第38話 ストーカー
交渉で負けた腹いせに、私は昨日ぶっ倒れるまで暴飲暴食を繰り返した。
でも、二ヶ月に近い仕事の報酬が、9割カットって、、、、。
まぁ、暫くは食べるのは困らないしね。いくら9割カットでも暫くは食べれる。
うん。ゆっくりと、適当にゆっくりしてよう。少しは先輩みたいに自堕落でも。
「ドンドンドンドンドコドコドンドン」
なんだ?騒がしいな。
床がバンバン叩くような音がする。以前はなっかたのだがなぁ?
「バンバコドンドンバコバコ」
うーむ、五月蝿い。
「ドンドンい、そ、バコドンドンドコ、げ」
チッと舌打ちをし、起きる。
少し長く寝る事も許さないのかと腹立ち、何で五月蝿いか見に行こうとドアを開ける。
すると、バンと開いたドアに何か当たる。
見てみると、当たったものは若い冒険者だった。
「あっ、カナーさんすみません。ではお先に」
「おい、私はカナーじゃないぞって、何がお先に?」
冒険者の口振りにちょっと気になり、私は冒険者について行く。
あっ、押すな押すな。何で廊下こんなに人が多いんだよ。
◆
「俺これにします!これこれ!」
「あっ、ずりー。それ俺が欲しかった」
「ウオォォォ!退け!俺に寄越せ」
「いてて。誰だ足踏んだの」
下のギルド。そこでは若者がもみくちゃになりながらクエストを取り合ってた。
「なぁ、おっさん。あんなに取り合いになるものなのか?クエストって」
「ん?あぁ、取り合いになるに決まってんだろ。俺達ぁ大丈夫さ。アイツ等のお零れで十分さ」
真っ昼間から酒を煽るおっさんは、「ソラちゃんはいいのかい?」と聞く。
「暫くはね。ただ、そうか強けりゃクエスト選択の幅は大きいけど、弱いとその日を食い繋ぐ為にどうにかクエストを取ろうって訳か。にしてもキレイに起きたな。貼られる時間ほぼピッタリとか」
「まぁな。徹夜したりや、貼られるまで待つとかはギルドが禁止してるから、貼る時間になったら皆んな飛び起きてマラソンだぁ。階段に近い部屋は有利だぜぇ。都会なら四六時中受けた途端に貼るだろうから、こういう事はしなくていいんだけど、ここは従業員二人しかいないからな。都会と同じ方法は出来んよ」
なる程。だから五月蝿かったのか。
そういえば、以前ジギルとハイドちゃんが部屋空いてないって言ってたけど、結構ガラガラなのは変だなって思ったりしたな。変だったけど、空いてた部屋は全部外に出てていない冒険者の部屋だったのか。
「全く。こんな事する位ならガキは畑を耕せばいいのによ。ついでに嫁さんでも貰ってな」
「それはそうだろうけど、じゃあなんで冒険者になるんだよ」
「カッコいいからだろ?俺だってそう思ってやったんだよ。まぁ、結果は散々だけどな」
まぁ、ここで知ってる一番強いザッコさんと比べたら小物だね。
「んま、俺と同じ歳まで生きればもう滅多な事じゃ死なないさ。それまでには全体の4割は死んで、3割は辞めるがな」
「おっさんはよく生き残りましたね」
「かわいい嫁さん貰えなかったからな。朝から酒を飲める仕事他になかったし、続けるしかなかったんだよ。あー嫁が欲しい」
涙拭けよ。おっさん。
「おーいそこのおっさん。俺達と一緒にクエスト行かねぇか?」
心から涙するおっさんに、それを知らない冒険者は気軽におっさんを誘う。
「ん?聞こえねーのかおっさん?」
「あぁ、今おっさん傷心中だから明日にでもしてくれ」
「いや、大丈夫だ。俺はクエストに行くよ」
傷心中のおっさんだが、おっさんは武器を持って若者のパーティーに入る。
「そうそう、俺達はこうやってベテランとしてクエストに参加して飯を食うのさ」
最後にそう言っておっさんはクエストに出掛けた。
◆
「セレナさん朝早いですね~」
「まぁ、仕事の為ですよ。仕方ないですね」
私よりも早く起きて働いてるセレナさんに、私は適当に雑談しながら朝を過ごしてた。
そして10時頃か。ようやく先輩とハリィが降りて来た。
「えっへへ。かわいいなぁハリィちゃん。あっ、ソラちゃんおはよー」
「うざい。んっ、お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう」
「え!うざい?」
しょげる先輩。けどどうせいつもの事だから無視して。
「皆んな。これからどうする?」
そう言われ、皆んなは顔を見合わせてさぁと応える。
「暫くは、働きたくないな~」
「あっしは今も働いてますけど、今からクエスト行くとなると、嫌ですね」
「ハリィは、お姉ちゃんが行くなら行く」
「私だって行きたかないさ」
満場一致で生きたくないと意見が出たが、かと言ってダラダラするだけはヤだな。
「そうだ。私の胸当てと剣が壊れたし、少し新調しに行かない?流石にちょっとね」
自分の為の消費は恥ずかしいが、こればっかりはどうしようもない。
「あーソラちゃんの剣折れちゃったしね」
「そうそう。勿論皆んなの装備も買いますよ。財布が許す分は」
やることも無いし、そうしようかと場の空気が固まり、私は席を立つ。
その時。
「ふぁ~。少しおねむだね。昨日着いたばっかりだし」
「おい。欠伸はいいが、もう少しアイドルらしくしろ」
「まぁ、そんなに怒らなくていいじゃん」
「せっ、拙者はいいと思うけど、、、、」
カナーのパーティーが降りて来た。
私はなんとなくテーブルの下に潜り、奴等を見る。
「ねぇ、今日はなにする?アイドル活動?」
「そんな訳ないだろ。練習だ練習。ソラにお前の下手な踊りが見られて笑われたぞ」
いや、笑ってはねぇよ。
「ソラ?誰その子?」
「お前にソックリなヤツの名前だ。相手の名前位覚えとけ」
「まぁ、『ドグ』。君と違って僕達は会った人の名前“全部”覚えれないから。僕は流石に覚えたけど」
「拙者も、一応覚えてたでござる」
「あーそうだったか。『キド』も『ニマ』も覚えてるのか」
オークが『ドグ』で、多分優男が『キド』。ブサメンが『ニマ』と名前が分かる。
「まぁ、そうだな。取り敢えずは路上ライブだ。みっちり扱いてやるから覚悟しろ」
そう言ってアイツ等は外へ出る。
一方で机の下に潜った私に視線が刺さる。
「皆んな。私、武器屋に行く前に寄りたい所が出来たよ」
私ソックリなせいで気になるアイツ。
どうせ暇だし、ついて行こうか、、、、。
◆
「あ、、、、やめろ。その歌を、、、、」
「がんばれ。がんばれ」
「これは、きついっすね」
「、、、、下手な歌」
私達は異世界に伝わるスーパーステルスアイテムのダンボール。ではないが、木箱を四人仲良く被りながらあのパーティーをストーキングしてた。一度無邪気な子供に開けられたけどな!
ストーキングした先。つまり以前セレナさんと行った一般人向けの商店街。
そこでアイツは、歌いやがった。
もう、エフェクトがあるのならハートとかピンク色や星が忙しそうなIQの低い歌を、下手な振り付で歌う。大通りで大声でだ!
しかも、オーク以外のメンバー。キドとニマは超キレッキレなオタ芸的な応援をする。何でオタ芸知ってるんだよ!というか、お前等多分ソイツよりも踊りが上手いぞ!
唯一踊ってないオークは地面に座り込み、振り付を驚く程に細かく見ている。
そして一曲歌い終わると、子供達に純粋な拍手を貰う。君達の未来が少し気になるな。
その拍手を受け、まるで武道館ライブを成功させたような顔。十年早いわ!
本人は成功させたつもりだが、正直出来は酷い。
オークもそう思ってか。眉を潜める。
「俺の振り付に問題はない筈だが。全体的に練習不足だな。ダンスがなってないからなんとも言えん。曲は俺はまだ勉強中だからお前に任せるカナー」
「オーケー。わたしに任せなさい!このスーパーウルトラパーフェクトトップアイドルに!」
お前の成り上がりは一体どこまで続くんだよ。
ハァと自然とため息をつくと、「じゃあもう一曲!」と悪魔の声が聞こえた。
頼むから、その顔で歌うのを止めてくれ、、、、。
精神ダメージを深く負ってると、後ろから声が聞こえた。
「衛兵さん。あれです。変な箱」
――――逃げようか。
私は即座に木箱から足を出して逃げる。
「あっ、待て!」
あぁ、不思議だ。耳元でアラート音が鳴ってるよ。
私が逃げたのを見て、残る三人も咄嗟に足を出して逃げる。
なんとしても逃げなくてはならない。さもねければ変人として街の噂になる!
だが、普通に考えて箱被って逃げ切れる訳ないよね。
私は衛兵さんに捕まってしまう。
「ほーら、大人しく箱を取りな」
そう行って箱を取ろうとするが、させるか!
私は全力で木箱を掴み、外させないようにする。
魔力を込め、絶対外させてたまるかと。
衛兵さんが驚く中。私はイチかバチかを賭けて横に走る。
お互い引っ張り過ぎて木箱を破壊しかねない力を込め、私は走る。
走った。そう、走った。
だから木箱が、壊れた。
取るよりも、壊すのが早いと察した衛兵さんは、木箱を壊しやがった。
だが、間に合った。
私は人の目が届かない裏路地に入る事が出来た。そのお陰で噂にはならないだろう。
「ん?おっ?ソラちゃんか?何で木箱なんて被ってるんだ?」
――前言撤回。噂になるのかもしれない。相手はザッコさんだ。
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