第34話 反省会

荷馬車を襲う熊の討伐。


その報告をオベロ村に伝えると、お婆ちゃん達は大喜びし、早速宴会を開く事になった。


先輩は流石に今日位羽目を外させて料理もいっぱい。お酒も沢山飲む。


セレナさんはあまりお酒に目をくれず兎に角料理を。


ハリィはお酒ガン無視でお菓子やサラダ。




で、まぁ、私はというと、反省会を開いてた。


私が先輩に腕を治して貰った直後、ハリィはまだ生きてはいた熊を射殺した。


出来れば殺したくはなかったが、背骨を切った私も同罪だろう。


「はぁ、ねぇハリィちゃん。もしもあの熊殺さなかったらどうなってたと思う?」


「村に持って帰って殺して皮とか肉を取る」


「、、、、そっか。そうだよな」


そうだ。私が殺さなかったら別の誰かが殺す。


言われてみれば当然だろう。生かして何をする?




「ねぇ、ソラ。ソラは、ハリィの事。どう思うの?」


「ん?ハリィちゃんの事?まぁ、かわいいと思うよ」


ハリィのよく分からない質問に、実は口下手で本当は優しい子なんて言えずにかわいいと言う。


「違う。そうじゃなくて、ハリィの魔法。どう思う?」


その言葉を言った瞬間。私や先輩とセレナさんを除いた全員が止まった気がした。


「ハリィの魔法。どう思う?」


念押しするような質問。はぐらかさず答えろと言う圧に、私は本当に思った事を答える。


「えっと、ハリィちゃんの魔法って、あのキノコのヤツ?私は魔法使っているところ見ていないけどカッコいいよ。私ナウシカ好きだし」


ナウシカ系のキノコを出す魔法。そりゃあ出してみたいじゃん。カッコいいから。




嘘をつく理由のない素直な答えに、ハリィは俯いてお菓子を食べる。アレ?ノーリアクション?


一体なんの為に質問したんだと思う中。私は背中を思いっ切り強い力で叩かれる。


「まったく。小さい子の泣かせよって。このこの」


「痛い痛い痛い!!えっ、私ハリィちゃんを泣かせる事言ったんですか!?」


「おうそうよ。でも、ありがと」


「え!?泣かせたのに?なんで?」


状況が理解出来ないが、お婆ちゃん声からして嘘はついていない。じゃあ尚更なんでだよ。




すると面倒くさい事に先輩も近寄って私に絡み始めた。


「へへ~。空ちゃ~ん。この料理超おいしいよ~」


「そうですか?どれどれ。あぁ、おいしいですね」


先輩に差し出された料理を一口食べ、ついでに先輩の手に持ってるお酒も飲む。


「あー。これお酒に合いますね。いやーうまい」


「でしょでしょ~。超おいしいよね?」


「うん。ここの料理は向こうと比べて少しアッサリ気味ですけど、それがこれと合いますね」


そうだ。反省会を開くのはいいとして、料理も楽しもうじゃないか。




「そういえば、あの熊なんでか毛が抜けてたんですけど、なんでですか?」


毛の抜けてた熊。あの抜け毛で剣が通ったが。そもそもなんで抜けてたのか。


「あぁ、それはだね。突然変異だね」


「突然変異?」


「そうそう。時々起こるんだ。抜け毛と聞いたところ、それは新陳代謝が異常になるタイプのやつだな。一応魔力の暴走と言われるな」


私の知る突然変異といえば三毛猫のオスだったり、左右でキレイに柄が別れてる猫とかで、そんなゲームじみた突然変異はやっぱりファンタジー世界なんだなと感心する。


「あの熊だって多分冬の時は普通の熊と同じ筈さ。新陳代謝が異常になって大量にメシを食って大っきくなって毛も抜けるのさ」


「わー。まるでイ◯ルジョーだ~」


先輩その発言アウト。




「あっ、そうだ!ねぇねぇ空ちゃん。空ちゃんはあの時どういう作戦会議してたの~?私寝てたから分かんないや」


「おっ?あの熊を倒す時作戦があったのかい。どれどれ聞かせなさい」


寝落ちした先輩は兎も角、お婆ちゃんに作戦内容を聞かれる。


でもなぁ、この作戦結構ゴリ押し気味な所があるからなぁ。


「まぁ、お婆ちゃんがそう言うなら教えますよ。先輩はまた寝落ちしないで下さいよ」







熊から命からがら逃げた後、武器の火力のなさを鑑みて協力する事を提案した。


無論ハリィは最初は聞く耳を持たないが、聞き耳はちゃんと立てていて、必死の説得の末に納得はされた。


「で、次に熊を誘き寄せる方法が一つあるんだ」


私は先日の夜雲さんに現代知識にある熊の習性を聞いて考えた作戦を言おうとする。


「まったく。だからあっしは2つ目の作戦を考えろと言ったのに」


「はは、ごめん」


仲間に皮肉を一つ言われるが、気にせず続けよう。




「こほん。えっとね、皆んな知ってるかもしれないけど、熊って実は“人を襲わない”んだ」


なら、この熊は何故人を襲うか。実はその理由にこそ熊の悲しい背景が伺えた。


「熊が人を襲う理由として上げれるのは2つあるんだ。一つは冬眠の失敗。あの熊の巨体だからその可能性もありえるけど、今は夏。被害はもっと早く出るからつい最近危険速報を出されるのはおかしい」


ザッコさんの『その情報が出されて間もないからソイツは大きく移動してねぇだろうし』という言葉を思い出し、可能性一を捨てる。


「その2は餌付けだ。とは言っても言い方がちょっと悪いね。猫に食べ物をあげる感じの餌付けね」


「それが一体何が問題なのですか?」


どうして?と思うセレナさんだが、私とハリィは少し悲しい顔になる。




「熊っていう動物はね、結構執着する生き物なんだ。例えば熊が一度持った物を取ったりすると取り返すまで追い駆けるんだ」


「まぁ、あっしも物を取られたら取り返すまで追い駆けますね」


「そうなんだ。でもね、皆んなあまり知ってないんだけど、それは食べ物でも同じなんだ。一度食べた味を、熊は絶対に忘れないんだ」


日本であった悲しい例。ソーセージ。


一匹の、何事もなく暮らしていた熊は観光客の投げたソーセージを食べ、その味を覚えて市街地に進入。危険と判断し、射殺された。


「熊は、多分味を覚えたんだよ。人間の食べ物を」


確証はないが、危険な熊がいる。その報告があった以上生存者がいる筈だ。


人間の味を覚えたのなら人間は真っ先に殺すだろう。なら、先に覚えたのは人間ではない。食料だ。




「熊は人間の食べ物の味を覚えた。だから食料があったりする荷馬車を襲うようになった。多分誰かがその日野営した時の食べ残しでも食べたんだろうね」


不幸な事故だ。これがもしも熊以外の動物ならここまで事が大きくならなかったし、食べ残しなんてなければ襲う事もなかっただろう。現に今までここは問題なく通れた。


「ならこれを利用しよう。いつ気付くか分からないが、人間の食料。つまりクッキーを私達が昨日寝泊りした所に置き、毎日熊の食料を用意しよう。動物全般は一度ご飯が置いてあったら場所を覚えてやって来る。人間の食料と、この学習する習性。利用をして熊が確実に来る環境を整えよう」


広い森だ。いつ気付くか分からないが、気付くまでやればいい。


これは、人間の失態だ。




ちなみに、その用意する食料なのだが、、、、。


「でも、ソラさん。クッキーの数。熊に渡す程数ないのですが」


「うん。その通り。だから今日仕掛けたじゃん」


「あっ、もしかして、あっしに沢山の“兎の罠”を仕掛けさせたのって、こういう事なんですか?」


「正解。ついでにそれも餌にでもしといてね」


(本当は熊の罠を仕掛けたかったんだけど、出来そうにないのと、熊のその習性知ったから兎罠に変えようっていう感じだけど)


まぁ、この作戦そのものが罠だし別にいいか。


「ただの人間の料理ではないけど、ないよりはマシでしょ」


「ですね」




一通り私の言いたい事と、作戦を言ったが。


悲しいかなこれは現代知識。ハリィは疑いの目を向け、味方であるセレナさんもかなり疑問の表情だ。


「ねぇ、ソラさん。その情報どうやって知ったんですか?これ以外にも時々変な事も言ってますけど」


「いや~そういう伝聞を聞いた事があるんだよ。食べ物に執着したりする事とかさ」


「そうですか。じゃあ、誰に教えて貰ったんですか?」


どう返すべきか分からない質問。なんと答えるべきか悩むと。


「ハリィも、近いのは聞いた事がある」


と、以外にもハリィからの援護射撃。


「男を食べた熊は、その味を覚えて男だけ食べる。そんな感じの」


「ホラ、ハリィちゃんも知ってるって事でね」


私は意外な行動に驚きながらも、疑うセレナさんを説得した。







お婆ちゃん達が知りはしないだろう異世界知識。


似たような伝承があるとはいえ、私のような子供が断言する事に場は少し冷たくなる。


「んま、ざっとこんなものだよ。別になんら凄い事はしてないよ。凄い事をしたのと言えば、ハリィちゃんの魔法でしょ。私は見ていないけど、熊の全身が焼けてるのを見れば何かやったのは確実だし」


と、ハリィちゃんを持ち上げ、場の熱を戻すと私は料理を手に取る。




「へぇ~そうだったんだ。全然分からないや。はっはっっはは~。そうそう!お婆ちゃん。空ちゃんなんだけど、熊に立ち向かったんだよ~。剣一本でさ」


先輩の発言に周囲はやるねぇと一言。


「私なんて怖かったのに~」


「でも、先輩だって動いたんじゃないですか。それに、これは私だけの勇気じゃありませんよ。半分はセレナさんのものですよ」


「ん?え?あっし?」


ハムスターみたいに頬を膨らませて反応するセレナさんに、私はそうだよと言う。


「私の世界、、、、もっと昔に住んでた地方じゃ宗教は神様は人間を助けるよ、なんて無責任だったけど、セレナさんの教えって自分でやれって感じじゃん。そういうの見てたらちょっとがんばりたくなって」


本来もっと危険な異世界が他力本願な教えがありそうなのにも関わらず、セレナさんの教えは自分で道を切り開くもの。辛い事があったら忘れよう。苦しい事があったら神が助ける。なんて言葉を並べて実際にはいない神。


苦しい筈の異世界ががんばってて、私ががんばらないってのがなんか少し恥ずかしい。


それに、もう強く分かったんだ。“ゲームじゃない”って。ハリィを庇ったのだって、この熊討伐を決意したのだって全部現実と知っての上さ。




私は頬を掻きながら、反省点を今後どうするか考えながら宴会を楽しむ。


途中記憶が曖昧になるまで飲んだが、別にいいか。







「うーん。頭が痛いよ~」


「そうですね。流石に今日は私も痛いですね」


夕暮れの日。オベロ村にやって来たナブルカ村の荷馬車。


私達は今日この馬車に乗ってナブルカ村に帰る。


その帰還にオベロ村のお婆ちゃん達が見送りをする。


その中にはハリィも。




「お前さんの注文にはほとほと困らされたよ」


「はは、すみませんお婆ちゃん。でも、作ってくれてありがとございます」


「いいさ。ただ、もう一丁欲しくないのかい?欲しいのなら作ってやるが」


「いえいえ、大丈夫ですよ。私は銃特に欲しくないので」


鍛冶屋のお婆ちゃんからのお別れの言葉を貰い、その直後にギルドのお婆ちゃんに小切手みたいなのを渡される。


「これをナブルカ村のギルドに渡しな。向こうが渡す準備さえ整ってればそれを渡せば報酬金が貰える筈だから」


と、最後に大事な物をくれる。




「そうだな。あたし達からはこんなもんさ。最後にホラ、アンタだよハリィ」


お婆ちゃん達に言われ、ハリィは私達の前に立つ。


「その、ソラ。行っちゃうの?」


「まぁね。でも、この村にはまた来るよ。ハリィちゃんがいるからさ。その時はよろしくね」


「うん。そうだね、よろしく、、、、うっ」


嗚咽。小さな少女が、今まで溜めた何かを吐き出す様な嗚咽。


「、、、、嫌だよ。嫌だよ。ソラが、いないなんて、嫌だよぉ!」


ハリィは私に抱きつき、涙を流す。


「嫌だよ!だって、ソラ言ったもん。ハリィの魔法がカッコいいって!ハリィの魔法を、初めてカッコいいって言った」


ハリィの泣きじゃくって言うその言葉に、あのキノコを思い出す。


ナウシカ系のキノコは、確かに見る人によってかなり印象が変わるだろう。




「皆んな、皆んな気持ち悪いって言って、ハリィも嫌いなこの魔法を、カッコいいって、、、、」


ハリィの言葉に比例するようにお婆ちゃん達の笑顔が薄くなっていく。


咽る程泣きながら言うセリフに、私はハリィに手を回す。


「そうか。だったら、私達のパーティーに入らないか?そうしたら、ハリィちゃんと私はずっと一緒だよ」


先輩とセレナさんがこの提案に驚くが反対はせず、無言でなりゆきを見守る。


「一緒のパーティーに?」


「あぁ、そうだ。ハリィちゃんさえよければでいいんだが、どうだ?」


涙を拭い、ハリィは私に私の瞳を見詰める。


「、、、、よろしく、お願い、します。“お姉ちゃん”」




「よろしく。ハリィちゃん、、、、ん?お姉ちゃん?」


「うん。そう、よろしくお姉ちゃん」


急にお姉ちゃんと言われ首を傾げるが、周りは何故かドンドンパフパフと音が鳴りそうな位騒ぎ立てる。


「よぉ、これからうちのハリィちゃんをよろしく頼むぜ。お・姉・ち・ゃ・ん」


「あー!止めて下さい!なんか恥ずかしいですお婆ちゃん」


「おっ、おお姉ちゃん?そんな!私だってそんな呼び方しないのに!羨ましい~」


「先輩!年の差考えましょ。先輩は200歳オーバー。私は16歳」


「ソラさん。どうやってそんな小さな子をたぶらかしたんですか?」


「待って!セレナさんも入ってくると収拾がつかないよ!」


ワーキャーワーキャー。黄色い声が飛び交う中。一人のお婆ちゃんが私を肘で小突いて耳打ちする。


「あたし達が泣かせたハリィちゃんを。今度こそは泣かせるなよ。色女」


深くズシンときた言葉。


その言葉にどんな過去があるのか。私は知る由もないが、「今度は笑わせてあげますよ」と返す。




「おーい。いい加減乗っちゃくれねぇか?」


馬車のおじさんにひゅーひゅーと口笛のおまけ付きの催促に、私は口笛の音を忘れて今直ぐ乗る。


「ホラ、先輩も早く乗って下さい」


「分かったよ~。おっ、お姉ちゃ「あーあー!聞こえない!」


今度お姉ちゃん呼びしたら多分私泣きますよ先輩!


未だ冷めやまない黄色い声を背に受け、それではまたとお別れの挨拶を告げる。


私の横で、ハリィがフードを被って照れていたのを見て。私は少し照れる。


(アレ?そういえばハリィちゃんの魔法って熊に大火傷負わせる位強かったけど、私達の前で使わなかったよな?使うのが恥ずかしいのなら、もしかして私は熊相手に銃オンリーというハンデ背負って戦ってたのか?)


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