第3話 vs.黒肉団子①
まったく、街でバケモンが暴れてるだなんてベタな展開が起きたかと思えば、そのバケモンが『黒い塊に一つ目』なんていう、これまたベタなデザインのバケモンと来たもんだ。
こんなベタなことばかり起きたんじゃあ、こっちもベタな行動取るしかねえな。
「おい!そこのバケモン!!」
カフェを飛び出た俺は、指を差して言い放った。
俺に気付いたバケモンは、こちらを向くと同時に、ボールの如く地面を跳ねながら迫って来た。
うわぁ…移動の仕方、キモッ…。
「危ない!逃げるんだ!」
背後からおじさんの声が響く。
「冗談だろ。この黒肉団子めが、殴り飛ばしてやる…!」
今こそボクシング漫画の知識をフル活用するときだぜ、見てろよ…。
黒肉団子が手の届く位置まで迫る。
「ここだ!!」
俺は漫画の教え通り、左足を踏み込むと同時に、脇を締め、踏み込んだ左足を軸に、腰を回転させて、全身の力を右の拳に伝えて放った。
「食らえ、右ストレート!!」
黒肉団子のど真ん中目掛けて振り抜いた右拳は直撃。同時に、ミットに当たったような音を、その場に響かせた。
「くっ………!」
しかし、響かせた良い音とは裏腹に、肝心の手応えがなかった。
見た目が肉の塊なのだから、人間の頬を殴り飛ばすようなイメージをしていたのだが………。
実際には、人間の肉より幾ばくか固く、重いサンドバッグのように、ぴくりとも動かず、ダメージを与えた手応えがなかった。
触れている拳の先の感触は、火を入れすぎた肉のような固さで、恐らく口に入れたとしたら噛みきれずに一旦、ペーパーに吐き出す固さ………おえっ、自分で例えてて気持ち悪くなってきた………。なんだ、口に入れたらって………馬鹿か俺は。
勝手に想像して、勝手に気分が悪くなってる俺に対し、目の前の黒肉団子は腕を振りかざして殴りつけるモーションに入っていた。
触れている、拳の先から伝わる肉の感触からして、コイツのパンチを喰らうのはヤバい………。それはわかっている。わかってはいるが、簡単に殴り飛ばせると思っていた為、その後の防御のことまで考えていなかった。
駄目だ、避けきれない…!
迫りくる黒肉団子のパンチに対し、覚悟を決めて、少しでもダメージを減らそうと、左腕でガードを構えたそのとき………
「危ない!!」
身体に、横側からの強い衝撃を感じ、黒い拳を横目に、そのまま地面に倒れこんだ。
「痛てててて‥‥‥‥‥。あ、おい!大丈夫か!?」
俺の上に乗っかっているおじさんを、起き上がらせるように肩をつかむ。
「あ、あぁ………。怪我はないかい?」
「大丈夫だ、おかげさまで」
黒肉団子の様子を確認すると、ゆっくりと振り向いて、近づき始めた。
「奴に………打撃は効かない。距離を………とるんだ、ウッ‥‥‥!」
「どした、どっか怪我したか!?」
「あ、あぁ‥‥‥‥‥‥腕を少し、かすったようだね。それより、奴から距離を‥‥‥‥‥‥」
「わ、わかった。立てるか?」
腕を肩に回し、早歩きで黒肉団子から離れる。
「そこの物陰に‥‥‥‥‥‥」
おじさんが指差した路地へと入り、座り込む。
建物から大通りに顔を半分だけ出して覗き込むと、黒肉団子との距離は10m程。見ると、腕を振り回して、その辺の建物を壊している。
「何してんだ‥‥‥‥‥‥? まさか、探してる? ここに隠れたの見てなかったのか?」
「視界から外れたからだよ」
後ろで同じく座り込み、負傷した腕を押さえるおじさん。
「アイツは視界に入ったものに襲いかかって攻撃するんだ。だから、視界から外れさえすれば、動きはそこまで素早くない、攻撃してくる時は割と素早いんだけどね」
「なるほどな‥‥‥‥‥‥だから、物陰に‥‥‥‥」
「とりあえず、これで、ここの建物が壊されるまでは、ひとまず安全だ」
おじさんの腕を確認すると、肩の部分の衣服が破れ、出血して青くアザになっていた。
「おじさん、すまねえな‥‥‥‥‥‥俺のせいで」
「ハハッ、気にしなくいいよ。ああいう無鉄砲さは嫌いじゃない。逆に、よく初見で、あれに物怖じせず近づけるもんだ。感心したよ。しかも、殴りかかるとはね」
「俺、虫とか見たら、すぐ叩き潰すタイプなんだよ。うっとうしいから」
「あれを虫扱い‥‥‥‥‥‥」
苦笑いを浮かべるおじさんの表情は、痛みを堪えつつも少し楽しそうに見えた。
「いや、ほんと頼もしい限りだよ。じゃあ、その無鉄砲さを見込んで、1つ頼まれてくれるかい?」
「うん?」
建物を壊しながら、着実にこちらへと進行する黒肉団子をよそに俺はおじさんの話を聞いた。
そして、残り2、3m地点まで迫ったとき、俺は路地から大通りへ飛び出し、黒肉団子とご対面。数十秒ぶりの再会を果たした。
俺に気付いた黒肉団子は、建物を壊すのを止め、再び、キモいバウンドで、距離を詰めてきた。
そして、また腕を振りかざす。
ここまではさっきと同じ状況だ。
ただ一つだけ違うのは、さっきは丸腰だった俺だが、今の俺の手には、テニスラケットのグリップのような形をした、金属が握られていることだ。
おじさんに教えてもらった、操作をすると同時に、そのときのやりとりを思い出される。
「ちなみに、虫を殺すときは素手で叩き潰すのかい?」
「まさか。そんな訳ねえだろ、適当な丸めた紙で叩くな」
「だよね?」
そう言って、おじさんは何やら取りだし、俺に手渡して来た。
「これは‥‥‥‥‥‥?」
「駆除をするなら、武器が必要だろ?」
目の前で振り下ろされる黒い腕に対し、俺はグリップを勢いよく振り上げた。
そして、一閃。
光の太刀が黒肉団子の腕を切り飛ばす。
直後、後ろの方で土砂袋が落ちたような重い音が聞こえた。
見るまでもなく、今しがた切り飛ばした、コイツの腕だろう。
そして、そんなことより‥‥‥‥‥‥。
「まさか、この目で本物を拝める日が来るとは…」
自分の手に握られた金属のグリップから伸びる一筋の光を眺めた俺は、修学旅行で木刀を買った時の胸の高鳴りを思い出し、思わず笑みをこぼした。
俺が今、手に持っているそれは、男なら、一度は実際に振ってみたいと思う代物である、光の剣だった。
ここでは、こう呼ぶらしい。
「プラズマソード‥‥‥‥!」
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