第4話 vs.黒肉団子②

「GUEEEEEEE!!!!」


 左腕をぶった斬られたことを嘆いているのか、鳴き叫んでいる黒肉団子。


 口らしきパーツは見当たらないのに、この鳴き声はどっから出てるんだ……。

 まぁとにかく、血こそ出ていないが、さっきの拳と違って目に見える明らかなダメージを与えられた。


「これなら、いける!」


 手応えを感じた俺はグリップを両手で握り、剣道でよく見る構えをとった。


 剣道なんてやったことねえからよくわかんねえけど……。


 とりあえず一刀流の構えと言えばこんな感じだろ。どこぞの銀河の戦いでも大体こんなだったし。二刀流ならもっとバリエーションもあっただろうがな。。三刀流なら………あの構えしか思いつかねえな……。顎痛くなりそうだから嫌だけど……。


 どこぞの麦わら船長の右腕のことを考えていると、むしろ右腕しかない黒肉団子は怒っているのか、先程より強めのバウンドでその場を跳ねていた。そして、そのまま怒りをぶつけるが如く、勢いをつけて飛び込んで来た。


 その動きを見逃さまいと、軽く息を吐いて、集中し、プラズマソードを振り上げる。


「残った腕もぶった斬ってやる……!」


 しかし、黒肉団子の動きは思っていたより速く、ソードを振り下ろすよりも先に懐に辿り着かれた。


「危ない!!」


 物陰から覗きこむおじさんの声が耳に届く頃には

、すでに手遅れだった。黒肉団子の体当たりは、サンドバッグにぶつかったような衝撃と重みを胸のあたりから全身に広がるように与え、俺の身体を後方へと吹き飛ばした。


「うっ……!!」


 叩きつけられたように倒れこみ、息苦しさから喉に手をやり咳込んだ。


「カハッ‥‥…! ケホッ、ケホッ!」


「大丈夫かい!?」


 おじさんが物陰から身を乗り出す。


「だ、大丈夫だ! くっそ、痛ってぇ…‥‥‥。一瞬息が止まったぞ…‥‥‥!」


 身体の痛みと息苦しさからくる怒りで睨みつけると、黒肉団子は再びバウンドを始め、次の攻撃の準備を始めていた。


「またか‥‥…!」


「アイツのほうが少し速い‥‥‥‥‥仕方ない、ここはもう一度距離をとって物陰から奇襲をかけよう!」


「いや、駄目だ」


「え!? どうして!?」


「後ろ見てみろよ」


「え? あっ……」


振り向いたおじさんは気づいたようだ。


「行き止まり……」


「そうだ。あと、数mで行き止まりだ。これ以上、下がるわけにはいかねえ。だから、ここでコイツを倒すしかない」


 立ち上がり、剣を構える。すると、狙ったように、勢いをつけた黒肉団子が再び飛び込んできた。その行動に俺ももちろんのこと、おじさんも驚く。


「立ち上がり際を狙って来た!?」


「コイツ、頭使うのかよ!?」


「かわすんだ!!」


 おじさんの叫びとは裏腹に、俺はその場を動かない。代わりに、光の刃を前方に向かって突くように構えた。


「まさか、カウンター!?」


「あぁ! 速さに関しては、向こうが上だ。なら、こっちから突っ込んでも、また振り遅れる可能性がある。だったら答えは簡単だ。向こうから来てもらえばいい!」


「そうか! これなら、待ち構えるだけでいいから速さは関係ないし、振り遅れる心配はない!」


「それに加えてコイツのこの勢い……わざわざ振らなくても、突き刺すだけで威力は充分だ!!」


 待ち構える俺に黒肉団子の体当たりが迫る。


「ここだ!」


 俺は腕を真っ直ぐに伸ばし、光の刃を突き出した。

 しかしその時、ほぼ同じタイミングで向こうも長い腕を伸ばしてきた。


「んなっ……!?」


 思わず、おじさんと共に驚きの声をあげる。

 今度は体当たりじゃなく腕で攻撃!? まさか、動きを読まれた!?


「駄目だ! 腕を伸ばされたら、剣よりヤツの腕の方が長い! ヤツの方が先に届く!」


「くっ、なら………!」


 両手で掴んでいたプラズマソードから、左手だけを離し、右手一本でフェンシングのように持ち直した。


「これで、どうだ!!」


「片手で!? そうか! 肩を入れた分、リーチを伸ばしたのか!!」


 これでどちらも『片腕』! そして、こっちは 『肩腕+剣』だ。先に、届く!!


 迫る長い腕を無視し、右手一本で持ったプラズマソードを黒肉団子目掛けて真っ直ぐ伸ばす。


「そっちの腕が届く前に、先に本体に刺してやる!!」


 こちらの方が先に届く、と確信した瞬間、俺の目にあるものが映った。


 先程切り落とした、肘までしかなかった左腕が、黒肉団子の本体に吸収されるように沈み込んだ。そして、吸収した腕の分だけ押し込まれたように、反対側の右腕が伸びた。


「な……に……?」


「リーチが伸びた!?」


 俺もおじさんも驚きを隠せない。


 なんだよその、ところてんみたいな仕組みは……! しかも、こんなギリギリで……いや、まさかわざとか!? こっちがもう、腕を引っ込められないタイミングギリギリまで引き付けて……!?


「くっそ!肉団子の分際で頭使いやがってぇえ……!!」


「止まるんだ!」


 もう止まれない! このまま行くしか、ない!!


「間に合えぇえ!!」


「GUEEEEEEE!!」


 俺と黒肉団子の間で、光の刃と黒い腕が交差する。

 

 そして次の瞬間、は突き刺さっていた。



 黒肉団子に。光の刃が。



 そして、黒い腕のほうはというと、俺の目の前で止まっていた。


 静寂がその場を包み、最初にその場に響いた音は、おじさんの声だった。


「先に……届いた? しかも、アイツはなんで止まって……あっ……」


 おじさんは、俺の右手に何も握られていないことに気づいた。


「投げた!? でも、この距離じゃ威力は……」


「そうだ。ほとんど腕が伸びきっていた状態で放るように投げただけだから威力はほぼない。ただだけだ。

 多分、ダメージはほとんどないだろうぜ。だから、賭けだったんだ」


「賭け……?」


「あぁ。コイツは今、左腕を引っ込めて右腕を伸ばそうとしてきやがった。つまり、この伸びた部分は本体からではなく、左腕から供給されたものってことになる。見てみろよ」


 俺は、黒肉団子の左腕へと視線を向けて促した。すると、おじさんは何かに気づいたようにハッとした。


「左腕が吸収されきっていない……」


 おじさんの言う通り、黒肉団子本体からは、吸収されきっていない左腕が突起物のように飛び出ていた。


「こいつの中身がどういう仕組みかは知らねえが、体内で左腕が右腕を押し込んでいるのは確かだ。だから‥‥‥‥‥」


「左右の腕の間、その直線上にプラズマソードを投げて、ストッパー代わりに‥‥‥!」


「ああ。これで、左腕はこれ以上、引っ込められねえ。だから、右腕を伸ばすこともできねえ」


「確かに‥‥‥‥。現に、右腕を伸ばそうとしているけど、かんぬきのロックを掛けられたように、上手く伸ばせずにいる……」


 おじさんの言う通り、黒肉団子は目の前の俺に向かって、何かを乞うかの如く、腕を伸ばそうとしていた。


「でも、これってソードをストッパーにしているから抜けないよね? 抜いた瞬間、腕を伸ばしてくるし……」


「あぁ、わかってるよ。だから………」


 俺は、足を開き、スタンスを広げて拳を握り込んだ。


「今度のは痛ぇぞ……!!」



 脇を締めて左足を踏み込む。そして、踏み込んだ左足を軸に腰を回転させ、黒肉団子に突き刺さっているプラズマソードのグリップ目掛け、全体重を乗せた右拳を放った。


「ところてんには、ところてんだ!!」


 グリップに直撃した右拳が、突き刺さっていたプラズマソードを勢いのままにさらに押し込む。


「おらぁぁああ!!」


 釘のように打ち込まれたプラズマソードは、黒い肉を突き破り、やがて貫通。光の刃が背中から飛び出した。


 黒肉団子は動きが完全に停止。そしてそのまま、浮いていた身体を地面へと落下させ、鈍い音を響かせた。


 足下に転がるその姿を見た俺は、力みきっていた全身の力が抜けていくのを感じ、空中に突き出していた腕を下ろした。



「団子は団子らしく串に刺さってな」

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