第35話 一稼ぎ
四人目のパーティーメンバーも加わり、冒険者としての生活が落ち着きつつある中。私はメンバーの役割を考える。
先ずは私。クラスは一応剣士?だろうか。役割はガンガンいこうぜといったところか。
二人目は先輩。うーむ。遊び人枠だなぁ、残念な事に。でも、私の腕を治して貰ったりしたし、ギリ僧侶。
三人目はセレナさん。信仰心が薄い感じだが、まぁ僧侶。
四人目はハリィちゃん。この子は銃も使うけど、アレは本来護身用で、クラスは魔法使い。
そう考えると――アレ?私しか前衛いなくね?
熊を倒して手に入れたお金。
足りないものを補おうと考えてたが、足りないのは前衛火力と防御だな。
しかし、私なんかを強化しても特に意味はあるのだろうか?
私を強化するよりも現在最強戦力のハリィを強化すべきか。
だとしてもやっぱり前衛が、、、、
「私にお金を使った方がいいのかなぁ?でもなぁ、自分にお金使うのってなんか恥ずかしいし」
最善の選択かもしれないが、皆んなで稼いだお金を自分一人に使うのは後ろ髪を引かれるものがある。
結局何に使おうかと頬杖をつくと、ドアが開く。
お昼時のギルド。朝にクエスト行った冒険者が帰って来たと思ったが、見ない顔の若い冒険者達だった。
「よぉ、どうだい稼げたか?稼げたなら一杯奢りな」
「いや~。どうやら運が悪くてさ、俺達は全然稼げなかったわ」
「そうそう。宿代もなくて鉱山掘るよりも道路とか建物作ってたわ」
「もうそれも疲れてさ、ボチボチ帰るヤツもいたし、帰る事にした訳よ」
「そいつぁ残念だな。ま、生き埋めにされないだけ儲けじゃねぇか。ワッハハハハ!」
出稼ぎに行った若い冒険者とおじさんの会話。傍から見ればなんてことのない雑談だが。
「そうだ。お前等が外に行ってる間新入りが来たんだよ。ホラ、あっこの天使がソラちゃんで、、、、って、ソラちゃんなんだその表情。なんか怖いぞ」
「いえ、なんにもありませんよ。それよりも、もう帰る人がボチボチいるんだよね?今向こうで帰ろうとしている人ってどの位いると思う?」
「そうだな。もう数日したら大半のヤツが帰るんじゃね?金が取れたなんて報告もうからっきしだし」
その返事に、私はよっしゃと思い、私から金を毟った悪魔のような天使の二人に耳打ちする。
「――ジギルちゃん。ハイドちゃん。いい話しがあるんだ」
◆
「帰って来て早々これですか。あっし冒険者辞めたくなる程のスケージュールとは。中々に厳しいですねソラさん」
「まぁ、でもこれ大儲け出来る筈ですよ。私の売りを最大限に利用すればね」
「ふぇ~お尻痛いよ~」
「、、、、煩い」
馬に乗りながら私達とジギルとハイドちゃんを連れ、最速最短でゴールドラッシュが起きた街へ向かう。
別に金を今更堀に行く訳じゃない。ただ、帰って来る人間から金を毟るだけだ。
「むっ!空ちゃん!向こうで人が見えたよ!」
「マジですか。私は全然見えないですけど」
「ふふん。私視力は自慢だよ」
と、先輩の曰く自信のある視力にはあっちら辺に人がいたと言われ、そっちに向かう。
すると、本当に帰ろうとする冒険者が見えた。
乗り合い馬車に乗る冒険者達に、私は野盗と勘違いされないように白旗を振る。この世界でも降伏の証は白旗らしい。
私達が近づくに連れ、馬車も速度を落とし、遂には停止する。
「なんだぁ?もう馬車は満員だぞ」
馬車の運転手が悪そうな声色でそう言うが、とんでもない。
「いえいえ、馬車に乗りたい訳ではありません。ただ、皆様お腹減っていませんか?」
私の言葉に、運転手は自分の腹を見ると、乗っている冒険者に腹が減っているかと聞く。
馬車からはそういえばそうだなや、お腹減ったに、別にという言葉が聞こえる。
「まぁ、何人か欲しいらしいな。売ってくれる以上あるんだろ?ホラ出しな」
寄越せと言う運転手に、私は“ない”と告げる。
運転手は弁当的な物を私達が持っていると思ってるだろうが、それじゃ途中冷めるしもっと多くの利益が拾えないじゃないか。
「今はないですが、少々お待ちを」
私は亜空間に手を入れ、様々な物を取り出す。
新鮮な野菜に肉や炭。そしてなにより、この世界にはないバーベキューセット的な物を。それを取り出し、素早く準備をする。
「冷めたご飯なんておいしくありませんよ。ですので、私達は出来たてをここで作ります。では注文を」
セレナさんが思い付いて、私が形にした商売。何でも詰め込める私の亜空間を利用した誰にも出来ないサービス。
その私のサービスに、運転手を含め冒険者一同暖かいご飯が食べれるのかと喜ぶ。
私は調理を可能な限り早く終わらせようと注文を聞いた後に、皆んなのサポートに回る。
意外と手器用に野菜を切る先輩にハリィ。セレナさんはジギルとハイドちゃんと一緒に料理を作る。
私もこの内どっかに入るべきだが、実を言ってかなり不器用な私は火の調整をしたり、切る食材とかを出したりと文字通りのサポートに徹する。
新鮮な野菜に、おいしそうな卵料理。肉が焼ける匂いが冒険者の鼻に入り、嗅いだ冒険者の中からやっぱり俺も食いたいと言う声が上がり、その声を切っ掛けに更に声が上がる。
私は客の数を数えてなかったなと思い出し、「では、皆様が幾ら食べるか集計致しますね」と言って何人食べるか数える。
最終的に客の全員がやっぱり食べたいとなり、弁当ではなく目の前で作ることによる品質アップに食欲を刺激する作戦は大成功した。
◆
私達が鉱山に近付けば近付く程帰還する冒険者が多く見え、その度に儲ける。
道中私と似た商売をする人間がいたが、私達と違い冷たいご飯はウケず、相対的に私達の評判が上がるばかりだ。
そんな商売漬けの日の中。私は今までに最も大きな一団に当たった。
「うぉ――!!クッソ忙しっ、はいお待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」
集団帰還の一団に運良くぶつかったが、死ぬ程忙しい!
冒険者の一部はいつ来るか分からない料理を諦め先を急ぐのもいたが、大半の冒険者は夜という事もあり、今日はここで焚き火をして気長に料理を待ってた。
私はヘロヘロになり、先輩は魂が抜け、ハリィは死んだ魚の眼。セレナさんは過労死不可避で、何故かジギルとハイドちゃんは問題なしで動く。うーむ凄い。
「えっと、かしこまりました。少々お待ち下さい。おーい、二人共~」
いつもなんでか耳がいいジギルとハイドちゃんに私は言うと、次の冒険者に向かう。
「はいお待たせしました。ご注文は、、、、っん!?」
ここ数週間で何度か亜人を見たり、変わった人間を見ては驚いたが、今私が接客したのはなんとファンタジー作品でお馴染みのオークだった。
(え?なんでオークがいんの?というか、コイツ人間のご飯食べれるのか?)
「ん?あぁ、悪い。驚かせてすまない」
「いっ、いえ、失礼しました。では、ご注文はお決まりでしょうか?」
「それなんだが――」
意外と冷静でしっかりとした口調のオークに驚きながらも、私はメニューを聞き取り去って行く。
(意外だなぁ、喋るオークもいたりするものなのか)
ちょっとかいた汗を拭い、私は少し周りを見る。
満点の星が全てダイアモンドの様に輝き、満月が闇夜を照らす地上。
冒険者達は私達の作った料理を食べながら火を囲い、酒を交わしながら談笑する。
一人一人が別の表情で笑い、一人一人がちょっと悲しそうになり、一人一人がちょっと泣きそう。
改めて見る画面の向こうだけだった景色に、私はちょっと泣きそうな部類に入る、
「やっぱり、カッケェわ」
◆
ナブルカ村を出て一ヶ月半以上が過ぎた頃か。
私達はようやく村に帰って来た。
「はは、疲れたなぁ」
「私もだよ~。空ちゃ~ん。後で一緒におねんねしよ~」
「しっ、死んじゃう」
「、、、、、、、、」
軽口を叩いてギルドに戻ると、そこにはおっさん冒険者と新たに若い冒険者達が座っていた。
中にはあの一ヶ月半で偶然会った人もいて、私に視線が注がれる。
なんと答えればいいか分からないが、私は一言。
「ただいま」
その返事は色々あったが、疲れてよく聞こえないや。
「取り敢えず私は寝る」
そう言って私は二階の宿に向かう。
「お姉ちゃん。私も、、、、」
「あぁ、いいよハリィちゃん」
「ハリィって、呼んで」
「いいよハリィ」
ポッと頬が赤くなるハリィと、口をパクパクさせる先輩。お姉ちゃんなんて言わないで下さいよ。
二階への階段に手すりを掛けた瞬間、ドアが開く。
ジギルとハイドちゃんは外で何かしてから戻ると言ったが、もう戻ったのか?
気になって後ろを振り向くと、そこには一人知った人物がいた。
いや、正しくは人間ではない。オークだ。
「やぁ、皆んな。ただいま」
「、、、、初めまして」
「皆様初めまして。拙者今日からこの村でお世話になります」
と、優男にブサイク。オークと並んで挨拶をする中。
シュッと颯爽と現れ、テーブルの上をまるでステージの様に立つ一人の、誰だ?
「へーい皆んな初めまして!わたし『カナー』!クラスはぁ――――“アイドル”!!」
ありえないテンションと、この世界じゃありえない服装で登場したなによりもありえない私の顔ソックリの女だった。
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