第43話 探索

「はわわわ、、、、壁画があるって事は、ここは宗教施設!これは凄い価値ですよ!」


「いいんですか?セレナさん。これセレナさんの信じる宗教と違うんじゃないんですか?」


「まっ、まぁこれはあっしの趣味ですし、多分大丈夫ですよ。あった虫眼鏡」


と、ご飯を食べている時の様な表情で貪る様に壁画を覗き見る。


私も歴史とかは好きな方なので、セレナさんと並んで壁画を見る。




描かれてた壁画は古代エジプトの様なまだ分かる絵で、人らしき絵の手には棍棒なんだろうか。そういうのが握られている。


何を描いてるのか?随分と珍妙な絵の意図を考えてみる。


「ん?」


他に情報はないのかと視線を動かすと、チラリと目に文字が入る。遺跡だから字は多分古代文字なのだろう。


通常なら一般人の私に古代文字は理解出来ないが、天界から貰った識字能力で意味が勝手に解る。


「えっと、意味はーー」


「待って下さい。この字ならあっし読めます」


私の訳を遮り、セレナさんは必死に読み解こうとする。




「あ〜〜『いは、鳥を持ちて“串に幾度と刺し”てせう油、血吸いごろし、薑、酒につく』」


なんか串に刺すなんて物騒な言葉が聞こえたのだか、気のせいだよな?しかもなんだソレ?はじかみ


「『かれ、麦の粉につくて滾る油に入れるべし』、、、、」


「なんですかこれ?なんとも意味不明な文章ですねセレナさん。油に入れるって、ヤバイですね。」


壁画を指差してセレナさんに笑いかけるが、セレナさんはフルフルと震える。


「うっわー!マジっすか!生きた鳥を油にブチ込むとかアイツ等本当に頭おかしいでしょ!しかも色んな物に漬けた上でとか」


と、この壁画を描いた主に割とガチにドン引く。まぁ、私も油に入れるべしって言った時ヤバイと思ったし。




「にしても、マジでコレなんですか?儀式?」


儀式なら鳥を生きたままアレやコレやに漬けて油で揚げるのはなんとなく理解出来る。


だが、なんだろうか?なんだか記憶のどっかに引っ掛かるぞ。


(いや、まさかね。“異世界知識”なんて、、、、)


私の記憶に引っ掛かる理由なんて、それしかないだろう。忘れる程昔の事なんて日本の記憶でもないと。


(でも、異世界移動は不可能な筈じゃ?)


真偽を確かめるべく、私は壁画を見る。セレナさんの誤訳があればきっと気のせいと思うだろうから。


(えーと、『先ず鳥肉を用意して、その肉をフォークでプスプス刺すと醤油、ニンニク、生姜とお酒に漬け込み、そしたら小麦粉をまぶして熱い油に入れます』)


なるほど。どおりで記憶がある訳だ。


「なんだコレ唐揚げのレシピじゃねぇか!誰だよこれ描いた暇人!言われてみれば棍棒が鍋ぽく見え始めたし、ニュアンスとかのあれで勘違いしちゃったじゃないか!てかこの世界醤油あるのね。始めて知ったよ」


いや、本当に誰が描いたんだよコレ。




「唐揚げ?なにそれ。わたしにも教えて〜」


私の発言に興味を持ったカナー。


「ふふん。唐揚げってのはね、すっごくおいしい料理なんだよカナーちゃん。カリッとした衣の下にジューシーな鳥肉が脂や旨みを出してさ」


「すっごくおいしそうだね〜」


「勿論だよ。空ちゃんも好きでしょ?」


「好きですよ唐揚げ。店で頼む程度には」


「ソラさん。その唐揚げっていうのギルドで頼めますか?」


「いや、ギルドではないんじゃないかなぁ?まぁ、材料さえあれば簡単に作れると思うよ」


私は作れないけど、多分先輩は出来るよ。




「ホラ、皆んな早く先行こ。話してるとお腹減っちゃうからさ」


私はそう言って遺跡を見渡しながら歩く。


遺跡は損傷がそこそこにはあるが、この遺跡自体が非常に古く見える為建築設計は優秀なんだろう。


「なぁ、ソラ。お前はこの遺跡をどう見る?」


「ん?どういう意味だよ」


「構造だ構造。脆い部分を避けないと生き埋めにされるぞ」


「そういう事ね。さぁ、どうだろう?お前なら分かるんじゃないか?」


建築学なんて勉強しなきゃ分からないしな。


「悪いが建築学は、知らなくてな。そこはニマに任せてる」


ニマって確か、あの冴えないデブの名前だったな。え?大丈夫かな?




「ねぇ、正直ニマって大丈夫なの?」


「なんだ?お前ニマと一言も喋った事ないだろ。それなのにそう思うのか?」


「そうなんだけど、なんと言うか色々とね〜〜」


振り向けば後ろでノシノシと歩くニマ。


出来れば見た目で人を判断したくないが、その歩き方もそうだが容姿や服装が一昔前のオタク像をイメージさせる暗い感じだ。


どこで選んだのか、バンダナにチェック柄のシャツとジーンズ。他にも厚底眼鏡やバッグ。


これで頼れと言われて頼れるのはアニメ関係だけだ。




「安心しろ。見てくれは悪いし、服のセンスもないが、悪くない男だ。嘘はつかないし、約束は守る」


確かに嘘ついたり約束破ったりはしない気がするな。


「それに、俺に勉強を教えたのはニマだ。ニマは貴族の四男に産まれてな。兄弟の中じゃ一番頭が良かったらしいぞ。特に暗記は抜きん出たらしい」


確かに。お気に入りの話数のセリフとか丸暗記出来そう。


「とはいえ、四男は四男。家は長男が継いでな、ニマは冒険者になったのさ」


「そうなんだ。でもさ、家は継がなくとも頭が良いなら経理とかあるんじゃないのか?」


「まぁ、な。ただ、アイツの容姿の問題でな。どうしても肩身が狭いらしい」


「、、、、なんか、悲しいね」


頭が良くても、顔でそこを見られないってのはさ。




オークはそう言う私にそうか、と返してニマに話しを振る。


「なぁ、ニマ。お前はどこが最も硬いか分かるか?」


「はぁ?いや、拙者建築学知らないから分からないでござるよ」


おい、あんだけ褒めて知らないのかよ。


「知らないのか?」


「しっ、知らないでござるよ。だからその、そんな目で見ないで欲しいでござる、、、、」


ビビるな。見ててちょっと恥ずかしいぞ。


「でも、この建築の形は見た事あるでござる。多分そろそろアレがあると思うけど」


プイッと指差すと、その先に壊れた扉がある。




「ここがアイツ等の神殿なら、ここに中央ホールがあると思って」


中央ホール。所謂礼拝堂堂というやつだろうか。


ドアを子ググるとそこは体育館の二階みたいな感じで、ちょっと上から見る程度の足場があって、下に礼拝堂が広がってるんだろうと伺える。


「やるじゃんニマさん。あぁ、でもここ降りるべきかな?」


一応上の天井は壊れてはいないのだが、なにかしらの拍子で壊れそうでおっかない。


「どうする?降りる?降りない?今のところお宝とかないけど」


道中うまみがないのなら、この先うまみがあるか微妙だが、私の問いにカナーは答える。


「へへ、アイドルは先陣切って行くんだよ!」


自信満々に吐き捨て、カナーはロープを掴んでシュルっと下へ飛び込む。


飛び込むカナーを見て先輩やセレナさん。他に人も飛び込み、最後に私もロープを掴む。


(待てよ。このロープ、誰が出したんだ?)


ロープの先に輪っかを作り、その中に杭を打ったロープ。こんなの作ったら音で気付きそうだが、全く分からなかった。


まぁ、どうせセレナが出したのかな?




誰一人今までやって来なかったし、セレナさん以外ありえないので、私は早々に思考を打ち切って下へ降りた。


松明だけなせいで視界が酷く、辺りを見渡してもよく分からない。


「あー視界が悪過ぎますね。松明結構持っても全然ですね」


電球とかあればなぁ〜とは思うが、この異世界じゃなぁ。


「ん?」


コツリと靴の裏に硬いものが当たる。


なんなのか拾ってみると、それは動物の歯らしきものだった。


歯があるなら他の骨もありそうなのに、靴の下には他に何もない。




疑問に思っていると、私は誰かに強く手を引っ張られた。


そして、私が元いた位置に見える。“巨大な蛇”の頭部が。


「うわぁあぁ!!あっぶな!」


「はわはわ。本当に危ないよ空ちゃん!今すぐ逃げなきゃ!」


いつもは全然力なんてない先輩が、強く私の手を引く。


私も引かれて全力で逃げるが、巨大蛇の速度は思ったよりも早い。




くしゃぁぁぁと声を上げて襲い掛かる蛇。大きな口を開け、唾液を飛ばす蛇に私は剣を取り出してそれを口に突き刺す。


新品の剣は切れ味が良く、グサリと口内に深く刺さった後、横に薙ぐ。


切れた痛みに蛇は鳴いて苦しむ。


私と先輩はそれで稼いだ時間で皆んなに蛇を知らせる。




「皆んな!奥に大きい蛇がいたよ!」


「分かってる」


目の色を変えたオークは、冷静な声で私にそう返す。


オークだけではなく、カナーにキドもまるで別人な表情で佇む。


「どうするドク。僕達はまだ2回しか戦ってないけど、巨大蛇に勝てると思う?」


「情報がない。ソラ、蛇はどれ位だ?」


「悪いけど、分からない。ただ、私の半分食べそうな位口が高大きかったよ」


「そうか、少し難しい相手だな。カナー。お前に判断を任せる」


決まってる。そう言ってカナーは鞭を取り出す。


「行くよドク!そしてソラ!わたしの本当の強さを見てね!」




鞭を一閃。鋭く撓った鞭が蛇に切れるような傷をつける。


だが、傷は浅く蛇は自分を攻撃したカナー向けて攻撃しよう這う。


カナーはもう一撃鞭を入れようとするが、ダメージはそんなにない。


私はカナーを助けようと飛び込み、攻撃を剣で防ぐ。


「全く、無茶するなよ火力が出てないじゃねぇか。ハリィ!コイツに魔法を一発撃ってくれ!」


私はハリィに後方支援を要請するが、ハリィは魔法を撃たずオドオドする。


(しまった。そうだ、ハリィは人前で魔法を撃ちたくないんだ。今の私達なら兎も角、コイツ等の


前じゃ、、、、)


ハリィの後方支援が望めないならこのまま引くかと悩むと、「ウオォォォ!!」とオークも野太い声と共に風を切る。


オークは自前の武器と思われるハンマーを、人間ではありえない力でフルスイングする。


異形な筋肉がバネが如く収縮し、そして一気に伸びきった筋肉から繰り出される怪物の力と書いて怪力と読むに相応しい力が振るわれる。


鉄槌は蛇の体を打ち、鱗を砕く。




オークの重撃を喰らい、相当なダメージを与えられたが、蛇は逃げずに前へ進む。


だが、「無駄だよ。『樹根スネアツリー』」何度か見た魔法をキドが唱え、樹の根が蛇を縛る。


縛られる蛇を見て、私は今ならオークのダメージが入ってるし逃げれるか思案すると、カナーが笑う。


「ふふ、さっき無茶するななんて言ったけど、余計なお世話だよ。ハリィの本気、そこで見てて」


その言葉と当時に、カナーはどこからともなく指先から液体を滴らせる。


それを鞭にべっちょりと絡ませて一閃。


初撃と二撃目と同じく傷は浅いが、カナーが自信満々で放った攻撃。


しかし、蛇に大きな変化は起きなく、何にそんなに自信があったか疑問だ。




樹の根に縛りつけられた蛇は、カナーの攻撃を何度も受けながらも体を上手にクネらせ、脱出してカナーへと向かう。


「ホラ、こっちこっち!」


蛇を煽る様な発言を投げ掛けながら、カナーはヒョイヒョイと蛇から逃げる。


私も蛇に噛まれない様に逃げが、おかしい。私を噛もうとした時の早さがない。


「っしゃあぁぁぁぁーーーーーー!!」


素早さがガクッと落ちた蛇だが、それでも私よりかは早く、齧りつこうと口を開ける。


けれども、口を開けたまま蛇は動きが止まった。


何故なのか。理由は分からないが、原因なら分かる。


「へへ、どう?私の『毒魔法』は?凄いでしょ?」


私と蛇、どちらに言ってるかは分からないが、確かに毒は強力だ。オークがコイツを信頼してたのはコレが理由か?ん?じゃあ、あの時もしやコレを私に使うつもりだったのかアイツは。確かに直接的な攻撃じゃないけどさぁ、、、、ダメだろ。




とはいえ、動けないのは大きなチャンス。毒にやられた蛇へとオークは素早く駆け寄り、ハンマーを振る。


オークの攻撃に、蛇は重いボールの様に飛ぶ。


と、その時、ゴゴッと嫌な音がする。


「まさかーー」


「逃げるぞ!少し暴れ過ぎた。崩れるかもしれない!」


オークの声に皆んな慌てて逃げ、ロープを登る。


しかし、肝心のロープだが、「クソッ!二人同時に登るな!支えが壊れる!」あれでは二人同時になんて出来ない。どうすれば、、、、。


そう悩んでると、ポロリと一本のロープが新しく垂れる。


「もう一本ロープ作りました!これなら少しマシですよね!?」


と、上にいるセレナさんが叫ぶ。




「あぁ、ありがとうセレナさん!危ないから先行ってて」


「大丈夫です。皆んなより先に逃げる程、あっしは薄情じゃありませんよ!それに、、、、」


グヌヌヌと体重の問題で今にも落ちそうなオークを、セレナさんは全力で踏ん張りながら引っ張る。


駆け上がったニマもセレナさんと一緒に引っ張る。


だが、それでも上がらないオーク。怪力の下にはこういうデメリットがあるんだなと思う中、先輩もオークを引っ張る。


三人で引っ張り、やっとこさズルンと引き上がる。


そこから一気にハリィやカナーとキドが上がり、最後に私が上がる。




しかし、「早くしろ!もう時間がないぞ!」後ろから聞こえる重い、レンガが落ちる様な音。


そこから遺跡がドドドっと崩れ落ちる。


けれども私は中々上がれずに苦しむ。


「ええと、あぁどうしよう?」


「このままだったら見捨てるしかないだろう。だがな、、、、」


「ソラさん!早く上がって下さい!もう、崩れそうですから!」


「お姉ちゃん、早くっ」


「マズイな。もう逃げなければ、、、、」


「あぁ、、、、空ちゃん、、、、」


誰もが間に合わないと思うこの状況で、手を伸ばす。カナーが。


そしてグッと一気のロープを引く。


魔力を込めただろう引きは、一気に引き上がる。


あまりにも勢いが強く、宙空に浮いた上で地面に強く打ちつけられたが、その僅か数瞬後中央ホールが完全に埋もれる。勿論ロープの所が埋もれた。




「全く、無茶するなって、そっちのセリフじゃん」


カナーの明るく高い声だが、その声は今心なしか低い。


「悪い。助けられた」


「もう、悪いじゃないよ。ありがとうだよ。それに、わたしも一度は助けられたんだからさ、言わなくていいよ。アイドルは心が広いから!」


そう言うカナーに、私はありがとうと苦笑気味に返す。

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