ると、アイリスも既に黒刀を抜いていたが、焦って構えた俺と違って、その表情は落ち着いていた。
『上級』という存在をその身をもって知っているか否か……これぞ経験の差ってやつか……。
「おい、来るぞ! このまま戦ったら、周りに被害が出るんじゃねえのか!? さっきのバリアみたいなのは出さねえのか?!」
「当たり前よ! まだ戦う気がないんだから!」
「まだ!? どういう事だよ!」
「あなたがいるからよ!」
「は!?」
「プラズマフィールドは私を中心に展開するのよ! 今、展開したらあなたまで入る!」
「ちょっと待て! じゃあ、もしアイツを閉じ込めたら、アンタも一緒に閉じ込められるってことか!? 逃げるんじゃなかったのか!? アイツ、相当ヤベェんだろ!?」
「ええ、そうよ! だから、それは最悪の手段!
何のためにアイツのお喋りに付き合ってやったと思ってるのよ! さっきから応援が来るまでの時間を稼ぐ努力をしてるの! だから……早く!」
その場を離れようとするアイリスについていこうと、チラッと、ウイルスの方を見ると、何やら呟いていた。
「AAAaaaー? まァだ逃げる気だったのかァ? 追いかけンのは面倒だ……。
んー、そうだなァ……。なら、やる気にさせてやるかァ……!」
動き出すウイルス。しかし、その動きは、その場を離れようとする俺たちを追いかけるモノではなかった。
「アイツ、追いかけて来ねえぞ!? むしろ、逆方向へ走り出してる!? どういうことだ!?」
不穏に思ったのは、アイリスも同じなようで、走りながら目で追っていた。
「あっちは私達が来た時の……ま、まさか……!!」
強張った顔で、急に方向転換するアイリス。
「な、なんだ!? どした!?」
「あっちは、私達が広場に来た時に通った道よ!」
「は!? なんで……」
「いたでしょ! 私達を追って、一緒に来てる人が……!!」
「あ……!」
アイリスの言っている事に気づくと同時に、その人物は路地を抜けて、たった今、広場に到着し、その姿を現した。
「おっさぁん!! 逃げろぉ!!」
「え……!?」
広場のもとへと出たばかりのおっさんは、目の前に迫るウイルスの存在に気付いたが、全く状況が頭に追いついていないようだった。
その様子を見て、またもや口角を上げてニヤつかせているウイルスの顔が目に入った。
「HAHAHA!! 何やら足音が聞こえたから、見せしめにしてやろうと思ったが、まさか知り合いだったとはなァ、丁度良いィ!!」
「あの野郎!!」
おじさんに向かって、その黒い腕を伸ばすウイルス。
こっちは既に全力で走り出してはいるが……。
「駄目だ……間に合わねえ……!」
プラズマソードを逆手に持ち替えて構える。
「この距離……届くか……?!」
急ブレーキをかけて、即座に槍投げのモーションに入る。
「こんのぉおお……!」
そして、今にも黒い腕をおっさんに伸ばそうとするウイルス目掛けて、振り抜……こうとして、踏みとどまった。
ウイルスの腕は、おじさんの目の前ギリギリ、寸出の所で停止した。
「チッ……」
攻撃を止めた理由は、おそらく俺と同じ……。
気付いたからだろう。
おじさんとウイルスとの間に発生した、プラズマフィールドの存在に。
黒い腕を下ろしたウイルスは、そのまま横目で睨みつけた。
……ACTを操作しているアイリスを。
「アぁイリスぅう……!!」
「はぁ……良かった……。サンキュー、間に合わねえと思ったぜ……」
ACTを閉じるアイリスに礼を言うと、当の本人は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ええ、間に合ったのは良かったけど……。ごめんなさい……あなたをフィールドの外に逃す余裕はなかったわ。結局、巻き込む形になってしまったわね……」
「何言ってんだよ。アンタがやってくれなきゃ、おじさんはヤツにやられてた。てか、そもそも最初に勝手に動いたのは俺だろ? アンタが気にする事じゃねえだろ」
「……そう言ってもらえると、こっちも少しは気が楽になるわ」
「それに、おかげで後悔せずに済んだ」
「え……?」
不思議な顔をするアイリスと目が合う。
「いや正直、最初は単なる好奇心の方が強かったけど……今は違う。こんな虫酸の走る奴を前に、逃げずに済んで良かったよ。後悔するとこだった」
こちらに向かってニヤニヤした笑みを浮かべている憎たらしい顔を、俺は睨みつけた。
「気にいらねぇ……」
自分の中に凄くモヤモヤとしたものを感じた。
イライラして、ムカムカして、そして……絶対に許せない、許してはならない、という気持ち……。
「てめえは絶対に、ぶっ飛ばす!」
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