第44話 再来
「、、、、うん。そういう事があってね。でも、もう埋もれちゃったんだ」
「そうなの?それで、何かあった?」
「お宝はあったかもしれないけど、私はこれしか手に入らなかったな」
「これって、、、、」
「触らなくていいよ。汚いから」
私はジギルに遺跡の事を報告すると、歯を空間に仕舞ってテーブルに向かう。
「どうだった?空ちゃん」
「さぁ?今の所はどうとも言えませんね。遺跡が崩れてるから探索は難しいし、それに見合うお宝があるとは思えないからギルドから依頼が来るかは分かりませんね」
宗教施設って、そもそも宝なんかあるのかな?
「んーも〜ドク。力使い過ぎだよ。あれ完全にドクが力使い過ぎたせいじゃん」
「それについてはすまないが、俺はその場の最善の判断で動いた」
「凄いアッサリしてるね、ドクは。でも遺跡を潰したのは惜しいなぁ」
「ですよね。お宝もそうですけど、考古学的な価値としても、、、、」
おっ、オークが目を逸らした。やはり罪悪感はあるんだな。
「んまぁ、多分ギルドからは貼られないよ。少なくとも私は一銭も儲けていないからギルドが利益を見込んで貼るのはないんじゃない?」
うんうんと皆んなが現実的なこの答えに頷く。
「じゃあ?どうする空ちゃん」
「別に、どうともしませんよ先輩。やる事がないなら別の事を探す。それだけですよ」
ただ、それはそうとね。
「今日はもう飲みましょう。もう1日も終わりますし」
ひいふうみぃと皆んなが顔色を変える。やっぱり好きなのね。
まぁ、私も好きだし、笑いながらメニューを頼む。
「皆んなは何食べたい?今日の報酬を分配せずに全部ディナーに当てればそこそこ食べれるけど」
物拾いらしい安い賃金だが、食費が食費。ギリギリまともに食べれる。
「空ちゃん私唐揚げ食べたい!」
「失礼ながらあっしも」
「わたしも~」
「いや、この店にはないよ唐揚げ」
パラパラと改めてじっくりと見てみたが、やはり唐揚げはなかった。
「え~~今日は唐揚げの口なのに~。空ちゃんが作って」
「無理です先輩。第一材料があっても私料理下手なんですから」
跳ねる油にビビって唐揚げを焦がす私。うん。容易にイメージが出来てしまう。
「、、、、今日は無理でも、また別の日には出来るだろ。幸いここはギルド。醤油?とやらの珍しい物でもギルドのパイプなら取り寄せてはくれるだろ」
「あー出来るだろうけど、あの二人だからなぁ~毟られそうだ」
「なら餌をぶら下げればよいだろ。例えば唐揚げのレシピを教えてやるってな。そうすれば、いや、止めよう。金が溜まったら頼むといい」
そう言い、オークはもう一つのメニュー表へ視線を戻す。
「うーん。じゃあどうする?」
「そうだね~あっ、私これ食べたい!」
「じゃあ、あっしはコレ。それと、ソラさん。アイス頼みませんか?」
セレナさんは結局悪魔とかのゴタゴタで食べれなかったアイスを頼んでいいかと聞くが、答えは一つ。
「食べましょう食べましょう。最近こういうの食べてませんでしたから。げへへ」
唐揚げはないけど、皆んなアレヤコレヤと頼んで食べ、笑顔で――予算オーバーを割り勘した。
◆
割り勘をした日の次。滴る汗、動く筋肉。私は久しく忘れてた筋トレを朝にゆったりとしてると。
「ねーねー空ちゃん。私思ったの」
「ほうほう先輩。一体どんな無駄な事を思い付いたんですか?」
「聞く前から無駄判定!?それはないよ~空ちゃん」
先輩。チラチラ見たって私の
「あのね、私思ったんだよ!私の魔法ってなんか空ちゃんが傷付いた時ばっかり強くなるよね?」
「まぁ、その通りですね。原理ってなんでしょうか?」
「だからもしかしたらさ、傷付いた空ちゃんを見ると私が強くなるバフがあるんじゃないかなって」
「そうですね。先輩今日も安心と信頼の無駄な思いつきをしましたね。ここどこか分かりますか?」
「あっ、そうだ!ここあそこじゃないんだ!」
しっかりして下さいよ先輩。
「お姉ちゃん」
先輩がガビーンと空振りする隣で、凄く申し訳なさそうなハリィから声が掛かる。
「どうした?お腹減ったか?ならちょっと待ってて」
「いや、そうじゃなくて。そん、あの、、、、昨日役に立たなくて、ごめん」
と、昨日魔法を撃たなかった事や諸々を謝る。
目尻に涙を浮かべ、スンスンと鼻を啜って小さく泣く。
「あぁ、泣くな泣くなハリィ。なんだそんな事か別にいいよ」
ハリィにハンカチを差し出しながら私は思う。確かに魔法どころか銃すら撃ってないが、そんな事はハリィの事を考えれば非常に些細だ。
熊討伐のあの短い間。私の努力だったり身代わりだったりがあるが、それにしたってこの懐きよう。昔はあの魔法で誰も頼れる人が出来なかったのだろう。
「私こそ悪かったよハリィ。ハリィが人前で魔法使いたくない事位察して当然なのに」
その小さい泣き声に、一体どれだけ大きい悲しみがあるのか。私は知らないけど、ハリィに否がないのは明らかだ。
「今度さ、聞かせてよ私に。ハリィの事」
「ハリィの事、嫌いにならない?」
「ならないならない」
「ならないよハリィちゃん。だって私ってドジなのに空ちゃんはむしろずっと一緒にいてくれるんだよ」
先輩はドジと言うか、ド天然と言うか色々とあれだけど、まぁそういう事だよ。というか、一緒にいてくれるに関してはクソ上司におまけ感覚で付けられてませんでしたっけ?
「、、、、うん。分かった」
コクリと頷き、ハリィは少しだけ笑う。
笑ったハリィの頭を撫でながら、どんな過去でも受け止めるぞと心に決めてると――
「ソラ!ニマがいない!」
ドアを蹴り破る勢いで開け、叫ぶカナー。
「ニマが?いついなくなったの?」
「それが分からなくて。代わりにこれが」
と言って差し出したのは手紙?違う、地図だ。
地図はこの街の地図で、とある建物にバッテン印。
そしてーーこの世界の字の綺麗さが分からない私でも分かる幼稚園児が殴り書いた字が端に。
『オイオマエ。オレトモウイッカイショウブシロ!ナカマヲサラッタ!』
はは、なるほど。
私を誘き寄せる為にニマを攫ったって訳か。
私とカナーは顔がソックリだし、あの頭じぁ皆んなの顔も覚えてないだろうから、私ソックリのカナー近くにいたニマを取っ捕まえた訳か。バカかな?
となれば行動は一つ、今回もガン無視、、、、
「今回ガン無視は無意味だと思いますよソラさん」
無視を決め込もうとした時、カナーに引っ張られて来たセレナさんからストップが掛かる。
「前回と違って今回は相手にカードがあります。前回はカードを持たずに待っていましたが、今回はカードがあります。そのカードがドクさんかキドさんなら、待ってた方が得策かもしれませんが、カードはニマさん。お二人方と違って勝手に脱出出来る人間ではありません」
脱出出来ないとなると、悪魔の匙加減で殺されると。
「でも、それって“関係ない”んだよなぁ」
現状を判断した一言。それを聞いたこの場の全員が息を呑む。
「だって、私って公共機関とかじゃないんだよ。ニマを守る義務はない。それよりもニマを捨ててまたやって来る悪魔をとっ捕まえた方が優位だ」
そう、義務はない。こうすれば少なくとも圧倒的に優位で戦えは出来る。
「ソラさん、、、、それ。本気で言ってますか?」
「ソラ。わたしに、ニマを見捨てろって?」
私の案に、二人は眉を顰める。
当たり前だ。私だって眉を顰める内容だ。
「そんなの、嫌に決まってるだろ」
スッと立ち上がり、腕で汗を拭ってカナーの横に立つ。
「決めろよ。最善解と、最適解。どっちを選ぶ?私なら、ニマを救う最適解を選ぶね」
先輩やセレナさんやハリィを見捨てる?それも自分の為にか?そんな最善解クソ喰らえだ。
「どうだ?早く決めろよ。ニマが待ってるぞ」
「ーーーー、、、、決まってる。行くよ。アイドルは、味方を見捨てないよ!」
「決まりだな」
私はカナーがやった様に、ドアを蹴り破る様にドアを開けて部屋から出て行く。
その際、私ソックリのカナーを連れて。
◆
「ねぇ、ソラ。今思ったんだけどさ」
「え?今更なに?」
地図のバッテン。そこに向かって歩いてる時、カナーは口を開く。
「なんでソラも一緒に来てるの?セレナがなんかソラの所に向かおうって言ってたけど、なんで?」
「えっと、あーーそうだな。お前には後で説明するよ。ただ、私にも責任があるから来たんだよ」
「責任?」
首を傾げて聞くカナーに、私は鼻で笑いながら顔を見る。
「ん?もしや、このわたしに惚れた?まぁ、わたしはアイドルだからファンとは付き合えないよ〜」
顔見ろ顔。私のな。というか、性別!
と、無駄話しをしてるとバッテン印の建物の前に着いた。
別段変な所も、特別な所もない二階建ての建造物。しかし、二階の窓から見えるはあの悪魔。
きっと、あの向こうにはニマもいるのだろう。
ーーさぁ?どうする?
(あの悪魔からなら一本は容易に取れるだろう。でも、どう取るか?殺す方法は今のところなし。セレナさんが『
なら目的はニマの奪還だな。
目的を定めた私は、ハリィに耳打ちする。
「フッフ!ようやくやって来たか!さぁ、オレサマと勝負しろ!そしてーー」
青冷めて言葉を切る悪魔。それもそうだろう。
まさかついさっき来た人間が、階段を経由せずそのまま跳んで剣を携えて二階に突っ込もうとしてるのは。
耳打ちを終えると同時に、運動会の組体操よろしくの動きでカナーを踏み台しにて私は跳び、私は悪魔の脳天に剣を突き刺そうと振るが、悪魔が三又槍を突き出す。
それを避けようと剣を盾にし、防御する。
「うおおぉ!オマエ!クソセコイじゃねぇか!正々堂々と正面から来やがれよ!」
「ハッ!悪魔に正々堂々なんてするヤツは大馬鹿だろ。つーかお前は逆にコソコソしろよ」
私はケッと吐き捨ててニマを探して辺りを見渡す。
悪魔の向こう、そこに椅子に縛り付けられて猿轡もされたニマがいた。
さて、どう出し抜くか。
目の前の悪魔は以前真っ二つにしたが、それでも動く不死身。
例え斬り捨てたとしても足を掴んで引き止めるだろう。ならーー
「来い!カナー!」
窓ににじり寄り、腕を上げて私は痛みを覚悟する。
シュッと風を切る音が一つ。
音と同時に私は腕に圧迫感を感じるが、その場で踏ん張り腕を大きく振りかざす。
フッと、影が上がる。
影のくせしてキラキラと、それこそミラーボールみたいに輝きそうな影が降り立った。
鞭を私の腕に絡め、私が振り上げる勢いで飛ぶ。
さぁさぁ降り立つは自分も信じたくない瓜二つの他人。果たして、悪魔はどう見るや――
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