第46話 判断

投げられた野菜を私は咄嗟に横へと避ける。


だが、冷静になった頭が判断する。これは揺動だと。


私は剣を瞬時に盾代わりに構えると槍の衝撃が走る。


「けっ、しくったか!」


「はは、しくるもなにも、お前の様な頭スッカラカンに嵌められるかよ!」


「クソがっ!ならこれはどうだ!」


眉を歪ませて悪魔は突き出した槍を三叉を利用し、剣を絡めて下ろす。


グッと下へ、剣を引きずられた私は断腸の思いだが剣を捨て、素手で殴ろうとした――


「ブッッ」




槍の衝撃を上回る激臭が鼻をつくと同時に、視界が消える。


――まさか毒?いや、違う?


「くたばれぇ!アマツグ」


「させないよっ!」


闇の中。絶無といえる情報の少なさだが、それでも悪魔の攻撃をカナーがカバーした事は理解出来た。


カナーが作った時間。私は即座に目を擦る。


違うと思った時、思い付いてしまった原因が可能であれば外れては欲しいと願うが、ベトベトした感触&戻る視界に絶望する。




「あーやりやがったなこのクソ悪魔!まさか“唾吐く”とは!」


そう、クソ悪魔は最悪の毒ではなく吐きやがったんだ、唾を。しかも先程食べた果物つきでな!


「はっ、テメェも正々堂々と戦おうとしなかったじゃねぇか。お互い様だろ?」


「そうかそうか。悪魔の言葉というのは随分と軽いな。相手が卑怯ならこっちも卑怯になるってか?」


「そっ、それは、、、、」


「隙きあり!」


私は地面の剣に魔法を使用して空間に入れると、自分の手元にも空間を作ってそこから剣を引き出し悪魔へと恨み辛みを込めて一閃。毒じゃなかったけど、最低が過ぎるこの行為に天誅を下さねばならない!




肩を狙った突きは悪魔の槍に阻まれるが、甘い。


剣の平で軽くはたき落としてやると、右肩を斬る。


「クソッ、卑怯者!」


「私が卑怯者なら、お前は不潔者だよ!くたばれぇ!」


ガチ切れしてる私は剣を力ずくで薙いで、骨を断つ感覚と共に悪魔の右腕を斬り飛ばす。


このまま足でも斬ってニマを救出しようと剣を構えたが、その隙きに悪魔は後退する。


後退する悪魔にカナーは鞭を足へ打つが、その鞭を意図的に腕に命中させた。


「へん。鞭が当たった時点で腕だろうが足だろうが関係ないね!どうせ引き摺るんだから!」


「そうか。そいつぁ残念だったな」


そう言って悪魔は鞭に噛みつき、私の剣撃を間一髪で避けながら引き――腕を自ら切り落とした。


足を取られず、剣にも斬られず。それでいて危機を回避した悪魔は口元を釣り上げ嗤う。


「オレサマの、覚悟をナメるなよ、、、、」


脂汗を浮かべる紫の肌。いくら不死身とはいえ痛覚がある身で自ら肉を鞭で切る。相当な覚悟がなければ出来ない筈だ。その汗の玉が激痛を語る。




「別に、お前の覚悟は最初っから舐めちゃいないさ。どんだけ聞いても口を割らなかったんだ。今更覚悟を疑うかよっと、まぁそれはそれでこれはこれだけど」


良い言葉。ちょっと相手を称賛するように目を閉じて言った。


悪魔はその言葉に別の意味で口元を上げたが、直後真ん丸に開く。


「テメェ!オレサマの槍を!」


「うん。まぁ、剣よりも何倍も痛そうな方法で肉を断ったが、、、、相手の骨を断つ方法捨てちゃいかんよなぁ~」


「ソラ今すっごい悪い顔してるね」


サラリと隣の味方にディスられたが、これはそれにして私は悪魔の槍を左手で持って悪魔を見る。


「どうするか?ニマを返すなら見逃すぞ?」


「愚問だな、オレサマが逃げるとでも?」


ガチガチを歯を打ち鳴らし、悪魔は凄む。


「腕なんて両方なくても、武器なら――まだあるぜ、ここによぉ」




道をうって悪魔は飛び出す。そりゃあ死なないのなら目的遂行の為にトライするよな。


飛び出した悪魔は槍を取り戻しに私へと向かうと思ったが、それとは逆にカナーへ向かう。


意外な決断。けれども、確かに妥当な判断だ。鞭なんていう武器を使用するカナーと、剣を使用して戦う私。以前に殴り合いを私と繰り広げたが、少なくとも不死身を相手に鞭と素手はないだろう。


「とやっ!」


カナーは咄嗟の判断で悪魔の顔面に鞭を打った。


ピシュっと鋭い鞭は顔の肉が切り、ついでに瞳を切る。


だが、止まらない悪魔はカナーへ走る。


ならばと悪魔にカナーは蹴り当てる。


しかしそれでも、クリーンヒットしてなお悪魔は前に進む。


これはまずい。私は悪魔を横から飛ばそうと一歩踏む。


「ぐにゅ」


とても――そう。とても地面とは思えない足音がなり、逆に私が横に倒れる。


(くそっ、果物が、、、、)




滑った私の視界の外。


カナーは悪魔の突進を止めるのを放棄し、ギリギリのところで避ける。


いや、違う。悪魔が攻撃を放棄しただけだ。


転んだ私を見て、悪魔は私へ攻撃する事にシフトした。


「オラァあ!」


攻撃されまいと槍を私は突き出した。


その槍は悪魔の走る勢いと相乗し、脳を貫通する。


だが、失敗だ。


コイツを相手に脳を潰すなんてのは無駄だ。


「うぐっ、あがっ。くっ、、、、脳を潰されたが、勝ったぜ」


貫かれたまま悪魔は体を後ろに引き、槍を奪い取る。




「くそったれ。頭に刺さったままじゃ使えねぇじゃねぇか」


悪魔はそう言って首をグリングリンと回す。


その後ろで誰かが衛兵さんこっちですと声を上げた。


ここでザッコさんが来ればどうにかなりそうだが、残念な事に別人だ。


「チッ、邪魔が入るか。仕方ない。取り敢えずは逃げるか」


「させるか!」


逃がす事だけはしたくない。焦りで動いた剣は空振りし、悪魔が口を開け――肩に噛みついた。


歯は人間のソレではなく、サメのようなノコギリの歯。


それが深く、ザックリと肉が刺さる。


右に、左に。そのエナメル質の歯で筋肉繊維を一つ一つ噛み切る。




「やめろ!」


カナーが噛みつかれている私を助けようを手を伸ばし、悪魔は飄々とその手を避けて捨て台詞を吐いて逃げる。


「け、こんだけオレサマは傷付いたのにお前等は結局それだけかよ。まぁ、でも次はこうじゃねーから覚えていろ!」


家の柱を掴んで登り、屋根へと向かう。


「待てっ、悪魔、、、、っ」


悪魔を追おうと私は歩くが、カランと剣を落としてしまう。


「剣が、持てない」


「ソラは動かないで。大丈夫、ソラは休んでて。私が助けに行くから」


「動かないでいいわけなんてあるかよ。偶然でも巻き込んじまったんだ。助けなきゃ」


剣を空間に仕舞い、私は悪魔がした様に柱を登ろうとするが、力の入らない右手では柱を掴めない。随分と痛くやられてしまったもんだ。


「大丈夫だよソラ。その肩じゃ登れないんだから」


私と違って屋上へと上がるカナー。傷はどうしようもないものだが、私は情けなさに歯を噛む。




(どうする?どうやって屋上に上がるか?いや――そもそも続けて戦うべきか?ここでおめおめと帰るのか?ご冗談を)


私は上の悪魔やカナーを見ながら地面で並走する様に走る。


走る度傷が広がり、ドクドクと血が流れるが私は顔を顰めても傷を気にせず走る。


「いててっ」


本当は涙の一つでも流したい痛みに弱音を軽く零すが、私はそれでも走る。それに、以前熊に引っ掻かれただから今更だろ。




上では屋根を踏み鳴らしながらカナーは悪魔を捕まえようと、悪魔はカナーを振り切ろうと駆ける。


チェイスなら本来悪魔が不利だが、悪魔は瓦を蹴り飛ばして時間稼ぎをしている。


カナーは瓦を気にしないようにしているが、大きく蹴られた瓦が頭の近くを通る。下手したら目に入るなアレは。


あの間に入って助けれない事にまた情けなくなるが、私は悪魔の行き先を予想する。


この村の建物はそんなに密集はしていないから、飛び移ってでの移動は不可能でいいだろう。


なら基本は一本道。ここから分岐で渡れるルートはそんなに多くはない。飛び移るからには端に寄らなくては無理だから、心理的には次移る所に寄る筈だ。


軽く予想の根拠を整え、それを踏まえて私が悪魔を見て判断した。


(アイツは、左に行くな)




その瞬間、悪魔は中央から若干左に寄せていたのから一気に左へと寄せる。


ズッコケに行ってると思えそうな程の急なカーブ、そのまま転べばよかったが、悪魔は屋根を蹴る。


「左に跳べカナー!」


「オーケー!」


いきなりの命令。だが、カナーは目を開いても驚いて足を止めることなく跳ぶ。


カナーはこれで悪魔の跳躍にコーナーよろしくな差をつけれずに済むが、、、、今度は私は用済みか。


左側。そう、視界の関係上もう私は二人が見えないのだ。


左に回るかとも検討したが、後ろから声が掛かる。


「大丈夫かい君?肩怪我してるけど?」


「大丈夫です。では、これで。急いでるので」


「いや、悪いが事情聴取いいかい?君のその肩に関わる事でね」


衛兵さんにそう声を掛けられる。


可能であれば無視して助けに向かいたいが、肩を考えれば逃げても追いつかれるだろう。




「分かりました。同行します」


腹を括って衛兵さんに洗いざらい吐こうと苦い決断した。


「あぁ、騒ぎがあるって、やっぱりここでしたか。ソラさーん!」


いや、手の平を返そう。


「ソラさん、その肩、、、、」


「丁度いい所に来たよセレナさん。ありがと」


「えっ、あっその、、、、」


「『回復ヒール』してくれる?」


「、、、、回復ヒール


セレナさんは何か聞きたい様な表情を浮かべ、魔法の使用と躊躇ったが黙って使用する。


傷口が熱くなり、ゆっくりと埋まる感覚。回復してる実感の中、ググッと右手に力を入れる。


「ありがとうございますセレナさん。それじゃ私は助けに行きます」


「あっ、あの――」


「待って君。事情聴取は?」


「セレナさん頼みましたよ!」


「あっし!?」


随分と面倒な無茶をセレナさんに振ったが、セレナさんは衛兵さんを見て「あっしが代わりに答えます」と言う。バイならセレナさん。




「そして悪魔――今から会いに行くぞ」

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