第28話 試行

「ねぇ。あと、どの位考えるつもりなの?」


「分からない。これは人類が本気になって作った物だからなぁ。私如きがどこまでいけるか」


部屋に籠もって二時間程か。私はハリィの銃を凝視しながらどこを変えるべきか悩む。


熊の心臓を貫く為には何が必要か。銃身を長くすべきか、銃口を大きくするべきか、そもそも拳銃ではなくライフルが必要になるか。まぁ、そもそも銃なんて禄に知らないけど。


「いや、そもそも。この銃、どう弾込めしてたの?どこに給弾機構が?」


ハリィが持っていた銃。これがどうも私の知る銃ではない。


見た目は似ているが、映像作品で見る銃にある薬莢を出す場所もなければ、銃の持ち手には弾を入れる様な場所さえない。マジでどうやって弾を込めているんだ?




「弾?それは、こうやって入れるんだよ」


そう言ってハリィは拳銃の銃口からベアリング球を入れ、これで大丈夫と言う。


「????ん?うん。あぁ、そう言えば火縄銃とかはこうやって弾入れてたなぁ。はっはは、、、、改造大丈夫か?」


「自分からそう言ったんだから、責任とって、早くやって」


痛くなる頭を抱え、私は一夜漬けの知識を振り絞って紙に案を書き出す。


「そういえば、これ火薬とかどうやってんの?銃は火薬がないと飛ばないでしょ」


「火薬、、、、そんなのいらない。私が使えば撃てる」


「そうか。って事だから、一応弾丸を作らなくていいか。あぁ、ようやくスタートか?」







草木も眠る丑三つ時。星々と月の明かりが世界を仄かに照らし出す夜。


私は悲しい事に馬に乗った時4度振り落とされ、自分よりも遥かに幼いハリィに馬の操縦を託した。


連続落馬の事故はあったものの、それ以外は何事もなく村に辿り着いた。




「へぇー。ここがハリィちゃんのお家か」


「皆んなを、起こすのは明日にして。今日は早く寝よう」


「いや、向こうで皆んなが待っているんだ。一秒でも早く戻って助けに行かなくちゃ」


そう言って私は銃を借りると、随分とこざっぱりしているハリィの部屋にあるテーブルに向かい、まずこの銃に関して知ろうとする。


しかし、私の知識は雲さんに教えて貰った一夜漬けのだからなぁ。どこまで通用するのか。




「、、、、ハリィは、何かやる事ある?」


別に今ハリィに手伝って貰うつもりはなかったが、ハリィは寝ずに私の足掻きに付き合うらしい。


「ん?ハリィちゃん手伝ってくれるの?」


「うん」


「本当?だとしたらこの銃に関して聞きたい事があったら教えて」


「分かった」


設計者本人がいるのは心強いとして、私は設計者を聞き、それの理解に没頭した。







小鳥がさえずり、暖かな光が窓から差し込むのをふと私は気付く。


「あぁ、もう朝か」


この銃を理解して簡単な案を捻り出すのに一晩も使ったのかと唇を噛み、不甲斐なさに拳を握る。


そんな私に、コツンとホットミルクが入った容器を突き出される。


一体誰が?そう思ったが、ホットミルクを作った本人は直ぐに名乗りを上げる。


「ハリィの、作った牛乳は嫌?」


と、あのハリィが私にホットミルクを作ってくれたのだ。


「いや、とっても嬉しいよ。ありがと」


意外だなと思いつつ、私は喉に流し込む。一度熱いと思ったが、昨晩から何も飲んでないお陰で直ぐに飲みきった。




「ありがとう。おいしかったよ」


「そう」


ハリィは相変わらず無愛想に返すが、どこか不思議と嬉しそうに見える。


「そうだね。少し体を解したら鍛冶屋に行こう。ハリィちゃんは場所さえ教えてくれればいいから、私が出ていったら眠ってね」


「いい。ハリィも、一緒に向かう」


そう言うとハリィは私の隣に座り、体を解し始める。


以前なら絶対にしない事に私は少し戸惑いながらも、非協力的よりかはいいと割り切って体を解す。


(少しだけ。ほんのちょっぴり信頼されたかな?)







鍛冶屋に向かった私は、お婆ちゃんに取り敢えず命中率向上として銃身を長くし、火薬はなくとも銃はなんか撃てるらしいので、ライフルの弾丸に似た形状の弾丸を作って貰うように依頼したが、、、、。


「クソっ!これを最優先にしても最低2日はかかるのか、、、、。この銃の理解に時間をかけ過ぎた。実際なんの着火装置もない金属の棒と持ち手を合わせただけなのに、何かあると思って二時間もかけてしまった。その時間があればっ」


告げられた事実に、私は自分の能力に呆れながら、次に取り掛かることを考える。




一つ最も手に入れたい物としてはライフリングという命中率を格段に上昇させる物があるが、これを作るのは不可能だと諦めてもいい。


次に火力として何か一工夫を加えたい。


あの熊の肉体。そんじょそこらの改造では貫けないだろう。だから元と比べれば革命的な火力が欲しい。


「となると、やはり火薬かぁ」


火薬はなくても作動するらしいが、良い火薬を使えば強い筈。




浅はかな考えだが、そうである事を祈って私はテーブルにまた向かい合う。


「寝なくていいの?」


再びテーブルに座った私にハリィは眠そうに声を掛ける。


「あぁ、二人が待っているからな。ハリィちゃんは寝ていいよ」


「ううん。ハリィも起きてる。心配なんでしょ、二人が。なら、少しだけ手伝うよ」


「大丈夫。もうハリィちゃんに頼る事はないよ。今からやる事は私しか出来ないから。ハリィちゃんは寝といて」


頭を撫で、眠そうなハリィをベッドで寝かせる。


背中を少し擦ると、凄く眠たかったのかもう心地よい寝息を立てて就寝する。




「、、、、さてと、少し忙しくるぞ~。こんな事するなら真面目に働いた方がいい気もするが、銃の改造に異世界では知り得ない熊の詳しい生態。これぞ正しく異世界転移なイベントだ。私の待ってた“冒険”が今、ここにあるぞ!」


徹夜で動かない脳を、私は自分の頬を叩いて無理矢理覚醒させて雲さんを呼ぶ。


「よぉ空ちゃん。中々顔が一人前になってきたなぁ。まさかこんな短時間で成長するとは。私は嬉しいよ」


「お世辞はよして下さいと言うべきかもしれませんが、自分でも少し今は成長している気がしますんです。実は。という訳で、成長する私に付き合って下さい」


「おう言ったな!とことん付き合ってやるで」


私は木をナイフで削りながら雲さんにこの銃の構造を話し、その構造を聞いた雲さんがネットで知識を漁って私と意見を出し合いどう改造するか方針を決めあった。







お昼が過ぎ、もう晩ご飯という時間帯に、私はそろそろ来るかなと思いナイフをテーブルに置いて外に向かう。




村の門前。そこに辿り着くと、いつも私と先輩を乗せてた運転手さんが荷物を村に下ろしていた。


「こんばんわ~。運転手さーん!聞こえますか?」


「ん?おっ、こんばんわ。空ちゃんじゃねぇか。どうしたって、目の下スゲェぞ!」


「こんばんわ。これには色々事情がありますが、それよりもこれを持って来れますか?多分あの市場にある筈なんで」


買って来て欲しい物を書いた紙切れを渡すと、運転手さんは確認を取る様に声を上げて読む。


「えっと、炭に硫黄?硫黄ってなんだ?」


「硫黄っていうのは黄色の色をしててなんか臭いヤツです」


「あぁ、アレね。何に使うか分からんが、オッケー分かったぜ」




必要な事を伝えると、私はハリィの家に戻った。


すると、ハリィが起きて私が削ってた木をハリィが削ってた。


「おはようハリィちゃん」


「うん。おはよう。ちょっとしか削ってないけど、この絵の通りに削ったよ」


と、ハリィは私が火薬の衝撃を緩和するべく作った銃底の設計図を見ながら削ってた事を伝える。


「ありがとハリィちゃん。お陰で完成までの時間が短く済んだよ」


そう言うと、私は作業を続けようとするが。




「ゔっ、、、、」


睡魔が突如として私を襲った。


だが、二人を待たせる訳にはいかない。私は銃底を取ろうとしたが、「ハリィが続きを作るから寝てて」と言われる。


「大丈夫。私はまだ出来るさ」


「無茶しないで。昨日から寝てないんだから体が限界だよ」


「大丈夫。出来るって」


全然大丈夫じゃない私に、ハリィは私の目を見詰めて言う。


「ハリィは休んだ。なのに、あなたが休まないのはおかしい」




反論出来ない正論。その正論に押され、私はベッドに寝かせられる。


ハリィは私がした様に背中を擦る。


柔らかくて小さい指が、疲れと共に背中にあった不安までを消し去ってくれるような。


凄く優しい指だった。


「おやすみ」







日の傾く時。カナリエとセレナは二人で肉を食べてた。


「うん。おいしいねこの“兎”」


「まぁ、焼いて塩を振っただけですが、おいしいですね」


二人はご飯として捕まえた兎をバクバク食べる中。ふと思ってしまった事を零す。


「今頃空ちゃん大丈夫かなぁ?」


「さぁ、どうでしょうか。でも、アイツと一緒にいますからね。もしかしたらノイローゼとかになったりして」


「それは困るよ~。空ちゃんが笑わないのは私も悲しいよ」


「そういえばカナリエさんは随分とソラさんが好きなようですが、なんでですか?」


「さぁ?分かんない」


「えぇ、、、、」




質問した自分がバカだったかと思ったセレナに、カナリエは思い出した様に声を上げる。


「あっ!そうだ!ホラ、空ちゃんに言われた事やらなくていいの!?」


「食後にしろと言われましたが、まぁ今してもいいですか」


そう言うと、セレナは一匹のまだ生きてる兎を捕まえると、その兎の首を切り落とす。


ビクッと一つ大きく体が動くと、次の瞬間にはぐったりとなり、首から血が流れる。


セレナは兎の首を落としただけではなく、その腹部にナイフを走らせ臓物を引きずり出すと、それを血とともに地面にバラ撒く。ついでに焼いた肉も少々。


最後に兎を紐で縛り付けて気に吊して一言。


「――さて、言われた通りにはしましたよソラさん」

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