第30話 想像力

「――そうだ。そうすればよかったんだ」




私はテーブルに置いてた帯を握って注目する。


ただ、私が注目したのは帯ではない。注目したのは帯を構成する糸だ。


私はとっさに帯を引き裂き、糸を取り出す。


一本だけでは使えない為、帯を全て解いて糸にすると、私はその糸を束ねて“紐”を作った。


(少し細いが、試しにやってみるか)


私は木の棒を持ち、その木の棒に紐を巻き付けた。




ただし――「ライフリングと同じ形で巻き付ければ、、、、」


12インチで一回転する様に巻く。


柔軟な紐はキレイに木の棒に巻き付けれ、一本のキレイな凸が出来る。


一本の凸では意味はないが、これが6本出来、更に粘土で型を取れば。


「これでキレイなライフリングの完成だ」


彫るんじゃない。逆に凸を作れば掘ったも同然。


今の木の棒じゃ出来ないけど、少し細めの銃弾と同じ直径なら巻き付ければ出来る。




「ありがとうハリィ!お陰で出来たよ!というか、この方法を思い付いてたの!?」


嬉しさのあまり、私はハリィに抱き付いて礼を言う。


「いや、、、、ただ、別の方法がないかなって、思って言っただけだけど」


「そう?まぁ、でもよし!サンキュー気付かせてくれて!」


「よかったね。別の方法が、あって」


「あぁ!」


どうやら本人は全くこういうのを意識してなかったようだが、完成出来た事に代わりはない。


私は財布を取っていざ紐と棒を買いにゆかんとしたが、、、、




「あぁ!制作資金が底をついた!」


出発前の二人からの金銭の要求と、ノミとかの工具を揃えたり、度重なる失敗で私の小遣いは全て消え失せてしまった。


(だが、生活費は残ってる!どうする?使うか!?)


生活費に手を出すかどうか悩むと、ハリィが私の手を掴んだ。


一体なんなんだと思うと、チャリと音を鳴らすと私の手を離す。


「手。開いてみて」


言われた通りに手を開いてみると、そこには幾らかのお金が握らされていた。


「これは、、、、」


「使って」


「でも」


「大丈夫。ハリィこう見えても、少しお金に余裕があるから」


ハリィの雰囲気を見る限り、黙って受け取るべきなのだろう。


私はありがたく受け取って礼を言う。


「ありがとう、ハリィちゃん」


「、、、、どう、いたしまして」







「しっかし、方法さえ思い付けばこうも簡単に出来るのか」


「うん。これで、ノミで彫らなくて、よくなったね」


「そうだね。あぁ、そうそう。ハリィちゃん指大丈夫?」


「大丈夫。これ位、なんともない」


「偉いね~ハリィちゃん。でも、これハリィちゃんが気負う事じゃないよ」


様々な工夫を凝らしをキレイなライフリングの型の元を作りながら、私とハリィは他愛ない雑談をする。




「というか、逆に簡単過ぎて怖いな。アッサリ出来過ぎちゃって何かしら失敗が起きそうだな。発想一つでここまで違うのか。発想力って凄いな」


「そうだね。こんなに、簡単になるなんて」


発想力と言って私は元の世界が発想力の塊だなぁと感心し、改めて人類の凄さと歴史に驚く。


何百トンと物を運べるタンカーが海を渡り、音速に達しさえする速度で飛行機が空に飛ぶ。はては月にさえ辿り着く。


「どんな頭しているんだろうなぁ、歴史の偉人は」


「ん?」


一体どれだけ頭を捻ればそんな事が出来るのかやら。想像力だけで世界を創る頭脳は。




と、雑談もそこそこに作り終えると、ハリィにこれを渡して私は少し休憩する。


「型を取るのは誰か知っているお婆ちゃんにでも頼んどいて。私は少し休むわ」


「うん。少し休むといいよ。それと、あの、、、、」


「ん?何?」


「えっとね、ハリィ少しだけ謝るよ。ごめんなさい」


「え?なにが?」


モジモジするハリィだが、私は理解が置いてかれて何に恥ずかしがっているのかが分からない。


「、、、、無愛想だった事。がんばってるのを見て、それが恥ずかしくて、、、、」


「あぁ、そういう事ね。大丈夫だよ、私気にしてないから。それよりもその言葉僧侶の子に掛けてくれるかな?とても良い子だから謝れば許して貰えるよ」


ハリィの頭を軽く撫でて、本当は優しい子だなぁと思う。


「分かった。今度会ったら謝る。じゃあ、行っています」


「いってらっしゃ~い」







よく晴れた昼。


私はライフリングなしの試作銃第一号が出来たが、ライフリングありの銃はまた2日掛かると言われ、その間私は射撃訓練をすると決めた。


そうとなれば次は火薬。ライフリングが完成した昨日の夜に来た馬車から硫黄と木炭を取り、かなーり汚いがトイレから硝酸カルシウムを取り出して適当に水で精製して硝酸カリウムを作り出し、3つを合わせて黒色火薬を作った。あと、砂糖もプラス。これで火力が増すらしい。


そして翌日に銃を撃つから大きい音が鳴ると村の皆んなに注意喚起をしたら、見てみたいと言われたらしく、大勢のギャラリーが射撃訓練をお菓子を食べながら待っている。




「、、、、大きい音がするからってだけ言っときゃいいのに、銃を撃って言うのは余計だよ」


「ごめんなさい、、、、」


「いいよ、別に。その代わり、皆んなを楽しませて」


私はよく分からないが銃の点検をし、それが終わると少し発声練習をして皆の前に出る。




「お待たせしました皆々様方!今日という日は天気にも恵まれ、きっと記念すべき日となるでしょう!」


何故なら――


「想像力の兵器。鉄砲の、世界初となる試射会なのですから」


大声とわざとらしい手振りで叫ぶは、世紀の大発明をここで見せるという宣言。まぁ、正規の発明ではないけど、、、、


観客の興味を煽り立てる中。私はハリィに目配せで来てもいいとの合図を送ると、ハリィは銃を持ってやって来る。


そしてあらかじめ的として借りたミスリル鎧の前にやって来ると、ハリィは私が昨日教えた膝立ち状態で銃を構える。本当は匍匐状態でした後に膝立ちだけど、見世物なら映える膝立ちがいいよね。




ハリィが銃を構えて数十秒。外さないように狙いをゆっくりと定める。


ハリィが元使ってた武器とは原理は同じだが、馴れない形や知らない威力にどこを定めるか迷い、結局的のド真ん中を選んだ。


照準が定まったとみた私は、左手を後ろに回して右手を垂直に上げると、振り下ろして一言。


「うてぇ――――――!!」




「バアアァァンン!!!!」




掛け声と共に響き渡る爆発音。


その爆発音はハリィが銃を撃つときよりも音が大きく、耳に来る音だった。


しかし、それよりもギャラリーの印象に焼き付いたのは、、、、。


「うん。まぁ、一応は成功かな?」


向こう側まで貫通したミスリルの鎧だった。


周りの皆んなが驚く中。私は意外と外れなかったなと思うが、これが平常運転か分からないので再度撃ってみようとハリィを見ると、なんという事でしょうか。


ハリィは反動に耐えられなかったのか、反動ですってんころり。


更に追い討ちと言わんばかりに銃が、壊れた。




「あー。射撃訓練以外する事ないなって思ってたが、二日間。普通に忙しくなりそうだなぁ」

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