第16話 vs.上級ウイルス①

「上級……? コイツが……?」


「ええ、さっきの中級は目が一つ、目が二つは上級の特徴よ……!」


 俺は目の前に立つ、そのウイルスの姿を観察するように見つめていた。


「確かに目が二つある……それに、さっきまでの奴等に比べて、姿、形が『人間』に近い……。サイズ感もその位だし……。目が二つある分、尚更……」


 その人型ウイルスの方も、同じく俺たちを観察するように、その二つの目でジッとこちらを見つめていた。


 こうして睨み合っていると、余計に人間同士で向かい合っているように感じる………。


「それも上級の特徴の一つよ。中級は基本、虫や動物に近い形。上級は人間に近い姿をしているの……いや、そんなことより!」


 袖を引っ張るように掴むアイリス。


「逃げるわよ!」


「はぁ!? なんでだよ!!」


「決まってるでしょ! いくら機転が効くからって、あなたは、正式な武器も所持していない一般人! 現に、上級を見ても全くその危険度を理解していないでしょ!」


 アイリスのその言葉、そして表情には全く余裕がないように感じた。


「それって、アンタがいても駄目ってことか?」


 向けられた疑問から目を逸らすように、顔を背けて右腕を強く握りしめる。


「……今は無理よ。まだ無理……。悔しいけど、戦力が足りないわ。

 あなたは知らないと思うけど、上級ウイルスは、さっきまでの中級ウイルスとはレベルが違う。

正式なウイルスバスターだったとしても、たった2人で駆除に当たるなんて有り得ない。自殺行為よ」


 アイリスの声のトーンから、まだはっきりとではないが、それでも薄々……目の前にいるウイルスが危険な存在であること、それにより、とても緊迫した状況に陥っていることに気付かされる。


 状況が飲み込めるに連れて、逆に息を飲み込むのが難しくなってきた。

少し息苦しい……危険度を身体が認識しつつあるのだろうか……。


「……さっきまでのウイルスより、攻略難易度は高めってことか」


「ええ、レベルが違うわ。だからここは……」


「ここで退いたら、アイツはどうすんだよ。そんな危険なヤツを街に野放しか?」


 アイリスはその言葉に少し驚いているようだった。


「……心配しなくてもそうはならない。ここに来るときに応援を要請したわ。だこら、無駄に危険を犯す必要はないし、後で確実に数で攻め落とせばいい。わかったら、ここは退いて」



「おいおい、逃げるつもりか?」



『……!?』



 突如として耳に入った、聞き覚えのない声に驚く。

 その声は、ノイズがかったような……言ってみれば、ドラマでよく見る、誘拐犯とかが使うボイスチェンジャーを通したような声だった。


 そして、そんな不気味な声を発した主は、この場にいる俺とアイリスを除けば、残すは……。


 アイリスに身体を向けていた俺は、声が聞こえた方向へゆっくり振り向いた。すると、それを待っていたかのようにが再び、そのノイズ掛かった声を響かせた。


「ウイルスを前にして逃げ出すのかァ? ウイルスバスタァア?」


「しゃ、喋った……! やっぱコイツが喋ったのか……てか、ウイルスって喋んのかよ!?」


 目の前のそいつは、割れたスイカのようなジグザグな口を開かせ、確かに喋った。口角を上げて笑い、語尾を上げて挑発するように。それはまさしく人間が話す時と同じように。


 さっきまでのウイルスには無かった行動に驚きを隠せない。


 一方でアイリスは、少し考えるような間を置いた後、その疑問に答えた。


「……ええ、ウイルスにも意思があるの。それは、上級に限らず、中級にも下級にもね」


「意思……」


「ただ、その意思を『言葉』として発することが出来るのは、より言語化能力の発達したウイルスだけ。この上級ウイルスのようにね。

中級ウイルスは、『思考』して、それを『行動』に起こすことまでは出来ても、『言語』にして発する能力はなかったでしょ?」


「あぁ、確かに………」


 アイリスの言葉で、中級ウイルスのことがよぎった。明らかに頭を使った攻撃や、挟み撃ちの策など、『知性』を感じさせる場面があった。

あれが、あのウイルスの『意思』……。しかし、確かにそれを『言語』として発することはなかった。


 見た目が見た目なだけに、ウイルスを害虫のように捉えていた俺としては、ウイルスが『話す』という発想がなかった。しかし、コイツは……。


「HAHAHA……流石、オレたちのコト、よくわァかってるじゃねえかァ。なぁ? “黒鬼”のアイリスぅ……!」

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