第31話 決戦武器

銃の大破により一旦射撃訓練を中止させ、ギャラリーの皆んなを追い返した。


取り敢えず壊れた銃の修復をお婆ちゃんに任せ、私はその間銃の評価をハリィと二人で定める。




「あー。ミスリルの硬度はよく分からんが、貫通出来たのは相当な威力があるのは間違いないだろう。でも反動で吹っ飛ぶのは問題だな。今回はライフリングなしな上で吹っ飛びの手ブレがありながらも命中したのは確実に偶然だから訓練が必要だな」


ハリィの体重を適当に仮定して、私はどれだけの衝撃があればこの体重の女の子がスッ飛ぶか適当に計算しながら話す。


「訓練は大丈夫。ハリィ、がんばれる」


「オッケー。そうだな、命中以外は強度だな。一発の発砲で壊れるのは武器として問題だな。なくなったら戦闘なんて出来ん」


「うん、、、、そうだね」


「まぁ、強度に関してはお婆ちゃんがどうにかするとして、中々の決戦武器が出来上がったな。残りの評価は射撃訓練をしてから下そう」


つまり、残り時間は訓練だ。




「という訳で、ハリィ訓練をするのだが、、、、どうやるよ?」


一応なんとなくだが人間があの体勢で吹っ飛ぶ衝撃を計算したが、これを訓練という形でどう与えるんだよ?しかも銃なしで。


「タックルを、ハリィが受け止めるって方法はどう?」


「うーん。問題なさそうだけど、タックルする私は――問題だな」


いたいけな少女に、高校生になる私がタックル?ポリスに御用ですね。


「じゃあやらないの?」


「いや、やろう。本人の許可があれば問題はないな。多分」


「ん?」




ハリィは私が言う事に首を傾げるが、黙って射撃訓練の時と同じ体勢をして助走をつける私を受け止める準備をする。


「えっと、本当に大丈夫かい?」


「大丈夫」


子供相手にタックルするのは気が引けるが、私は意を決すると勢いよくタックルする。


そして、ポンとハリィが向こうに飛んでしまった。


ポンと飛び、コロコロ転がると地面に五体を投げる。


明らかに銃よりも過剰な衝撃に、失敗したと思ったが。




「、、、、大丈夫。ぜんぜん大丈夫だから、もう一回」


と、もう一度待ち構える。


「いや、、、、やっぱり休憩にしない?拳銃は大丈夫だったんだし、この銃位大丈夫だって」


「大丈夫。続けれる」


「大丈夫だよ、休憩くらいさ」


「ハリィは、大丈夫ッ」


スッ飛んで行ったハリィに私は休憩を勧めるが、語尾を強めて休憩を拒否して構える。


そんなハリィに私はそれ以上言葉を掛けず、訓練を何度も何度もした。







「いやぁ~、今日中にもう一回出来るとは、お婆ちゃんのお仕事に感謝感謝」


「全く、年寄りを働かせよって。でも、それでいい。若者は年寄りを使ってより強くなりな」


「うん。ありがとうお婆ちゃん」


衝撃に耐えれるように銃口以外の金属化をお願いしたのだが、まさかこれ程早く終わるとは。


ハリィは適当な点検を済ませると、もう一度試射をする。


ハリィはキレイな膝立ちで銃を構え、どんな衝撃が来てもいいように備えてる。


その姿勢と銃の構え方を見て準備万端と判断すると、私は「撃てぇ!」と発砲命令を出す。




瞬間。あの爆発音と共に弾丸が飛び出す。


だが、今度は鎧のド真ん中ではなく、端っこに命中した。


「あちゃー。やっぱりお昼のやつは偶然か。こりゃライフリング銃身作っといて正解だな」


命中箇所をメモする時、ハリィは衝撃に勝ったのかと思い見ると、少し背中が後ろに傾いているが、衝撃には勝っていた。しかも銃は壊れていない。


よしよしと喜ぶが、大事なのはこれから。今からハリィは銃の火薬の補充に装填をしなくてはならない。


もしも初撃を外したのなら、二撃目が撃てるかはその作業の早さによる。


曰く後ろから弾込め出来ない銃は装填に30秒程掛かるらしい。




ハリィは構えた銃の構えを解き、まずは火薬を取り出す。


その火薬を発砲の際に必要な適正量を目分量で量って銃口に入れ、次に弾丸を入れる。


この時まずスムーズに入らないから細い棒で奥に行くように弾丸を押すと、再び銃を構える。


この作業を大体40秒で終えると、ハリィはもう一度発砲。


だが、どうやら火薬量が多過ぎたようで――ハリィはまたも後ろに飛んでった。


無論弾は的には当たりすらしなかった。




「あーあー。失敗しちゃったなぁ。おーい、ハリィちゃん起きれる?」


盛大に吹っ飛んだハリィに声を掛けると、初回の装填速度を約40秒と記録する。


しかし――何故あの時ハリィは40秒も待たずに連発してたんだ?火薬みたいなのはあるらしいけど、そうだとしてももうちょっとは時間掛かるんじゃないのかなぁ?やっぱり銃身が短いから取り回しの問題かな?


「うん。大丈夫。もう一回撃つからっ、熱い!」


起き上がったハリィだが、そう言って銃を離す。


「ん?あーそうか。衝撃だけじゃなくて排熱も考える必要があるのか、、、、」


私は銃を持ってみると、握る所は多少温かい感じだけだが、銃身の温度は熱いと言える温度だった。




「まぁ、取り敢えず今日は日が暮れるまで精一杯射撃訓練をしよう。持ち手が熱くなっても布でカバーすれば誤魔化せるでしょ」


それとも、もうやめるかい?


そう問うと、ハリィは怒る様な声で答える。


「絶対にヤダ。今度は、ハリィが、がんばる番だから」


もしかして私のがんばる姿に感化されたように取れる言葉に、それはないかと思いながらつい嬉しくなってついペンに力が入る。


「オッケー。じゃあ早く射撃体勢について。まずは弾丸の集弾率を測るから、測れる分発砲するぞ!」


「うん!」







私とハリィは、ライフリングを導入した銃が出来るまで時間が許す限りは練習した。


銃の性能を雲さんから教えられた方法で数学的に計り、性能を叩き出すと狙撃する際の距離で射撃をし、精度を上げるように努めた。


そして、努力の末ライフリングが導入する日が来た。




渡された銃は、もういっそライフルにしたらいいんじゃないかと思うような拳銃だが、事が終われば拳銃に戻さなくてはいけないから別にいいだろう。


私は銃を受け取ると、ちゃんと設計図通りに出来たか確認する。


「全く、強度を上げたいくせに木を使えって、設計図を用意してくれたからいいものの、こんな大仕事初めてだよ。ワシを過労死させるつもりか?」


「いや~すみません。でも、ありがとうございます。ふふ、これで火傷しない筈だ」


「完璧、なの?」


「あぁ、完璧だぞハリィちゃん。ちゃんとお婆ちゃんに感謝しな」


横でありがとうと言うハリィを尻目に、点検を終えるとハリィに銃を渡す。




ハリィは銃を渡されると、すぐさま膝立ちで銃を装填する。


火薬を適正量を目分量で取り出すと銃に詰め、最後に弾丸を込めて銃を構える。


この間を僅か30秒程で済ますと、銃口から火を吹く。


火薬が銃身内爆発し、その勢いで弾丸を推進させる。


更に弾丸がライフリングに沿って回転し、ジャイロ効果で安定と破壊力を手にして鎧へ直進する。


その結果。高速に飛翔する弾丸が鎧を貫通する。


しかし、貫通出来る事実は既に承知。


重要なのは――


「狙ってド真ん中の命中。これで勝てるぞ」


手を打って喜びたくなるこの命中精度だ。




ハリィも私と同様で少し嬉しそうに口を開くが、直ぐにキリッと表情を正して装填をする。


装填の後に二度目の発砲。


弾丸はまたも真ん中を射抜き、さっきのが偶然ではないのを証明する。


そして続けて三発目四発目を発砲し、計十回を数えると私は射撃を止めさせ、計測結果をハリィに見せる。


計測結果は改めて言うまでもないが、「完璧だ」


真ん中を外れたのは多少あるが、どうせこんなのは手ブレ問題であり、武器の欠陥ではない。


「後は狙撃時と同じ距離で真ん中に命中させる練習をするだけだ」


そう言って私は手を振ってハリィの訓練を応援する。







射撃訓練を今日いっぱいで終えると、私は最後に銃に照準を付けて全力で先輩の所に向かった。


離れた日を含めば一週間も待たせた事になる。


遅過ぎる仕事に、二人は最悪の場合土に還っているのではないかと思ってしまう。




「おー!やっと来たの空ちゃん!寂しかったよ~」


「やっと来ましたか。辛かったですよ」


だが、二人は逞しい事にちゃんと生き残ってた。


「悪い!待たせちゃって。でも、私が出来る範囲で最大火力の武器は出来たよ!」


「寝ずに、二がんばったよ。なんか、計算も凄くしてた」


「そうなの空ちゃん!?寝ないでがんばってたの!?」


「えぇ、ちょっとばかし休みもしましたが、毎日武器作りと計算を何度もしましたよ」


その計算に雲さんも付き合ってたので、私一人ではないがそれでも相当な時間はペンを走らせてた。




「でも、二人が死ぬ前に出来て、努力した甲斐がありました。二人共辛い仕事引き受けてありがとうございます」


ちょっと泣きそうな声で二人に礼を言うと、二人は背中を擦って言う。


「あのねあのね、私は空ちゃんの為ならどんなに辛い仕事でも引き受けれるから、そんなに悩まなくていいんだよ」


「あっしには出来ない仕事なんですから、やってのけて来たソラさんは泣かずに喜ぶ事だけして下さい」


「、、、、ありがと」




私は気を取り直して胸を張ると、ショートソードを取り出して言う。


「じゃあ、早速熊を倒して帰ろう!終わったら今度こそおいしい物を沢山食べましょう!」


二人の意欲を大きく駆り立てる言葉を発し、ついでに私の意欲も駆り立てた。


つもりだが――


「いやぁ~。空ちゃん。やっぱり熊倒すのやめない?」


「あっしも、出来れば戦いたくないですね、、、、」


と、二人から否定の意見が上がった。

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