第45話 失敗
――「はぁ」
箒と塵取りを持ち、従業員として自分達の部屋を掃除するセレナ。
しかし、その姿は固く、掃除もどこかぎこちない。
視線は泳ぎ、手が進まない。
理由は明白だ。今更来た自分も行けばよかったという罪悪感。それがセレナの口を開ける。
「ねぇカナリエさん。あっしはやっぱりソラさんについて行くべきでしたかね?」
今空達には悪魔を追い詰めても、殺す方法は存在しない。いや、殺すとは表現が適切ではない。
『封印』魔法。
非常に複雑な魔法で、素人には到底まともの使えず、封印をまともに使用するなんてのは余程の練習と、魔法に関しての実力を備えなくてはならない。無論セレナは素人。
相手の魂――そう定義されているものを被使用者の身体から強制的に乖離させ、別に次元から実態が存在する三次元に何かしらの顕現させる。即ち、一撃必殺の魔法。天地無双の火力を有さず原理上どんな相手でも封殺させる事が可能。
方法としてはこうであるが、そんなのを異世界どころか現代日本でさえも理解出来る訳ない高等魔法。第一感覚が発動条件である魔法を、ここまで高等のを方法が口伝や本で伝えられただけでも奇跡に等しい。
しかし、本物の不死の相手をどうにかするには現状この奇跡に奇跡を重ねた魔法が必要で、少なくともあの悪魔には封印魔法しか効かないのだろう。
いくら電光石火でニマを取り返して帰還するにしても、狙えるのなら行くべきだったか。
「いや、信じているんですよ。空さんの事を。でも、ちょっと少し、、、、」
違う。自分の胸のを締めつけるのは、そんな打算的な事ではなく――
「さぁ?分かんないや。でもでも、セレナちゃんは今行くべきだと思ったならそうなんじゃない?」
打算的な事なんかじゃなく、単純なもしもと思った失敗。
あの悪魔は弱い事をセレナは知ってるが、その拭えない悲観的観測がただ不安を募らせる。
「私は空ちゃんに何も出来ない位弱いけど、セレナちゃんなら何か出来るんじゃない?」
カナリエの言葉に、中途半端に業務を選んだ自分を自嘲する。
「カナリエさん。あっしのすっぽかし。穴埋め出来ますか?お礼に、、、、に?すみません。特にあげれる物があっしありません」
「ふふふ!大丈夫だよ。誰かを助けるのに、後ろは気にしちゃいけないよ。ホラ!私に任せて」
「いや〜ちょっと心配ですね」
「え!?酷い!まいっか」
ケロっと笑うカナリエに、セレナは小さく「ありがとう」と聞こえないように礼を言い、今行けば回復程度出来るかと信じてドアを開ける。
(そういえば、、、、ハリィさん。どこにいるんですかね?)
ふと、真後ろの開いた窓を見て思う。
◆
「はっ――はあぁ!?お前が二人?一体どういう事だ!」
予想通り驚く悪魔。だが、誰が悠長に教えてやるか。
私は剣を上段に構え、素早く突進する。
向かう私に悪魔は反応して槍を突き出す。
「とりゃっ」
しかし、その槍は横から伸びる鞭が絡め、私の射線から外す。
ガラ空きになった悪魔懐。私はそこに飛び込み――首を刎ね飛ばす。
ズバン。
首を裂き、頚椎を粉砕するが如く切り裂く。
胴から頭が離れる。流石に動かないだろう悪魔を通り抜けてニマの救出をする。
相手の土俵に立つ事はない。私は縄を剣で切り、抱えて逃げようとした時。
(いや、おかしいだろ。ありえないでしょ“ソレ”)
物理学、生物学に反攻する化身か。
頭部を失ったハズの
身体とは、脳から送られた信号で動く。そう、生物学的にそうなんだ。
(なのに、、、、なんで動いてんだよっ!?)
鞭に絡められた槍を捨てた悪魔の体は素手で私に襲い掛かる。
「くそぉぉ!!」
私は反射的に剣を突き出すが、その剣で腕を切ればよかった。
剣は悪魔の心臓を貫き、ドブドブと血液が吹き出すが悪魔の突進は止まらない。
恐れを映さないその腕は、私の手から無理矢理にニマを取り上げる。
「ニマ!」
自分の頭を拾う悪魔に、カナーは鞭を仕舞って三叉の槍で刺しにかかるが。
悪魔は難なく槍を避け、更には槍を掴んで取り返す。
一瞬の奇襲。大きなミスもなくほぼ完璧にこなしたつもりだったが、不死身の悪魔はそれを凌駕した。
悪魔は苦悶の表情を浮かべながらも、頭と人質を奪われずに私達の出鼻を挫いた。
分離した頭を悪魔は胴に引っ付ける。
離れた筈の、二度と繋がらない筈のそれは繋がり、悪魔に声を上げさせる。
「この、卑怯者、、、、」
「あ?人質拐った奴に言われたかねぇよ!というか、本当に卑怯なのはその不死身っぷりだろ!」
デタラメだ。本当にデタラメなその力。いよいよ誰がコイツを造ったか気になる。
「ウルセェ!オレサマの決闘をこうでもしないとお前は受けないだろ!」
「当たり前だ!!!!」
「――――――、、、、」
ふっ、絶句させてやったぜ。って、口撃よりも攻撃。
私は剣を今度は中断に構え、ニマを抱える腕を切り落とそうと寄る。
けれど、「お前!どうしてお前“等”はそう、心がないんだッ!」窓に寄り掛かって悪魔は叫ぶ。
悪魔とは思えない訴えに、嘘がない本心。私は歩みを止めて返す。
「心もなにも、敵の術中に飛び込むなんてバカだろ。それと、等とは一体なんだ。コイツと一緒にするな。私は、、、、そう。アマツグだ」
「わたしはカナー!スーパーハイパーウルトラパーフェクトキングトップアイドルだよ!!」
私達二人の返答に悪魔の琴線に触れたのか、ギリっと自らの歯も折らんばかりの勢いの憎悪の表情を浮かべる。
「本当に、お前等とは解かりあえないな。必ず殺してやる、、、、」
どこか、私ではない誰かに向けて吐露したような言葉を残し、悪魔は窓から飛び下りる。
逃げた悪魔。追うか、追わないか。
初手で奪還出来なかった以上次来た時に奇襲が効力を発揮するか――否。
既に前回奇襲をかまして今回も奇襲。しかも今回はカナーに驚いて出し抜いただけだ。
(今度もまた私のソックリさんを見付けて来るか?そんな事出来る訳ないじゃん)
結論。追うしかない。大丈夫初手をしくじった代わりに悪魔にニマを背負わされる事が出来たと思えばミスの一つだ。
私は汗を一滴垂らして飛び込む。それに続いてカナーも飛ぶ。
狭い路地を駆ける悪魔だが、ニマを抱えてて足取りは重い。
その重い足取りと反対に私達は軽い足で走る。ニマがデブでよかったよ。
私がどうやってニマを取り返すか思案してると、カナーは鞭に手を掛ける。意外と便利だなソレ。
「当たれ!」
狙いは悪魔の足。しかし、しなった鞭を悪魔は間一髪ジャンプで躱す。
ならばとカナーは今度横ではなく縦に鞭を振るが、悪魔はこれも避ける。
だが速度の差は歴然。追い付き始めた私は剣を構える。
しかし、二度ある事は三度あるのか。悪魔は私の剣撃を避ける。
まさか三度も避けられるとは。
チャンスを棒に振った私達は、最悪な事に裏路地にから表通りに出てしまた。
可能なら迷惑が掛からない裏路地で決着をつけたかったが、こればっかりはどうしようもない。
(大丈夫。迷惑を掛けなければ大丈夫――)
「悪ぃなオッサン。俺には目的があるんだ」
そう言い、悪魔は道路を歩いてた馬車の車輪に槍を突っ込み、“馬車を盛大に横転させる”。あぁ、、、、もう迷惑が。
横転した馬車の荷台から音を立てて落ちるは新鮮な野菜や果物。
悪魔はニマをロープで自分の背中に縛り付けながら、二つ拾ってその一つを拾い食べる。
「腹が減って、どうしようもなかったんだ畜生。んぐっ、ぷぅ。さぁ、決闘を始めようぜ」
腹に食べ物を入れた悪魔は私目掛け決闘の火蓋を切る様に、もう一つ拾った物を投げた――
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