ライバル?

第37話 I am a “top Idol”

「へーい皆んな初めまして!わたし『カナー』!クラスはぁ――――“アイドル”!!」




ありえないテンションと、この世界じゃありえない服装で登場したなによりもありえない私の顔ソックリの女が、あったまの悪そうな挨拶をする。この頭の痛みは頭痛と信じたい。




「おっ、おう?ソラちゃん?頭でも打ったのか?」


あまりのそっくりさんに、おじさんの一人が渡しが頭を打ったと勘違いするが。


「ソラ?誰その子?わたしはカナー!クラスはぁ――――“トップアイドル”!!」


世界を取る発言に、酒場は沈黙する。


そして、酒場のおじさん全員が階段にいる私を見詰める。


「カナーちゃん?」


「ソラです」


間違えるなコラ。




いや、確かにソックリだけど、私と違って明るい表情をしているお陰かかなり印象が違う。


黒い髪に黒い瞳は私の生き写しのようだが、髪には紫陽花の髪飾りがあり、これで見分けはつくだろう。


あえて避けてたが、一番の見分けはやはり服だろう。


服はフリルがついたミニスカにロングブーツ。上は何故かベルトが胸を挟むように上下にあり、胸元の大きいリボンがかわいらしい。




「ん?そこの子がソラかい?どう?私の歌を一曲、、、、ワッツ?」


「ワッツはこっちのセリフだ。誰だお前?」


「わたし?わたしはカナー!スーパートップアイドルだよ!」


何度目かの自己紹介。だが、そんな事はどうでもいい。


「なんて顔してるんだお前は!?」


「そっちこそ!わたしの顔ソックリじゃないか。もしかしてファン?やだな~まだファーストライブもしてないのにこんな熱烈なファンいるだなんて~。えへへ」


おい、スーパートップアイドル。お前まだファーストライブもしてなかったんかい。




「私はお前のファンじゃねぇよ」


「嘘だ~。だってわ・た・し、スーパーウルトラトップアイドルなんだもん」


ダメだ。聞く耳を持っちゃいねぇ。


私は寝て起きればきっと多分いなくなってると信じ、階段を上るが、、、、。


「そっ、空ちゃんが二人も!?いや、空ちゃんとカナーちゃんが正しいのかなぁ?」


指をいやらしくクネクネしながら、カナーと私を交互に見る。


「げへへ。アイドルの格好してるよ~。いつもなら絶対に着ないのに」


まぁ、多分絶対着ない服だな。


「しかも、めっちゃかわいい笑顔、、、、わーいカナーちゃん!私ファンになる!」


「へへ、困っちゃうな~。大人気だよわたし」


――――――――寝よう。







一体どの位寝てたのだろうか。


疲労は全部取れなかったが、そこそこは取れた。


二度寝をかまそうとしたが、どうもその気分じゃない。


私はベッドを出ようとしたが、何かに当たる。


「んっ、んん」


私のベッドで寝てたハリィだった。はて、入れた覚えはないのだが。


「ん、あっ、お姉ちゃん。起きたの?」


「まぁね。というか、起こしてごめん」


「大丈夫。それよりも、お姉ちゃんお腹空かない?」


グゥーとお腹が音が鳴る。私はそうだなと返し、ハリィと一緒に下へ向かう。







下へ向かうと、目のクマが濃いセレナさんが料理を運ぶのだが、セレナさんだけではなくこのギルドにいる数少ない女性冒険者が運んでいる。


ジギルとハイドちゃんは見かけないが、カウンターに冒険者がいるのを見る限り多分厨房だろう。


事実若い冒険者も来た事で冒険者の数が多い。その分料理も作らないといけないし、ウエイトレスがいないといけない。


「やっぱり、ナブルカ村か、、、、」


「ん?ハリィ?」


何か言うが、正直よく分からない。




いつも見慣れたギルドに少し新鮮な感じがするが、こっちはいい意味で新鮮だからいい。女の子も普通にかわいいし。


でも、コレ。これだけは、本当に、、、、。


ギルドの中央。そこに何とテーブルの上でダンスを華麗に踊るもう一人の私がいた。しかも最悪な事に歌も歌ってる。更にジャンルは頭が本当に悪そうな歌で、兎に角好き好き言う感じのそれだ。


歌うコイツもコイツだが、それを取り囲むおっさんの群れと先輩。ついでにアイツのパーティーメンバーらしい三人も。


歌って踊るもう一人の私が、おっさん達に際どいローアングルで応援される。先輩も付属してな!


「うっ、おうええっぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」




凄い。一滴もアルコールを摂取してないのに吐き気が。


「おう、どうしたよソラちゃん。いつの間にノックアウトしたのか?」


「いや、そうじゃないです。というかザッコさん。なんでそんなに笑顔なんですか?」


若干酔っているが、それでも普段酔っても見せないだろう笑顔でカナーを応援する。


「あぁ、アイツの事なら気にすんな。逆にこうならなきゃおかしいんだよ」


「そりゃあ、まぁかわいい子が目の前で踊ってるんですからね。応援するのが男の性さが的なあれですか?」


「当たり前だろ!それと、ソラちゃん。自画自賛かい?それは」


「自分の容姿に自信あるの悪いですか!?」


他人を褒めてる筈だけど、、、、なんかこう、本当に複雑な気持ちになるなぁ。




「わっホイ!ソラちゃんソラちゃん!見てみて~超かわいいよ~」


「うっ、うん。かわいいですよね」


「でしょでしょ~。ソラちゃんも踊っていいんだよ~」


「いや、止めときますよ。下手くそ同士踊ったって恥かくだけですから」


アイドルっぽい振り付で踊るが、ハッキリ言ってド素人だ。


ただ、練習してあれなら私はより悲惨だろうから辞退する。と――


「ほう、それは聞き捨てならないな。あの踊りのどこに不満があるのか?」


オークに聞こえてたようで、目を付けられてしまった。


「どこもなにも純粋に下手なんだよ。振り付が大げさなのはいいけど、滑らかじゃないね。練習の日が浅く、腕がブレブレだよ。足だって軽くバランスを崩して分からない程度にミスをしてるよ」


ぶん殴られそうだが、ここは一つ実際にしてるミスを指摘し反論を潰そうとしたが。


「やはりそう思うか。練習が全く足りないな。後で叱らないとな」


なんと、キレるどころかオークもそれを理解してた様だ。




「よく分かるな。この踊りの悪点が」


「、、、、まぁね」


異世界出身ですからね。こういう踊りはそこそこ見るよ。


「他の客は気付いてないが、酒が入ってるからか」


私が異世界出身なだけだから。てか、おっさん達ならかわいい子が踊りゃ文句なんてないだろうけど。


「しかし、若い冒険者達は何故見ないんだ?若者向けの曲な筈だが」


100年単位先の若者を取ってどうするよ。というか、だとしたらこのクオリティは異世界じゃ金返せって言われるぞ。


「まぁ、読み違えなんじゃない?君がするのは凄く珍しいけど」


「そんな訳ない。この考えに読み違えはない」


そうだな。見込みは間違ってないが、時代は間違ってるな。




「ん?そういえばハリィ。ハリィは応援しないのか?私ソックリだぞ」


今更連れて来たハリィを思い出し、興味なさげにカナーを見ている事を聞くと。


「、、、、別に。だって、お姉ちゃんじゃないなら関係ない。ソックリだからって、お姉ちゃんじゃないから」


「うーむ。嬉しい事言ってくれるねハリィは」


「だから、お姉ちゃんも踊って」


前言撤回だ。


なんだ?皆んなそんなに歌って踊ったりするの好きなのか?


やめてくれ、そのキラキラした純粋な目を私に向けるな。




ハァとため息をつく。さっさとご飯を食べて寝ようと注文しようとすると、厨房の方からジギルとハイドちゃんがやって来た。


「あーお姉ちゃん。実はね、話したい事があるの」


「え?何?何かあったけ?話すような事」


そう言われ出されたのは、、、、なんという事でしょうか。


「おう、待って。おかしい。百歩譲って人件費として半分位渡すのは理解しよう。ただ――度を超えてるだろ!?」


請求書というよりかは契約書だが、その内容はジギルとハイドちゃんを一ヶ月以上雇った分の金を寄越せという文言のものだ。


しかし、重要なのは金額。全体の9割を寄越せというので、、、、しかも、この二人。一切まけるつもりがない。




「クッソ、この天使悪魔、、、、」


「天使はお姉ちゃんでしょ~?」


「あたし達ジギルとハイド~」


一切の悪意を含まない強請り。もう、夢なら醒めてくれ。この金は、私以外のメンバーの装備新調為に。


その時、救世主が舞い降りた。


「ジギルとハイドちゃん。これは少し横暴じゃないですか?」


ウエイトレスとして働いてたセレナさんがやって来る。


「セレナさん、、、、」


「あの時はソラさんがどうにかすると任せましたが、今日はあっしが値切ります」


そう言いセレナさんは堂々と向かった。まるで魔王に立ち向かう勇者のような、覚悟を胸に。


そして――“敗北した”。


悪意なき強請りには、、、、勝てなかったよ。

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