第40話 音楽性
装備を新調した私達は、今はどうかなと思ってアイツ等の
まだ歌ってんのかな~と思ってたら、意外な事に歌っておらず、その場で座り込んで話し合ってたた。スゲェ迷惑だぞお前等。
「うーん。一辺にそんな言われても出来ないよドグ」
オークに向かってぶーたれるアイツに、ドグは真剣に返す。
「一発で改善しろとは言わないが、トップアイドルになりたいならしろ」
なんというか、並々ならない重みの言葉。まるで百戦錬磨のプロデューサーだ。オークなのに。
「ドッ、ドグ殿。流石に、その、、、、厳しすぎるのではないかと、拙者は思います、、、、」
「いや、ドグの言う事は正しいよニマ。それと、君は過保護過ぎだよ」
「拙者はカナー殿の為を思って、、、、やっぱりなんでもないです」
一人は肯定。一人は否定。
相反する二つの意見に、カナーは頬を不貞腐れた様に髪を弄り、立ち上がって言う。
「トップアイドルに、不可能はない!いいよ!その注文、このカナー様が受けて立つよ!」
「フッ、それでこそお前だ。ホラ、俺の審査は厳しいぜ」
煌めく噴水をバックにふてぶてしく笑う二人。
でも、凄く言い辛いけど、その表情って路上ライブでする表情じゃねぇよ。
打ち合わせを終え、カナー再び歌って踊り始める。やめろ!聞かせるな!
めんどい歌が始まったところで、私達は退散する。
「ふーむ。でも、なんとなく力関係が分かったなカナーがリーダー的なの張ってるのかな?」
「ですね。態度の大きさとか。オークの方は二番目でしょうか?」
「て事は~あのイケメンが三番だね空ちゃん!」
なんだか順番が逆っぽい気がするが、事実そうだろう。もしかしたら間違ってるかもしれないけど。
「あのブスは最下位ですね。顔に覇気がない」
「そうっすね。というか、生気もなさそう」
「だね、ビビっててカッコ悪い」
怒涛の罵声に気付いて気付かずか、ニマはブシュと後ろでくしゃみをする。
◆
以前よりも騒がしくなったギルド。
私は聞きたくない歌を避けて戻ったつもりだが、、、、現状を見て思う。気が狂いそうだ!
うん。エフェクトがあるのならドクロマークとかヘドロ色やヒヨコが忙しそうなIQの低い歌を、下手な振り付で歌う。大声でだ!しかもおっさん共がだ!
「よぉ、それは一体何の精神攻撃だよ?」
「ん?精神攻撃とは失礼な。俺様の美声を精神攻撃とは」
「誰が美声だなんて言ってたよ。声じゃなくて歌だよ歌。酷過ぎて幻覚が見えるんだよ!」
小一時間聞いてたら死んじまいそうな位には酷いぞ。今にでも倒れそうだ。
「てか、なんでこの歌を歌うんだよ!」
「あ?いい歌を歌うのに理由があるのか?」
いい歌かはともかく、恥ずかしくねぇのか?あぁ、だから自分の事を美声だなんて言えたのか。
「あーあー。全員うるせぇ!百歩譲って歌うのは理解しよう。でも、どうしておっさん達だけ歌うんだよ!若いヤツも歌えよ!」
無駄におっさん達が熱唱する中。しーんと若者達はお通夜のような静けさで各々会話する。
「いっ、いや。俺達はああいう歌苦手なんですよ」
「じゃあどんなジャンルだよ!?ロックか?J‐POPか?」
「二つとも知らないけど、俺はニッケルハルパの音が好きだな」
「あぁ、分かるぜそれ。ま、チェンバロには勝てないけどな」
「俺はハープ」
若者言う楽器がどういう音色かはよく分からいが、絶対におっさんと趣味が違う事だけは理解出来た。確かチェンバロってピアノの先祖だっけ?若者ならもっと激しい音楽でいいのに。
しかし、言葉が少し引っ掛かる。
「ねぇ、セレナさん。歌詞のある曲ってないんですか?」
「え!?そんな事を聞くんですか?んまぁ、別にそういう訳じゃないですけど、詩曲や聖歌なら歌詞はあります。でも、その他は歌詞のある歌っていうのはあんまりないですね。音を楽しむ感じが大きいですよ。声があると音が聴けないじゃないですか」
私の世界とはちょっと別の音楽観。確かに私は意味なんて分からない英語の歌を聴いたりするけど、だからといって曲のある歌が嫌いな訳じゃなく、普通に聴いてる。
基本的には音楽を楽しむという多分昔的な考え方だろう。
「そうなると、、、、おっさん達の方が新しい音楽センス?」
絶対音楽センスがいいんじゃなくてカナーに釣られただけだが、釣られない若者が古い音楽センスになっちゃてるという皮肉よ。
下心がセンスになったのか、センスがある上での下心か。
どっちだろうかと思うが、どっちでもいいかとため息をつく。その隣で、先輩は猫みたいな表情で笑う。
「先輩?どうかしましたか?」
「ん~いや、こういう曲なら好きかな~って思ってね」
そう言って、先輩はキレイな声で歌い始める。
ふんふんと心地いい鼻歌のリズムをとりながら、徐々に声を大きくしていく。
曲の名前は分からないが、先輩の事だしゲームとかアニメとかのどっかで拾った曲だろう。
でも、アイドル的な曲とは違い、歌手が歌うような落ち着いた曲。
一糸乱れず咲き誇る花園の中央で、風で波打つ様な声で先輩は歌う。
おっさん共のウケはイマイチだが、若者達はザワザワと少し騒いでから静かに聴く。
いつもはクソ五月蝿いギルドが、先輩が歌うこの短い時だけ静まり返る。
最初は変な曲だなとボヤいてたおっさん達も、目を瞑って一言も発さず歌を聴く。
一生懸命手を握って歌言う先輩の曲は、呼吸するのも忘れる程に聴き見惚れた。
「すぅ――――ふっ。えへへ、どう?こういう曲なら好きかな?」
ちょっと恥ずかしそうに体をくねらせ、先輩は笑う。
「俺は好きだぜ、この歌。あのアイドルとは大違いだ」
「おじさんも、その歌嫌いじゃねぇぜ」
と、双方から賞賛の声を貰う。
セレナさんやハリィも、言葉にはしないが驚きの視線を向ける。
意外でしょ?先輩って地味に歌がうまいんだよ。本気で歌わないとヘタクソだけどね。
ふふっと笑う私の後ろで、ドアが開く。えぇ、来やがったよ。
「む~。今日はもう練習終了って、酷いよドグ」
「ダンス中に大ゴケするやつが練習出来るか。今日はもう休め」
「わたしの喉は絶好調なのに、、、、」
あーと喉を鳴らしながら自分は絶好調だと訴える。
「ん?どうしたのファンの皆んな~」
「あぁ、さっきカナリエちゃんが歌を歌ってな」
「な!?まさか!わたしからトップアイドルの座を奪うつもり!?」
安心しろ。もう奪われたぞ。
「トップアイドル?大丈夫!私そういうのに“全然興味ないから”からカナーちゃん!」
「――ブチッ!」
あっ、先輩地雷踏んだな。
「へっへー。そうなんだ。じゃあ!誰がトップに相応しいか勝負しようじゃないか!」
「え!?結局トップ争い!?どうしよ、カナーちゃんと戦わなくちゃいけないのかな?」
「当たり前じゃん!ドグ、歌ってもいいよね!?」
「好きにしろ。ただ、踊るなよ。歌だけに集中しろ。いい機会だから試しに歌だけに全力を入れてみろ」
「オッケー!」
始まってしまったトップアイドル決定戦。
先輩は全く理解せずに首を傾げ、歌うアイツを見詰める。私に安住の地はないのか!?
「よぉ、ソラだよな?うちを付け回してたのはどういう事だ?」
ポンとオークに肩を叩かれ、そう質問される。
「お姉ちゃんに、なんの用?」
私がオークに返事をする暇もなくハリィが殺意を剥き出して問い返す。
「なんの用とは?俺の質問次第でする事を聞いてるのか?なら返事次第とでしか言い様がないな。安心しろ。悪い事はしないさ」
「お姉ちゃん。無視して、いいよ」
「大丈夫だよ。ハリィこっちのやましい事はストーキングだけだから。自分ソックリだから付け回してた。それだけだよ」
ハリィに止められたが本当の事を話すと、オークは顎に手を当ててそうかと言う。
「そういう事ならいい。俺だってソックリなヤツがいたら気にはなる。だが、もう付け回すなよ」
「あぁ、そうするよ。ところで、どれだけ頭いいんだ?」
返事ついでに、私はオークの気になる知能を聞く
「俺の知能か?正直あまり言いたくはないが、多分人間の天才とそう変わりないとは思う」
「本当?」
「あぁ、多分な。周りの連中と比べる事が間違いかもしれんが、少なくとも俺は出会った奴等全員に俺より頭のいい奴を見た事がない」
周りが馬鹿だけなら話しにならない自慢だが、言葉の重みだったりダンスのセンスを見れば多分嘘ではないだろう。
「やぁ、二人共。何を話してるんだい?」
私とオークの間に、ヘラヘラとイケメンが割って入って来る。
「つまらない質問だ。特に意味はない」
「またまた~。君は大事な会話でもそういうんだから。短い付き合いだけど、分かってるよ」
「事実つまらない質問だ。それ以上ではない」
本当につまらない質問ですよと、私が補足するキドは納得する。
「そういえば君。確かソラ、だっけ?ソラくん。君はこの村をどう思ってるかい?」
イケメンのセリフに、ハリィはまたも強い視線を送る。また?
「いい所だよ。おっさん達に思う事はあるけど、いてて楽しいよ」
「そうなんだ。実は、僕はこの村の出身でね。そう言わると少し嬉しいんだ」
「へぇー。じゃあ、そのパーティーメンバーはどこから?」
「それなんだけど、金を堀に行ってた時にノリで結成してさ~。それでノリで僕の故郷に来た訳だよ」
「あぁ、俺の村は論外として、ニマもカナーも故郷に寄りづらいんだ。消去法でな」
「でも、いい所でしょ?」
キドの言葉に、オークは本当にそう思うように一言。
「そうだな。キド」
「コホン。雑談もここまでにするとして、ソラ。お前に折り入って頼みがある」
オークが畏まって昨日今日会ったばかりに私にお願いをする。
「お前は、不思議と非常に頭がいい気がする。そして、あの踊りの是非を理解するセンスもある」
「あっ、どうも」
「難しい話しだ。直ぐに返事をくれとは言わないが、返事は必ずくれ」
会ったばかりの私に一体何を。
そう思う私に、オークの口から信じられない言葉が投げかけられる。
「――俺達のパーティーに“入ってくれ”」
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