第5話 この世界は……

「いやぁ、本当に初めて? とてもそんな風に見えなかったよ。向いてるんじゃない?」


 おじさんはコーヒーを飲みながら新人のバイトを褒める店長のように言った。

あんなバケモンの相手をするバイトなら初日で辞めてるな……。


「向いてるも何もこの時代のこと何も知らねえよ。だから……」


「ん?」


「話の続き。教えてくれよ、どうなってこういう世界になったんだ? あのバケモンはなんだ? 聞きたいことが山ほどあんだよ」


「そうだったね」


 おじさんはコーヒーカップをテーブルに置き、テーブルに肘をついて指を組んだ。


「まず、この時代について簡単に言えば、この時代は現実とインターネットが融合した社会さ」


「融合?」


「昔、最初にインターネットが登場したことで世界が変わったと言われてただろう?」


「あぁ」


 俺とおじさんとでは、『昔』の度合いがだいぶ違う気がするが……まぁいいや。


「インターネットは、画面の中で世界中の人々を繋げた。それが当時の技術革新」


「うん、そうだな」

 

「それから様々な技術革新が起こって、遂にインターネットは画面を通さずして、現実に出現したのさ」


「は? 画面を通さずにって……。スマホとかのデバイス無しってことか?」


「うん。こんな感じでね」


 おじさんが空中で拳を開くような動作をすると、そこにホログラムのビジョンが出現した。


「おぉ、これが……。さっき外の人達が開いてたの見たけど、近くで見るとこんな感じなのか……」


 未来の技術を前にして、一種の感動のようなものを感じながら、湧き上がる好奇心から手を伸ばす。


「あ、これ……触った感触あるんだな。静電気みたいな……」


 触れた皮膚に熱という程でもない生温さを感じた。見た目のせいか、思わず静電気と言ったが、湯気に近いかも知れない。触ってないけど、熱で触っているように感じる。


「プラズマによって作られたものだから、そう思うのかもね」


「ほんと、ゲームのステータス画面みてえだな……。こうして近くで見るとゲームの中にいるように思えてくるよ。

デバイスも無しにこんなこと出来るようになるなんてな……」


「昔はもちろんデバイスがあったけどね。手持ちのデバイス画面からネットを見る時代から、

メガネ型やウォッチ型のデバイスを通して、空中にネットを表示したり、操作する時代になった。

 そして近年、ついに人類はデバイス無しのネット操作、インターネットとの融合を果たすことが出来たんだ」


「はぁ……」


話の内容はわかるけど、理解が追いついていかない……。けど、まぁ、それはしょうがない……。


「うん……流れはわかった。てか、わかったと思いたい。じゃあ、なんで融合出来たんだ? なんでこの画面、じゃなくて、ビジョン? は、デバイスを通さずに出せるんだ?」


 ビジョンを睨みつけるように覗き込む俺を見て、おじさんは顎に手を当て、考え込むような仕草をする。


「うーん。さっき、ゲームの中にいるみたいって言ってたよね?」


「え? あ、あぁ」


「まさにそういうことだよ」


「……?」


 首を傾げて、暗に説明の続きを求める。


「宇宙飛行士が宇宙でのSNS送信に成功したことで人類は宇宙にもネットが広がったことを証明した。

 そして、それから数十年の時を経て、宇宙ステーションと人工衛星を使った地球全体のインターネット化に成功したんだ」


「ち、地球全体……?」


 スケールデカ過ぎてついていけねえ……。


「まぁ、イメージ的に地球の周りに何個かの人工衛星を置いて、それらを線で繋いで地球全体を覆うようにネット空間があると想像してもらうとわかりやすいかな?」


「地球全体を覆うように……」


 頭ん中で浮かんだイメージが、地球を包む白くて薄い膜って感じ……。


「イメージが生春巻きみたいになったんだが……」


「ハハッ、それでいいよ」


 おじさんに俺の想像した画が伝わったようだ。笑われてる感じからして、イメージの仕方を少し間違えたようだ。


「実際はインターネットだから透明で見えないんだけどね。

でもまぁ、イメージとしてはその方がわかりやすいかもね。じゃあ、その生春巻きの皮の部分あるよね? その皮の部分が、デバイス画面って感じかな」


「皮が……デバイス……?」


 どうしよう……。変なイメージしたせいで話が訳わかんない方向に行ったぞ……。

 えーと、デバイスって言えば、まぁ俺の時代はスマホだから……。


 俺は再び想像を巡らせた。


「……なんか、人間が地球入りの生春巻きを握ってる画になったんだけど……」


「フフッ、随分とおかしなことになったね。

でも、いい感じだよ。それって、握っている人間からの視点は地球の外からの視点ってことだよね?」


「え? あ、あぁ……そうだな」


「とすると、地球の外から見たとき、皮で包まれた地球……つまり、デバイス越しの地球はどうなる?」


 その問いに対して、俺は一つずつ確認するように言葉に出す。


「デバイス越し……つまり、スマホの中……だから、未来において……この世界はインターネットの中?」


「そういうことになるね」


「なんてこった……」


 異世界みたいになった未来はインターネットの中でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る