大失敗
第49話 トラブルメーカー先輩
「ふんふんふんふ~~ん」
ピコピコと愛らしくカナリエはスキップを踏む。
昨日までは粛々としてた教会からは金槌が釘をうるさい叩く音がする。
空からはもしも手伝うことがあったらしてくれと頼まれ来たが、自分の出る幕はなさそうだ。
なら歌でも歌おうかと思った時、肩を叩かれる。
「すみませんそこのお嬢さん」
「ん?どうしたの?」
「あの、屋根以外に破損がないか調べてみたのですが、“アレ”って一体何ですか?」
指差された場所は、階段だった。
しかも、ただの階段ではなく地下への階段だ。
「一応地下室とかも見た方がいいですかね?その許可が欲しくて」
カナリエは悩む。たまに来てはいたが、地下室があるなんて事は知らなかった。
それに、教えて貰ってない理由も分からない。歌を聴くなら地下の方がいいのでは?空の世界には地下アイドルなるものがあるし。
「えっと、どうしますか?」
返答の催促。出さなきゃと慌てて言った言葉にカナリエは公開した。
「あわわ、じゃあ先ず私が見てみるよ~」
羽を小刻みに震わせながらカナリエは言った。
そして後悔。自分は決定権がないのにも言ってしまったセリフ。
しかし、言ったものは仕方がない。
行って直ぐに戻ってやらなくて言えば、それでいいのだから――――
◆
商売。それは需要に対する供給だ。
誰かが欲しいと思わなければ買い手はいない。自然の摂理だ。
故に、欲しいという需要が生まれ、買い手が存在するならば供給が発生する。
たかが料理でも移動中の人間に捌けば飛ぶように売れる。つい最近学んだ事だ。
では然るに、この度は何の需要を読むべきか、、、、
「需要が分かるならあっしは今頃富豪ですね」
「デスヨネー」
セレナさんに需要読みの相談を持ちかけたが、見事に爆死だ。
「それに、この村で需要と言われても、需要と言える程ありますかねぇ?」
「ないわ~。それはないわ」
日本の田舎をイメージしよう。ここで需要を読むのは、ハードだろう。
「ん~~。ここはそこそこの規模ですから不可能じゃないと思うんですけど、、、、」
「あっし、ここの人じゃないんですけど」
「あ――ごめん。前言撤回させて」
せめて地元の人間がいれば少しは読めそうだが、それも無理なのか。
「お金は直ぐに返した方が良いですし、収益率が高いのが良いですよね」
「でしたら料理はやめましょ。収益率が悪過ぎますし」
「ん、確かに悪いですよね。低価格で提供は出来ますけど、収益が良いかは別ですね」
ワンコインで料理が食べれるというのは、裏を返せばワンコイン以内でやり繰りをしなくてはならないという意味だ。
それでも店がやってるんだから明確に利益は取れる。だが、利益率は決して高くはない。それはこの前の商売で勉強した事だ。値段を少し盛った上であれ程捌いても手にある金額は大きくはあったが、あれと同じ稼ぎがここで出来るとは到底思えない。
「利益率でいったら薬辺りはいいですね。僧侶の魔法が気軽に使えないか、使われない人物なら需要もありますけど」
「それはいいですね。でも、方法は?」
あっ、そっぽ向いちゃったよ。
「あ~~どうしようか。これはもう街で意見調査をすべきですね」
「ちょっ、調査!?あぁ、そういう発想なんてあるんですか!?」
意見調査というこの世界にはない発想に驚きが隠せないセレナさんを横目に、私は外へ行く支度をする。
「お姉ちゃん。ハリィも、行っていい?」
隣りで事行きを見守ってたハリィが私の服を掴んで聞く。
「うん。勿論いいよ」
「ん、、、、」
私の返答に頬を赤くして服をより強く掴む。
「ほい、じゃあ行くよセレナさん」
「あっ、分かりました。それと、ソラさん。あなたのその発想って、、、、」
「大した事ないよ。少なくとも私は」
はぐらかす様に返し、外へ向かった。
◆
「あぁ?何か欲しい物があるかぁ?金、酒、女。あぁ?もしかしてなんかくれるのか?」
「欲しい物?んあ~得にはないな。強いて言うならやっぱ金だろ?金がありゃあ余裕が生まれラァ」
「酒樽が欲しいぜ。いっぺん胃が破裂するまで酒を飲んでみてぇよ」
「欲しい物?ねぇよねぇよ。もう、俺は何も欲しくねぇんだ」
「嫁がほじいぃ!」
――連中をアテにした私が間違ってた。
「なんだコイツ等、金と酒と女しかないのか!?もっとあるもんじゃないのか?」
三大欲求に忠実すぎるでしょ、、、、
「全く使えない意見ですね。調査もあったもんじゃありませんよ」
「いっそお酒でも作る?それなら需要はあるし」
「違いますよ、ソラさん。皆んなが欲しいのは兎に角飲める“安い”お酒であって、ただのお酒ではありません」
安いお酒か。現代知識を使っても無理な気がするな。
「というか、普通に質問する人間間違ってませんか?」
「確かにそうですね。オッサンから聞いてもあの三つ以外答えが返ってくるとは思えませんし」
後ろで何か聞こえるが、知らない。私は手っ取り早くオッサン冒険者から若者冒険者に質問対象を変える。
「欲しい物?そうだな、仕事だな。他にも超常的な事。俺は名を揚げて有名に鳴るんだ!」
「そうですね、家が欲しいですね。近くの村からここに来たんですけど、家に戻るかここに根を張りたいですね」
「うーむ。今の事を考えるなら死なない備えが欲しいな。薬に小道具、挙げれば切りがない」
「金、酒、女!」
と、若者からは少しはマシな調査が出来た。誰だよ、三大欲求剥き出しのヤツは。
「現実的なものと、理想的なもので分かれましたね」
「ですね。供給は理想的なものは不可能ですけど、現実的なのは不可能じゃないですね」
「でも、家とかは不可能ですよね。薬も小道具も専門知識が必要ですよね」
うむむ、と供給の難しさに私達は頭を悩ませる。そもそもたった子供二人で供給が分かるなら世界は大富豪に満ち溢れてるしね。
「薬かぁ、そういや、、、、あんな手もあったかなぁ?」
「おっ、ソラさん良いアイディアがあるんですか?」
「いや、やめよう。これを使うにしても、それこそもう誰かが死ぬ!って時にしよう」
頭に思い浮かぶチョコにシャブシャブに、ペーパーな。良い子は検索禁止なアレ等が思い浮かぶ。
「やぁ、えっと。君は、、、、ソラくん?だっけ?おはよう」
柔らかみがある声で語り掛けたのはカナーの仲間の一人、キドだった。
「うえぇ、お前か」
「え!?うえぇって言わなかった。おかしいなぁ、僕君にそんな事言われる様な事したっけ?」
「いや。なんか生理的に無理で」
そんなぁ、と落胆の声を零すが――「そう、なんかそういうの好きじゃないんだよね」
何故かイライラするその煮え切らない態度に、私は悪いとは思っても引く。
「というか、なんでお前一人なんだよ。他のヤツはどこだよ?」
「あぁ、皆んなは朝早くから仕事に行ったよ。僕は寝過ごしてさ。皆んな僕を気遣って黙って行ったんだよ」
目の下に確かにあるくまを抱えてキドは言う。
「けど、昨日アホ程体動かしたカナーがクエストに行ってんじゃんか」
「あはは、ニマを助けたカナーには頭が上がらないよ。でも、僕もそんなカナーを助けたんだよ。昨日しでかした事を僕が夜遅くなるまで謝ったりしたよ」
そういえば、私の元に誰一人として文句を言って来なかったのは、、、、
「もしかして、私の分もしてたりしてる?」
恐る恐る聞く私。
「一応ね。ついでにだよ。ホラ、僕自分で言うのもアレだけど顔が良いじゃん。だからそれを利用してさ」
やっぱり。
ついでなんて言っているが、他人の代わりに謝りに行くのは簡単な事じゃない。
「そうか。悪いな。悪いから朝ご飯奢ってもいいか?」
生理的に苦手と言ってた自分が恥ずかしくなり、せめてもと提案をする。
「え?いや、別にいいけど、、、、」
「いや、奢らせて。私の分もさせてしまってしてすまない」
「いや、大丈夫だってさ」
頑なに遠慮をするキドだが、結局は根負けして朝食を私と一緒にとる事となった。
「そういえば、ソラくんは、どうして僕の事が嫌いなのかな?」
頼んだ朝食を口に運びながら随分と返しが困る話題を振る。
「嫌いじゃあないよ。うん、正直さっきの話しを聞いて良いヤツだとは思ってるよ」
「でもなんで?」
「それは――」
言い淀む私に、セレナさんは察した様に口を開く。助け舟ありがとう。
「あれですよ。ソラさんはそういう少しナヨナヨした感じのが個人的にそんなに好きじゃないんですよ」
うんうん。個人的にあんまし好きじゃないだけだよ。
「なんというか、堂々とした方がソラさんは好みですよ」
そうそう。自信なさげなのはちょっとね。
「カナリエさんとかが“ソラさんの好み”ですし」
イエスイエスイエ――――ス?
待って。何かがおかしい。
私がそう思ったが時既に遅し。
「カナリエ、、、、ってもしかしてあの金髪の子かい?でも、女の子だよね?」
「お姉ちゃんは、やっぱり、ああいうのが好きなの、、、、?」
「待って、落ち着こう。私のどこが同性愛者に見える?」
おかしいなぁ、私は普通にカッコいい男が好みなのに。
「でも、カナリエさんとソラさんほぼずっと一緒ですよね?」
「一緒だからってそうはならないでしょ!?私が先輩と一緒にいるのは先輩が変な事をしでかさない為ですよ」
「あのバカが勝手にいるんじゃなくて、お姉ちゃんが、あのバカと一緒にいる、、、、」
「ソラさん。やっぱりカナリエさんの事が、、、、」
「やめて。全くの事実無根だから!」
ジェスチャーを交えて否定しようとした時、むにっと柔らかい感触が手の平の中でする。
その柔らかな感覚は、そう、自分でもよく知る感覚で、本当に凄く柔らかい。
故に、それと似た感触のこれ。恐怖を胸に抱いて私は錆びついた機械の様にゆっくりとそれを見る。
「や~ん。ソラちゃん大胆」
一昔前のアニメによくあった気がする、腕の先に胸。それが私の身に降り注ぎ、戦慄を起した。
槍が如く刺さる視線に、好奇の目。やめてくれ、本当に同性愛者じゃないんだ。
引き離そとするが、たわわに実った胸が、指を弾き返しそうな弾力。けれども、吸い付く柔らかさ。その両方を兼ね備えて私の腕をついでに掴んで先輩は離さない。
正しくそう――巨乳。しかも美しい。
だが、(先輩の胸って、“こんなにデカかった”け――――?)
ウインクする先輩の表情の奥に、隠せないドヤりを見て私はそう思った。
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