第42話 共同クエスト

「あー。丁重にお断りするわ」


めんどちぃ宣言を無視しようとでも思ったが、コイツはアレだ。無視すれば自分のいいように解釈するタイプの人間だからキッパリ断っておくが。


「じゃあ好敵手!」


「意味は同じだよバカ」


まぁ、この手の人間は否定しても認めないのは先輩で知ってるけど。




「というか、なんで私がライバルだよ。先輩の方がアイドルとしてライバルに申し分ないだろ。先輩歌うまいし」


それほどでも~と後ろで先輩が目を細める中、カナーは手に顎を当てて数秒考えて言い放つ。


「顔が似てるから!」


「歌で勝負しろよ!アイドルだろ!?」


なんだ、その行き当たりばったりな選び方は。


「アイドルは!歌って踊って戦えるの!だから戦いのライバルはソラ!あなたよ!」


「いや、昨日の今日会った人をライバルって、、、、」


「ん?ソラは天使でしょ?それに、ライバルがいた方が、強くなれるでしょ」


その強くなれるという言葉に、私はビクッと反応する。




そうだ。私の目的は魔王討伐だ。


もうこの世界に来て3か4ヶ月経ちそうなのに、戦闘力自体に大きな変化はない。


カナーは戦闘能力的には私と同等――いや、オークの言う私の方に分がないというていの発言。


オークの言う事に嘘があるとは思えないし、今回は私の方が勝った為小競り合い程度の実力しか知らない。


もしかしたら、何か私を上回る何かがある筈だ。


「今回はそれで負けたけど、今度はもう喰らわないよ!」


「――あぁ、そうしとけ。この技もちとセコい技だから二度目からが本番だ。ただの初見殺しで終わらせないぞ、私は」


乗っかって来た船。なら乗ってやろうじゃないか。ありがたい事に無線乗船オーケーだし。




「お~。仲良くなってるね二人共」


私達の様子を見てザッコさんは笑いながら声を掛ける。


「仲良く?まぁ、言われてみれば殴ったりしたし、確かに今は殺したい程憎んじゃいないな」


「え!?殺したいほど憎かったの!?」


まぁ、そこまでじゃないけど、殺せるならしたかもね。


「そんな二人に、俺からプレゼントだ」


ポイッとザッコさんの手から渡されたのは、クエストだ。内容を察するに落し物広いのクエストだ。




「何か仲良くなってるし、このままの勢いで他のメンバーとかもさ。それに、物探しはメンツがいた方が有利だろ?」


「いや、聞いてないですけど。皆んなはどう?」


どうせやる事もないし、小遣いが稼げるならと皆んなは了承する。


「こっちは大丈夫だけど、そっちは?」


「わたし達もオールオッケー!」


「そうか。えっと、場所はどこだ?」


クエストを確認すると、場所は思い出も場所。インプルベリーを摘んだあの場所付近の森だった。







「にしても、意外だな。何でただの森に落とし物したんだよ?森程度なら自分で拾いに行くだろ」


「確かにな。第一まともな人間がここに来る理由が分からん」


「え!?そうなの!私コレ食べにやって来たいけど。うん!おいしい」


「せんぱーい。真面目に落とし物探して下さい。8人でクエスト受けてるから8等分するんですよ報酬を。割りに合わない報酬ですから手短に終わらせたいんですよ」


私は口元をインプルベリーで汚しながらそう言い、必死に落とし物を探す。


真夏の季節。そろそろ秋は来そうだが草はぼうぼうに伸び、蚊や虫が纏わりつく。魔法道具がないと今頃仕事出来てないだろうな。


「でも、そのお陰で僕達は仕事出来るんだからいいじゃない?」


「まぁな。別にそんなにしたい訳じゃないけどな。人助けと思えばまぁいいか」


「そうっすね。なんか修道院時代を思い出しますよ。いつもあの人が面倒事持って来て。皆んなを巻き込んで解決してたっけなぁ」




無駄口を叩きながらの仕事。この広い森の中、そうそう落とし物見付からないかと諦めながら探すと。


「あ!見付かった!」


と、ちょっと遠くからカナーから発見の声が上がる。


「マジか。というかお前どこよ?」


そう、ちょっと遠いからアイツの場所が分からん。


「ここ~!」


声をたどり、私は無駄に隙間が狭い木の間を体を痛めながら通り抜ける。


「っ――――――!?」


「これだよね?コレ?絶対にコレでしょ」




明らかに人が作ったであろう箱を誇らしげに掲げるカナー。


だが、私は見付かった喜びよりも、過去の記憶を掘り返す。


あの時、死にかけた自分に、死んだ狼。


緑が生い茂るこの場所は、私がこの世界に来て初めて死にかけたあそこだった。


でも、大丈夫。確かにあの時感じた恐怖は半端ではなかったが、今はより大きな恐怖に立ち向かったじゃないか。


高鳴る鼓動を、私は必死に抑えて深呼吸をする。


少しずつ鎮静する血液。元からトラウマというような傷じゃないんだから、問題なく治る。さっき慌てたのは不意打ち的なそれなだけだ。




ゴクリと唾液を飲み、口を潤して開く。


「あぁ、多分それだ。てか、以前に同じのを拾ったな」


四角くて、上が少し膨らんだ箱。洞窟で拾ってた筈だが、もしや同じ人間がまた落としたのか?


「なんだろうね、コレ」


「さぁ?中身考えるのはいいけど、中身だけは見るなよ。お前なら見られたくないだろ?」


「確かに、じゃあ帰ろう。わたしは気になると開けちゃうから」


そう言い、踵を返して帰ろうとするが。


「わとっ」


アイドルは地に崩れた。無様にな。




「おーい。何もない所で転ぶのか?いくら朝のダメージがあったとしても、、、、」


硬い石を踏む感触。でもそれは小石や砂利なんかではなく、真四角のキレイな石。


風化して、苔や草が生えてはいるが、これは間違いなく石レンガだ。


「なんだ?コレ」


「いてて、ん?これは、石レンガだね」


「いや、それは知ってるけど、なんでこれがここに?」


大自然の中に、石レンガ。何故?


疑問に思う私に、優男がぬるりとやって来る。




「あぁ、コレね。そうか、ここはあそこなんだ。昔の事で忘れてたなぁ」


「コレを知ってんの?」


「うん。君は知ってるか分からないけど、この村の外には紫の透明な石があるけど、それが実は古代文明の物だってさ」


知ってる。確かザッコさんに見せて貰ったよ。


「アレね。で、アレがどうしたんだよ?」


「そうそう。アレなんだけど、近くから古代文明の物があれば、近くに古代文明の“遺跡”がある。そう思わないか?」


なるほど。そういう事か。




「でね、ここに遺跡の発見報告があったから物好きの冒険者が近隣の木を伐採して、その上で適当に漁ったらしいけど、何も出なかったってさ」


「どうりでここだけ木が生えてない訳か。木の根っこもちゃんと回収してる辺り、意外だな。ほっときそうなめんどい作業なのに」


「いや、ギルドが根っこの回収を命令したらしいよ。迷惑だって」


ほっといたのね、根っこ。


「あー、て事はもう何もないか。残念だなぁ」


近くを見物すると、アングルの問題で見れなかった遺跡を掘ったらしき所が見える。


遺跡の一部らしき部分が露出しており、探してたんだなと伺える。




「あの~~。何かありましたか?」


私達が遅過ぎたのか、セレナさんがやって来る。そして、遺跡発掘跡を見る。


「うわぁ、これは酷い。この石レンガ一つ一つは値千金の勝ちがあるのに、、、、」


割れた石レンガを悲しそうに見詰め、たはっとため息を漏らす。


「あっし許せませんよこういうヤツ!この歴史的価値を全く考えずにお宝目当てで掘って、それを止める権限や機関がないのが悔しいっす」


「分かります。私もこういう盗掘とか大っ嫌いです。私歴史の授業とか好きですし、ピラミッドの盗掘を知った時は――ピラミッド?」


そう、ピラミッド。未だ謎が多く、墳墓説に公共施設説に発電所説までもがある。


だが、一応は解明された所もある。社会科のポンコツ先生が言ってたが、ピラミッドの入り口は全部“北を向いている”。


そして、ピラミッドの謎はこういう規則性が導き出す様々な解釈にこそあり、この北向きだって説がある。つまり、何かしらの意味がある。




「ねぇ、セレナさん。今私の向きは、どの方向ですか?」


「え?いきなり変な発言ですね。えっと、太陽の方角はあっちだからここに棒を立ててみれば、うん。北ですね。真北です」


ジャスト真北。遺跡発掘の手掛かりになりそうないいヒント。あのポンコツ先生が役に立ったなと微かに頬を上げて笑い、私は遺跡を深く観察する。


(ゲームやアニメじゃよく地底文明なんてのがあるけど、この世界でそういうのはなさそうだ。じゃあ何故地下に?いや、違うな。長い年月で地下にあるだけだ)


ピラミッドの入り口もちゃんと北にあったが、長い年月の地形変化で埋もれてしまい、ダイナマイトで壊して入ったって言ってた筈だ。なら、こっちも似たようなものでは?


(ここが石レンガの壁。違う、石レンガの天井があって、ここはどっかが崩れて土に埋まってるだけだ。ここで埋もれてるのは心配だが、建物に強度がある程度あれば先には土のない空間があるにはある筈)




「ええい!悩んでも仕方ない!目の前は土しかないんだ。レンガを壊す訳じゃあるまいし、試しに掘ってみるか!」


「はっ!?えっ!待って下さい!」


後ろで何か聞こえるが、大丈夫だろう。だって本当に土を掘るだけなんだから。


ガスっと剣をシャベル代わりに土を堀り、土が出る。空間は、、、、見えない。


「あ――まぁ、そんなもんだよな。掘って直ぐ出る訳ないか」


「あの、ソラさん。あっしの話し聞いてましたか?」


「あはは、ソラちゃんだっけ?結構凄い事するね」


外野の声が胸に刺さる。別に悪い事してないんだけどなぁ。




「でもまぁ、ソラさんが遺跡が気になるなら、どうせこの後の予定もありませんし掘りますか?」


「そうですね。しましょうしましょう」


ニコッと楽しげの笑いを浮かべ、セレナさんは皆んなを呼ぶ。


ぞろぞろと集まる皆んな。各々らしいリアクションをする。


中にはつまらそうだったり、げんなりするのもいたが、全員快諾して土を掻き出す。


「にしても、アングルの問題で初めて来た時は見えなかったけど、地味に掘り出されてるなここ」


「そうなの?空ちゃん。ん?あっ、ここの土柔らかい」


「そうですか?多分最近犬とかが掘ったんじゃないですか?」


「かもね。あれ、でも本当に最近かも。凄く柔らかい」


犬みたいに素手で土を掘る先輩。私の掘ってる地面は指や爪なんて通りそうにない位硬いのに、先輩はそれを素手で。




どんだけ柔らかいんだよと思ってると、ボコッと音がする。


「空ちゃ~ん!なんか掘り抜けたよ~!」


と、開始5分もなく開通。以前掘りに来た奴はどんだけ杜撰なんだよ。直ぐ見付かったじゃねぇか。


「マジですか先輩。なんか超アッサリですね」


「あっし、もっと時間掛けて汗水垂らして掘ったりして、結局見付からないって思ってたんですけど。まぁ、見付かった分儲けですね。探索の前にっと」


セレナさんは魔道具で火を点け、掘り抜けた穴に火を入れる。中に火を入れるのは、酸素があるか確かめる方法で、日は酸素がないと燃えないからこれで確認するのだ。また、メタンガス等のヤバイガスがあるかの確認にもなる。あったらここで爆死しそうだけど。


原子学知りそうにないのに、こういうのよく分かるものだなぁ。




もしも火が消えたら探索のしようもないが、手元の火は消えずに燃えてた。


「おっ、爆発もしないし、消えもしないって事は中の空気は心配なさそうだな」


「ですね。じゃあ、入りましょうか」


中が問題ない事を知って、私達は一斉にこの穴を掘り、入り口を作った。


崩れたのはここから反対方向の所のようで、降り立ったここは向こうが見えない程度には道が続いてた。




「ん?これは――一体何か出てくるのかな?」


セレナさんに渡された松明を持ち、辺りを見回すと通路の壁に当たる所におもしろいものが。


多分、古代文明の生活か何かを描いた壁画。


(間違いない。ここは宗教施設だ)


私の家や、知り合いの家にも壁画はない。あるとしたら、そこだけであろう。

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