第39話 『魔法伝達率』と『魔法伝導率』
「あー。まぁ、分かるなその気持ち。ソックリさんの後を追う気持ちはさ。でも、、、、しちゃいかんだろ」
私はザッコさんに何で木箱を被った理由を弁明をしたが、ごもっともですとでしか返せない正論。
いくらアイツが気になるとしても、ストーカーはよくないか。
どうせただの暇潰しだったからキッパリとストーキングを諦め、私は武器屋にでも行こうかと足を出した時。
「おいおい。どこ行くんだよ?」
「ん?流石に牢にブチ込めないだろ。私達はまだ初犯だし」
「いや、そんな事じゃねぇ。俺もするぜ、ストーキング」
えぇ、今私達を取り締まった人の言う事じゃねぇよ。
「ザッコさん。マジで言ってんの?」
「そうだよ。だからやめろ!その目で見るな!」
「でもさ、おっさん。それ、衛兵がしていい事なの?」
「アイドルの前では、俺は衛兵じゃねぇ。ファンだ」
「わーおじさん本物のストーカーみたい」
先輩ナイスツッコミ。
「つーか、割とマジで洒落にならないでしょ。ザッコさんがストーキングするの。ただでさえ腕とかないし、煙草と酒の匂いが臭いし、なにより目が時々怖いんだよ」
ぷぅーと煙草を無駄に二本吹かすザッコさんの欠点を指摘する。
「腕がねぇ位珍しくねぇよ」
「いや、私今のところザッコさん以外に隻腕キャラ一人も知りませんけど」
「煙草と酒だって、別にいいじゃねぇか」
「裏路地でも臭う程キツイって言ったらどうします?」
「、、、、俺の視線だって、ワイルドな男のそれだろ?」
「ワイルドと言ったらワイルドだけど、獲物を狙う視線をアイドルに向けてどうするんですか!?」
今夜の獲物はアイドル的な。あのヤバい系の視線を向けて本当にどうするよ。
「おじさーん。大丈夫だよ~。空ちゃんも時々怖い顔してるけど、別に私はなんとも思わないから」
「私が怖い時の視線は獲物を狙う様な視線じゃありませんよ」
「じゃあ、おじさんダメだね~」
先輩の無垢な追い討ち。おっさんは何か覚悟を決めた表情で歩みだす。
「ストーキングする」
やめろ。その目でやったら間違いなく勘違いをされるぞ。
ザッコさんの瞳は強い決意を抱いた瞳。けど、その目はアイドルの歌を応援する目ではない。
止めようと悩んだが、一回捕まった方が自分をきっと客観視出来ると思って見守る。
カナーに歩み寄るザッコさん。オークにちらりと目を向けられる。
オークの目はザッコさんを訝しむそれで、ザッコさんは幽鬼の視線。
取っ捕まえられても文句の言えない瞳だが、オークは冷静に警戒だけをする。頼むから捕まえてちゃくれないかな?
それでまぁ、そのままライブを見たよ。一曲ちゃんと終わるまでね。
どんよりとした幽霊の視線を向け、一曲聴いたザッコさんはそのままスタスタと私に歩み寄ってドヤ顔。
――ムカつく。
「どうだ?捕まらなかたぞ」
「いや、目的変わってるよザッコさん。ストーキングじゃないのか?」
「ひゅ~~♪」
おい、口笛を吹くなよ。
「まぁ、でも怪しまれないって第一関門は突破したぜ」
「そうだね。このままいけばおじさんストーカー出来るよ」
「だね。後ろでオークがガン見してるけどね」
もう、帰って来た時点で十中八九失敗だろ。
「うわ、マジか。ガン見してんのか。キモいな」
「その言葉。ソックリそのまま返しますよ」
大胆なストーキング発言。忘れた訳じゃないよな?
「仕方ねぇ。そんじゃもう一回行くか」
「いや、今度こそ捕まるだろ」
「安心しろって。大丈夫、大丈夫。あのオーク、悪い奴じゃねぇって」
そう言ってザッコさんはもう一回向かうが、今度はビンタを一撃。そのまま路地裏に追い返された。
「な」
「だったな」
不貞腐れたザッコさんを見て、次にオークを見る。
ザッコさんを見てるなら当然視線は私にも向いてる訳で、私からのストーキングも無理だな。
「そうだ、ザッコさんどうせつき纏うにしたって、もう出来ないから少し付き合ってもらうよ」
「おっ?デートか?」
「NO!」
◆
ザッコさんを引き連れ、私が向かったのは所謂武器屋的なの。
武器を新調するついでに若干のランクアップしたいので、ザッコさんに意見を聞こうと呼んだ。
「なぁ、ソラちゃん。ソラちゃんのクラスってなに?」
「多分なんですけど剣士だと思いますよ。おもしろい攻撃の仕方でこういうのとか」
私は折れた剣を熊を仕留めた時と同じ魔法を使う。
「ほう、火魔法の応用か?もうここまで出来るのか」
「あー。一応火魔法なのかな?でも、ちょっと違うと思うよ」
この天界の魔法。物は温めれるけど、火は作れないからね。
「そうか。武器はショートソードで変わりなくていいか?」
「ロングソード振れる力なんて私はないからね。他のクラスの才能はあるかもしれないけど、自分でもなんの才能があるか分からないしショートソード一択だな」
前回の熊との戦い。毛が抜けてたから刃が通ったけど、毛があれば刃は通らないし、剣の耐久力も低くて折れたし、少し上等な物が欲しい。
「ソラちゃんのこれ安物だったし、これにしたらどうだ?俺も昔使った一品だぜ」
「え?マジで?」
「いや、正直よく分からん。俺ここに来たっけなぁ?」
どうして俺の使った一品なんて言えたんだよ。
「おう、親父。これ試しに振っていいか?」
「いいぜ~」
ザッコさんはそう言うと4度程剣を振る。
ブンブンと風を切る音が鳴る。私が両手を使っても風音一つならないのに、片腕で余裕で鳴らす。
「まぁ、俺の使った事のある一品ではないが、少なくともその安物より良い事は保証するぜ」
「じゃあ、候補に入れときますね」
「そうだな。胸当てもやられたようだし、これなんてどうだ?」
「いいんじゃないですかね?違いは分かりませんけど」
「そうだな。ついでにガントレットも買ったらどうだ?」
「でも、地味に高いですね」
「アレならどうだ?」
全身金属で出来たガントレットととは別に、手袋に申し訳ない程度の金属をつけた安そうなガントレットだが、見た目通り安い。使い道は、、、、さぁどうだろう?
「どうだ?あれ位なら買ってやらなくもないぜ」
「まぁ、買ってくれるなら貰いますけど、、、、」
とっとと、私の視界の端に一つカッコいいのがあるじゃないですか。
「ザッコさん。ガントレットはいいので、あのバスターソード買ってくれますか?」
デカくてカッコいい武器バスターソード。欲しいなぁアレ。
数秒後には冗談ですよと笑い飛ばす事だが、セレナさんの目が怪しく光る。
「マジっすか。ザッコさん凄いっすね」
「――!え?マジでザッコさん買ってくれるの?」
「ん?え!買ってくれるの!?わ~おじさん太っ腹!」
「、、、、買え」
大きな声で勝手に買う予定にさせる発言をし、場の空気を変える。一人命令形だった気がするけど。
「待て!待って!俺は買うとは言ってねぇよ」
当然拒否するか。まぁ、いい。
「いや~。まさか買ってくれるとは。ありがとうございますザッコさん」
「本当にありがとうございます。今度あっしが一杯奢りますから」
「おじさん?本当に買ってくれるの?」
「、、、、買え」
先輩が怪しがってるが、関係ない。勢いで押す。
「あーわーわーわー。買わねぇ買わねぇ!ホラ、買うのはこれだけだ!親父コレくれ」
「「チッ」」
勢いで押せなかったが、おじさんはガントレットを買ってくれた。
「そうですね。剣と胸当ては買うとして、皆んなは何か欲しい?」
そういえば、この世界の魔法使いとかは何を使うのだろうか?
魔法が火位しか使えないリアルな異世界で、杖はどういう意味をもたらすだろうか。
「あ?良い杖が欲しいのかい?その、小さいお嬢さん」
「、、、、、、、、」
「ちょっと、ハリィ。流石に無視は酷いでしょ」
「大丈夫さ。無視されるのは知ってたから」
知ってた?
「それはともかく、良い杖は高いぜ。それに、言い方が悪いが女子供が持てる物じゃねぇぞ」
「なんで?」
杖って、なんか逆に軽いイメージだけど。
「知らないのか。じゃあ、ちょっとお勉強だ」
そう言ってザッコさんは店に置いてある剣を掴む。ただし刃の方を怪我しないように。
「そうだな。今回お勉強するのは『魔力伝達率』だ」
字体でなんとなく察せる言葉。剣と別に、ザッコさんは自分の髪の毛を毟って突き出す。
「いいか?魔力ってのは基本的に人体や植物よりも、鉄や宝石に通りやすいんだ。通りやすいと、何が起きるか分かるかな?今から同時にこの鉄と髪に魔力を送るぜ」
鉄と髪の毛を大体同じ長さに持ち、1、2と声を掛けて通す。
すると、時間にすれば差は大きくないが、先に剣に炎が吹き出て、髪の毛はワンテンポ遅れて燃える。
「すっ、凄い」
「へへ。魔力はよぉ、こうやって伝達する際に速度に差が出来るんだ。ある頭の良い学者の話しだと、魔力自体を伝達率100パーセントととして、人間は大体10パーセントあるかないかだってさ」
「凄い」
異世界の新たな知識。不思議と私は手を口元に持っていって零す。
「へへ。そうだろ?」
「その“学者”」
「ズコ――!ってそこかよソラちゃん」
「いや、この話しも凄いけど、よく数学的に叩き出せたな」
電気の伝達率。これがいつ判明したかは生憎私の知識にはないが、少なくとも19世紀以降だろう。
それを、中世時代で?
「凄いな、その人」
「あー。俺にはイマイチ凄さは分からねぇが、一応『魔力伝導率』もあってな。これは要するに運べる量だ。一応最も汎用的な鉱物の鉄での伝導率を100パーセントとして定めてるらしいぜ」
と、最後の説明でお勉強は終了したが、これでは鉄の棒が杖として優れてるけど、その代わり重いから女子供には扱えないとだけしか分からない。
「ねぇ、ザッコさん。それだけじゃなんで高いか分からないよ」
「あ?そうだな。ま、答えは簡単だぜ。実は鉄以上に良い伝達率のやつや、伝導率のいい材質がそうそうないだけだ」
「少なくて貴重なら、必然と値段が張る訳か」
「その通り。いいモンには高いのが使われるって事さ」
なるほど。だから杖は高いのか。
「あぁ、でもお客さん。実は安く便利な物があるよ」
店で私達の会話を聞いてる店長が声を掛ける。
「え?本当ですか?」
「本当だよ。ちょっと伝導率は悪くて形状の問題で使いにくいけど、ホラ」
そう言われて出されたのは、、、、銅の指輪?
「この銅の指輪なんだけどね、伝達率だけはべらぼうに高くて、伝導率も鉄よりかは劣るけどそこそこあるんだ。新米冒険者にオススメの一品さ」
「ほーそうですか。ハリィこれ欲しい?」
「、、、、うん。欲しい」
聞く限り悪くない一品だし、ハリィも欲しいと言うなら買うか。
「ちなみに、皆んなは欲しい物とかある?」
戦力に不安のある二人だが、欲しいのがあるなら買ってあげないと不公平だ。
「いや、あっしは今の装備で満足ですね」
「私は~。あれ?私戦う時なにやってたっけ?」
そういう訳で、私は剣と胸当てを新調し、更にはガントレットも加え。ハリィには銅の指輪。
少しは戦力アップしたかな?
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