第32話 怪物
山吹色の空の下で、二人は深くため息をつく。
「うーん。今日も熊じゃなくて狼に食べられたよ~。どうして直ぐに来るの?」
「頭が良いからじゃないんですかね?あっし等がいつ設置するのかも理解してますねこれは」
「本当!?すっごい頭良いね狼って」
「そうですね」
カナリエは今日も失敗かぁ~と呟くと、唇を尖らせて眠りにつく。
ただ、“木の上”で。
◆
「今日こそ成功しませんかね?いい加減成果が出ない事に飽きましたよ」
コインを噛み、兎の肉を片手で夕方時にセレナはそう言う。
「というか、そもそもソラさんの言った事が正しいのかどうか確証もありませんし。ただ、実際に起きている事実に近いだけで、事実であるか分かりませんし」
「でも、セレナちゃん。結局の所同じ事をしなくちゃいけないんじゃない?この方法以外信用出来そうな方法もないし」
「まぁ、そうですね。ただ、狼はなぁ。肉があるかないかの違いだけど、気にはなりますし」
「ふふ、そんなセレナちゃんの為に、パンパカパーン!竿を用意したよ」
カナリエは自信満々に自作の竿を取り出すと、キラキラした目で感想を催促する。
自身があるカナリエとは裏腹に、セレナは小首を傾げる。
「はぁ、それで何するつもりですかカナリエさん」
「まぁまぁ見てみて。コレさえあれば狼なんて問題ないから」
そう言ってハリィは気に登ると、竿に石を括り付けると、ポロリと石を垂らす。
「えっと、これ位ならセレナちゃんがジャンプすれば取れるかな?」
「これを取ればいいんですか?」
「うん。そうだよ、ジャンプしたら届くでしょ?」
言われた通りジャンプをすれば届きそうな距離に吊るされた石を、セレナは訳がわからないまま取ろうとする。だが。
スッと石が垂直に上がり、手元から離れて行った。
更にそのまま石を左右に振り、キャッチのタイミングを強制的に選ばさせる。
その動きに、セレナは「そういう事ですか」と発想に感心する。
「でしょでしょ!?もしもこれがお肉をずっと動かして取られないようにすれば、もんだーいナッシング!」
カナリエのワードセンスはさておき、このやり方なら狼に肉を取られる事はないなと納得する。
左右に振ってミスを煽り、食べようと飛んだら上に上げるという仕様に先輩はげへへと笑う。
早速セレナは兎を一匹捌き、臓物や血を地面に撒き散らすと、残った肉を竿に括り付けて木に登る。
その木から肉を垂らして数十分待つ。
すると血や肉の臭いに誘われた4匹の狼の群れがやって来る。
いつもなら高い木に吊るした肉を取られるが、今日はない。
飛び上がった狼。その跳躍は2メートルを超えるんじゃないかと思うが。プイッと肉が上に上がって空振りする。
ハテナマークが狼の頭上に浮かぶが、そのまま肉が左右に振られてより難易度を上げる。
パックンパックン何度も狼が食べようとトライするが、絶対に届かない。
「へへ、どう私のアイディア。超すごいでしょ?」
「えぇ、今回ばかりはグッジョブとでしか言いようがありません」
小声で狼を弄びながら今回のアイディアを自慢すると、つい下を見る。ジャンプする狼を見ると、なんだから今まで肉を取って食べた狼も食べれなくてかわいそうに思えてくる。
「ねぇ、なんかかわいそうじゃない?ちょっと位あげてもいいんじゃ?」
「そっ、そんなのだっ、ダメに決まってるじゃないですか!?そうじゃなきゃこの作戦は、、、、」
そう行ってまたも下を見る。
そこにはがんばって肉を取ろうとする狼がいて、取れなくてこころなしか残念そうに見える。
くぅーんくぅーんと悲しそうな鳴き声も聞いてしまうと、もう二人は狼に同情の気持ちを抱いてしまう。
感情が揺れ動く中。つい手を滑らせて狼に肉を取られる。
あっと短く声を零して狼の食事を見詰める。
もぐもぐと小さい肉を食べる。その狼の顔はなんだか嬉しそうで、幸せだった。
「、、、、これでよかったのかなぁ?」
「、、、、さぁ、でも今日も結果なしですね」
幸せそうな狼を見て二人は頷くが、狼が唐突に後ろに振り向いた次の瞬間、黒い閃光が目に入った。
大きな熊はその巨体で一匹の狼を弾き飛ばすと、近くにいた狼の一匹の首の骨を圧し折る。
刹那の出来事に困惑する狼だが、一匹が狼に喰らいつき、二匹目が続く。
だがしかし、その抵抗も熊の身震い一つで振り飛ばされ、倒れた一匹を捕まえると直接胸に噛み付いて心臓を引き出し、噛み潰す。
仲間が二人も殺され、激昂した一匹が飛び掛かって襲うが、熊が腕を一振りして叩き殺す。叩かれた部位は本来の原型を留めないほどにグッチャグチャに。
最後の一匹は逃げようと試みたが、熊の鋭い爪で背中を裂かれた。
まだ息があり、呼吸をする度に肩が上がる。
ギリギリのラインで生きるその生命に、熊は背を噛んで首を勢いよく横に振る。
瞬間、背骨やその他諸々を引き抜いて血飛沫を撒き散らす。
一方的過ぎた虐殺に、二人は息を飲んで食後その場で遊び始める熊を、ただ呆然と眺めてた。
◆
「ねぇ、やっぱり止めようよ。あんなのに勝てる訳ないよぉ空ちゃん」
「あのですね、折角銃も完成して私の予想通りに事が運んだっていうのに、諦めろって出来ませんよ」
何度も熊との戦いを止めようとする先輩だが、私はそのつどダメだと返す。
「本当に、本当にしちゃうの空ちゃん?」
「しますから。それに、先輩は戦えないので心配なんてしないで下さい」
慰めたつもりの言葉に、先輩は頬を膨らませると大声で一言。
「空ちゃんのバカァァ!!」
2つの意味で耳を塞ぎたくなる様な言葉の後、先輩は何も言わなくなるが、その代わり突くような視線が止まらない。
その視線を無視する事何分が経ったのか。
熊が来るまで、一切の言葉すら発さず待ち続けた。
山吹色の空が茜色に変わる時、熊はやって来たが、あれは熊か?なんか全く別の生き物に見えるが、、、、そうだ。生前ネットで熊の毛が生え変わり時の画像を見たが、それと同じだ。
ノシノシと歩いて来たきしょい熊は、地面に置かれている様々な物に興味津々といった感じで見詰める。いや、正しくは興味はあれどそれよりも“懐かしく”見ているのか。
実際はどうかさておき、熊は辺りを見回すと、ブランブランと揺れる竿についた肉を見る。
それを取ろうと再び歩いて近寄る。
「バアアァァンン!!!!」
熊が腕を前足を出した時を狙った一撃が脇の下に入る。
前足を突き出した際の脇の下。ここは熊の心臓の位置であり、一撃必殺の攻撃となる。
だが、「ぐうぅおおおぉぉぉぉ!!!!」と熊が叫ぶ。
どうやらちゃんと当たらなかったようだが、隠れて狙撃してたハリィは二発目を装填する。
僅か30秒の行動だが、熊はハリィの方向へと向かって突撃する。
「とらあぁ!」
その熊の横っ腹に、私は剣を突進と共に突き立てる。
肉と脂肪を剣で裂く嫌な感触を感じながら、私は剣を腹に突き立てたまま剣を一回転させる。
グチュグチュ吐き気がする生々しい攻撃は熊にはそこそこ効いたようで、数秒動きが止まる。
私は反撃されない内に脱兎の如く離れ、剣の血を拭き取る。
そして以前は刺さらなかった剣が、毛がないせいなのか突き刺さったと遅まきに理解する。
苦しむ熊。だが、休息は与えない。
私が突進で生んだ数秒。
その数秒内でハリィは装填を終え、熊を狙い撃つ。先程と同じく狙うは心臓へのルートとなる顎下。
だが、大きなミス。
ハリィは狙いがあまく熊の目に弾を当ててしまった。
熊は片目を失ったが、勝負は決めれなかった。
そのまま熊はハリィに向かって突撃する。
「おおぉ!耐えろ私の剣!」
そして腕を振って殺そうとした時、私は剣を盾にしてハリィを守ろうとしたが、バキンと剣がアッサリと壊れた。
振り抜いた腕は私の顔を深く引き裂く。
「っっ――――!!」
皮膚の皮に血管を引き千切る痛みを爪の数だけ私は食らい、絶叫を上げる。
灼けるなんて表現出来ない痛みに、私の頭は真っ白になる。
その私の前で熊はもう一振りして今度こそ私を殺そうとする。
頭の中が真っ白なまま、私は折れた剣で熊に勝負を挑もうとする。
私に対して振られる腕は
案の定振られた腕は私の腕にぶつかり、完全に腕がおかしくはなったが奇跡的に振り抜かれず、私は腰辺りに斬撃を与えた。
思考がままならない激痛の中。自分でもこの場での最適解を叩き出したつもりだが、しまった。ハリィを置いて行ってしまった。
「ハリィ!」
咄嗟に上げた声。その声に返事はないが、木が折れる音が何度も響き渡る。
生きている事を願い、私はセレナさんに
「この傷、、、、なんでこんな無茶をしたんですか!?」
「ハリィちゃんを助けようとして少し」
「少しなんかじゃありませんよ!全部は直せませんが、痛みや傷を失くす程度にしますが、その左腕は出来れば使わないで下さいよ」
そう言ってセレナさんは私の腕や顔を治療し、痛みを取り除く。
「ありがとうセレナさん」
礼を軽く言って私はハリィの救援へと向かう。
ハリィの場所へと向かうと、木々を上手に利用してハリィは熊を相手に射撃戦を繰り広げていた。
生きていた事に喜び、私は射撃戦に加勢する。
「おらあぁ!」
木々を薙ぎ倒す熊の隙きを突いて熊を一斬り。
無論斬られた熊は私に攻撃しようとするが、今度はその熊に銃弾が襲う。
弾丸は改造前と違い体の深くに食い込み、熊から血液を奪う。
それが短い感覚で二発目が撃たれる。
装填には30秒程掛かるのでは?と思い発砲先を見ると、ハリィが方法は分からないが銃身を拳銃サイズまで切り詰めていた。
連発できるならそれに越したことはないと思い、私は熊の懐に入る。
先程の攻撃で分かったが、この熊。デカ過ぎて懐に入られると攻撃する手段がない。
入った懐で剣を浅く、それで素早く沢山傷をつける様に振る。
ジワジワと血液が流れ出し、いっそこのまま出血で倒すかとも考える。それなら殺さずに済むし。
懐を適当に斬りつけると、スッと熊から離脱して隙きを伺う。
「少しヘマはやらかしたが、イケる」
パターンを見付けたと喜んぶ。
このままなら勝てる。そんな淡い幻想が事実なんて、どうして少しでも思えたのか。
熊は私を一瞥するとハリィの方向へと走る。
その熊に私はさっきと同じく刃を突き立てて止めた。と、思った。
けれども熊は止まらず疾走する。
ハリィが一発発砲するも、熊はやはり止まらず疾走する。
私の剣と、ハリィの銃。どちらが危険か理解しての判断。
その判断に基き、熊はハリィに腕を一振り。
ハリィは咄嗟に魔力障壁で体を守ったが、軽いハリィは横に吹っ飛び、腹部にぶつかった木の枝が“貫通”した。
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