第7話 プラズマ

「ぎゃあああぁぁぁ!! 首がぁぁああ! 跳ねられ……あれ?」


 椅子から崩れ落ちて床を転げ回る俺だったが、完全に跳ねられたと思った首が、まだ繋がっていることに気づいた。


 首元を撫でる。……うん、ある。付いてる。


 だが、首元を刃が通過した感覚は確かにあった。『斬られた』という感覚が。


「……」


 状況が理解出来ず、顔を上げて説明を求めるような視線を椅子に座るおじさんに向けると、おじさんは愉快なショーを見てるかの如く楽しげに笑っていた。


「ハハハッ!! 驚きすぎだよ! これ、プラズマソードは人体には無害なんだ。感触や熱は感じても実際にどうこうなったりはしないよ。あ、でも実際に斬られたような感覚はあったかな? ハハッ」


「おいぃ!!! ふざけんなジジイ!! 死んだと思ったわ!!」


 愉快に笑いながら御機嫌な様子で説明するおじさん……いや、ジジイにイラッとした俺は、襟元目掛けて飛びつき胸ぐらを掴んでブンブン振りまくる。

 それでも、このジジイはまだ笑っている。


「いや……フフッ、ごめんごめん。そんな……フフッ、反応する人を見るの……ひ、久しぶりだったからさ……フフッ」


 謝罪の言葉とは裏腹に、笑いを堪えきれず少し涙目になった目元を手で拭っている。


「いや……フフッ、にしてもあれだね。君、クチ悪いね」


「突然、首ぶった斬られたと思ったら誰でも口悪くなるわ!! 逆にぶった斬ってやろうかジジイ!!」


「いやだから斬れないんだって」


「うるせえ!!」


 冷静に揚げ足を取られてイラつきが倍増。


「ったく……」


 掴んだ胸ぐらを離し、ジジイを戻して座り直す。


「んで? プラズマが? 無害? だから、人に対してこんな風に振り回しても何もねえと。それで個人でも持っていいってことか」


「そうそう。と言っても、感触はあるわけだし、驚いて身体を悪くする人もいるから、悪ふざけで人に向けるのはマナー違反だけどね」


「おめぇが言うなジジイ!!」


 全然悪びれた様子がない、いやむしろ、ふざけだしているジジイのテンションが若干……いや、わりと結構、イラつくがそんなことはどうでもいい。


「その人体に無害なプラズマでも、さっきみたいにウイルスだけは斬れるんだな」


「うん。結局、ウイルスもネットの中で作られたものが現実に現れているわけだからね。ネットの中の敵はネットの中の武器でってことだよ」


「そうか……なるほど。ん?じゃあ、ウイルスもプラズマなのか? 殴った時の感触がさっき首を切られた時と違ったぞ? 向こうはしっかり触れたというか……」


「ヤツには『質量』があったからね」


「しつりょう……」


「うん。このプラズマソードのグリップや、このコップとかもそうだけど、質量のあるプラズマはほとんど物体として存在することが出来るんだ。だから、ただのプラズマと違って、擦り抜けないし、重みを感じる……」


「へぇー。プラズマにも種類があるんだなぁ。プラズマソードは刃の部分が、質量のないただのプラズマで、あくま護身用。基本、ウイルスにしか効果がないし、人間には危害がないから、悪用したくても出来ない……だから所持が許されてるってことだな」


「そうそう。逆に、質量のあるプラズマの武器もあることはあるけど、そっちの方は、基本的にしかるべき機関以外の所持は禁止されているんだ」



「『しかるべき機関』っていうと警察とか自衛隊とか?」


「うーん、まぁそうだね。ああいうモンスターが当たり前にいる時代だから、それを取り締まる仕組みも自ずと必要になる。よって必然的に、ウイルスに対抗出来るだけの力を持った機関も生まれたんだ。

 警察とかとは少し異なるんだけど、まぁ市民の生活を守るという役割的には似たようなもんだね」


「あれ? じゃあ、あのウイルスを片付けんのもその警察的なヤツの仕事だろ? なのに、ああいうのが襲ってきた時には来ないのか?」


「いや、多分、誰かが通報してるだろうから向かって来てると思うよ。まさか、もう倒されてると思ってないだろうしね。あ、噂をすれば……」


 おじさんは窓の外に目をやった。

 釣られるように俺も窓へと顔を向けると、同時に自分の顔が影に覆われたのを感じた。


 目の前の窓枠には足が掛かっており、そこからゆっくり見上げると、そこには少女が立っていた。


 赤茶色の瞳でテーブル席を見下ろす、人形のように整った幼い顔立ちの少女は、太陽に照らされて光輝いている金色の髪を風に靡かせていた。


 いわゆる美少女に分類され、髪型はツインテール………いや、ハーフツインって言うんだっけか。

画像検索するとしたら「美少女」「金髪」「童顔」「ハーフツイン」でヒットしそう。


 ただ、着ている服の方は何て検索すればいいんだろうな……。「魔法使い風の侍」とでも言うのか……。黒を基調としたヒラヒラしたマントのような長い袴だ。刀持ってるし。

まぁでも、この異世界風景には合ってるな。


 俺が少女の姿を眺めながら唸っていると、その魔法侍少女(?)が口を開いた。


「ウイルスを撃退した人っていうのは、あなた?」


「え? うん。そうだけど……えっと、誰?」


 少女は姿勢を正すように胸を張り、自分を差すように、胸に手を当てて言い放った。


「私はウイルス対策セキュリティ騎士団、『ウイルスバスター』よ!」

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