第27話 長期戦

「いやぁ~運良く昨日熊は襲って来なかったね。一応戦う用意で警戒してたからなぁ~~ふぁあぁぁ」


協力を拒否したハリィの後ろを堂々と歩く私は、眠気を誤魔化す様に話しを振るが、超眠い。


「大丈夫ですかソラさん。少しは眠った方がいいのでは?」


「いや、でも寝たらさ。ね?」


「そうですけど、万が一今襲われでもしたら」


「そういう時は私よりもあの子を頼ってね。それに、危機が迫ると人間は脳内物質や何やら出して一発で目が覚めるでしょ」


「えぇ?脳内物質なんて訳の分からない事言わないで下さいよ。なんかソラさんらしくないですよ」


「かもね。眠いからかなぁ?」




笑い事ではないが、思考が纏まらずははと苦笑いが口から漏れ、その私の変わり様にセレナさんが眉をしかめる。


「あの、ハリィさん!30分程歩くのを止めてくれませんか?その間ソラさんを寝させますので」


ついて来る私達を無駄だと悟って黙認してるハリィにそう声を掛けるが、私達でいい迷惑しているハリィは「勝手に、したら」と返す。


「っ、少しは協力して下さいよ。あなたが昨日寝れたのは誰が寝ずの番を張ったおかげですか?その人に感謝もないと?」


「別に。ただ勝手に寝ずの番をしたからそれを利用しただけ」


「そんな言い方、、、、」


「寝たければ、寝ていいよ。ハリィは、一人で、戦うから」




私達を置いてハリィが前に進み、セレナさんがどうするか考える中。先輩は私の手を掴むと一言。


「ねぇ?こうすれば歩きながら寝れるんじゃない?」


そう言って先輩は私をおぶり、歩き出す。


「なるほど。その手がありましたか。いつもは散々ですが、今日は冴えてますねセレナさん」


「え?いつもは散々、、、、」


「ありがとうございます先輩。今先輩超カッコいいですよ」


「ぬっふふ。よーし、空ちゃんの為に私がんばるぞ!」


「あっ、でも待って下さい先輩」


先輩を上手におだてると、私は昨日の夜で知った重要事項をセレナさんに伝える。


「うげぇ、あっしになんて事押し付けるんですか。まぁ、なんとかしますけど」







朝早くに空一行は出発したが、日は西に傾きかける程度にも関わらずまだ一度も熊を発見出来ていない。もっと言うなら、寝ずの番を張った空も起きていないという進歩のない状況だった。


そんな状況だが、セレナは自前の紐を使用して罠を作る。


「わー凄く器用だねセレナちゃん」


「そうですか?まぁ、昔よく褒められましたし、きっと器用なんでしょうね。へへ」


「でも、この罠で熊は本当に捕まるの?足を引っ掛けるので精一杯じゃ?」


「そうですね。まぁ、あっしがカナリエさんに説明すると日が暮れそうなので、ソラさんが起きたら聞いて下さい」


セレナは寝息を立てる空を指差しそう言うと、カナリエは「そうするよ」と答える。




セレナは今日大体20個目となる罠を設置すると、嫌味と皮肉を込めて語り掛ける。


「終わりましたよ。協力しないって言って、あっし等が罠を作る時にちゃっかり休みやがって」


「別に。偶然同じタイミングで、休憩しようと思っただけ」


「このっ、、、、」


「ほら、怒らないの」


と、怒るセレナにカナリエは優しくなだめると、不満ながら口を慎む。


「分かってますよ。相手がこうも一緒にいる以上共に戦ってくれるのは。でも、あの態度」


「分かるよ私も。折角空ちゃんから提案したのを切ったのに、今更私達とがんばろうとするセレナちゃんの心は。すっごく分かるよ」


「お互い不満は山々ですけど、そうですね。あっしが熱くなり過ぎました」




よしよしとカナリエはセレナを褒めると、セレナは恥ずかしながらもまんざらではないと思う。


だが、「バァァァン!!」


そのまんざらないと思った心は、一瞬に変える事を要求される破裂音が鳴り響いた。


セレナは瞬時に今取るべき行動を咄嗟に判断すると、カナリエの背負う空を一発引っ叩く。


「わっ!?どうしたのセレナちゃん!?」


「熊が来たから逃げます。カナリエさんだってソラさん背負いながら逃げれないでしょ?」


そう言って起きない空にもう一発引っ叩く。


すると「ゔっ」と声を零して空は目を開ける。




「あーえーと。私が引っ叩かれたって事は、来たの?」


「来ましたよ。はい、これ私の杖です。使って下さい」


「え?使っていいの?」


「剣が使えないならこれしかありませんよ」


杖を一方的に渡すと、セレナは破裂音先を指を差す。


空は杖を強く握り、二人に一言。


「昨日テントが張った所まで逃げて。どんな理由があっても必ず」


私はそう言って全力で前へ走る。




ダッシュして数秒。その先に熊と攻防を繰り広げるハリィがいた。


ハリィは木を盾にしながら銃撃し、熊が来れば小さい体を利用して素早く新しい木に隠れる。


しかし、ハリィが次隠れた木が今まで隠れたのと比べれば少々細く、熊が振るった拳により運悪く薙ぎ倒される。不幸にもその木にハリィがの足が下敷きにされてしまった。


「んっ、、、、」


下敷きになった木をハリィは抜け出そうとするが、何度引っ張っても抜けない。


迫りくる熊。抜けない木。今まで表情の変化が少ないハリィだが、明確的に顔が青くなる。


そんなハリィに熊は腕を振り下ろそうとするが――




「おりゃあぁぁ!!!」


私は正面から攻撃せず、後ろに回り込み多分コイツの肛門目掛けて一突き。


ブスリと杖は突き刺さり、気持ちの悪い感触が伝わるが、熊は大声を上げて倒れる。


生まれて初めて味わっただろう地獄の痛みに悶える間。私はハリィの足を挟む木をテコの原理を利用して外し、ハリィの手を引いて逃げる。つーか、なんだこの木。腐ってたのか?カビとかキノコだらけだ。




「なんで、逃げるの?今なら倒せるかもしれないのに」


「勝てる訳ないでしょ!お前のソレ、相当な火力のある武器だ。ソレを何発撃った?」


「大体、、、、20発位?」


(マジか)


「いいか、その武器でそんなに撃っても死なないなら今倒れてるアイツを撃っても死なない!」


「でも」


「まずはその武器の改造だ。確実に心臓が狙える様にするぞ」


そうじゃないんだ。そう聞こえた気がするが、







「え~?その話しを信じてくれって?」


「でも、その話し。似た様な事をよく聞いた事がある」


「Zzzzzzzzzzzzz」


昨日テントを張った所に戻ると、私は皆んなに大切な話しがあると言って、日が暮れるまで協力する事の重要性に、これからの立ち回りを語った。


この中には元の世界にのみ知られた情報が沢山に含まれ、それの納得にかなり時間を費やしたが、セレナさんとハリィに理解させる事が出来た。先輩は最初からアテにしていない。




「にしても、随分と遠回りになりますね」


「でも、“確実”に熊に会えるなら、価値はある」


確実という言葉。その言葉に私を含めた全員が息を飲む。


絶対に会えるのなら、とハリィは比較的に協力をよい方向で捉える。


「それには少なくともお互いが協力し合う必要がある。準備を整える班と、武器を改造する班。この武器の構造が私が知ってるのと違うかもしれないからハリィちゃんは確実で、改造の知識として私も改造班が絶対」


だから。と、明らかにやる気のなくなるセレナさんを尻目に、私は先輩とセレナさんを指差し消去法で二人が準備班と言う。




無論文句のあるセレナさんだが、私達が外れてはいけない為諦めて俯く。


「まぁ、今日の決断。セレナさんは少なくともあの場で間違いのないの決断を出したと思うよ。だから明日からもそうしてればきっと相方が先輩でも問題ないから」


慰めになるかどうか分からないセリフをプレゼントすると、ハリィに問題ないかと聞き質す。


「協力、する事にする。その情報がどこから来たか分からないけど、嘘を言っている様な感じはない。それに、これに限界も感じてたし」


でも。続けて何か言おうとしたが、ハリィは口惜しそうな表情を浮かべて黙る。




「、、、、まぁ、そうだね。取り敢えず私達は今から森を出て街へと向かうから、二人はうまくやっといて」


テント近くに待機させた馬に乗り、私はハリィと共に抜けようとする。


すれ違いざま。セレナさんから「昨日もう一つ案を考えようって言ったのに、まさか二つ目どころか“1つ目をポシャらせる”とか、情報に頼りがないですが、信じますよ」と皮肉を言われ、私は苦笑で返した。







実は優しいお婆ちゃん達と、おいしいお菓子。それを味いながら、私は少し場に相応しくないと思いながらもここに来た理由の熊に関して聞く。


お婆ちゃんはあれは突然変異だっけなぁと言い、更に他に幾らか言うと思い出した様に一言。


「でも、そうだね。一人じゃあのアイツも寂しかろう。一緒に組んでやれるか?」


「誰かいるんですか?その熊を討伐しようとしている人が」


私の問にゆっくり頷くと、お婆ちゃんは私に耳打ちをする。




「『ハリィ・アト』ちゃん。そういう名前だ」


「ハリィちゃんですか。いい名前ですね」


自然と口から言葉零れた言葉に、お婆ちゃんは目を丸めると微笑みながら続ける。


「あぁ、いい名前だ。そんなハリィちゃんだが、誰に似たのか人見知りが酷くて、その上口下手でね。多分だけど空ちゃんだっけ?もしも組もうとした時拒否されるかもしれない。だけど、諦めないでおくれ」


私の手を、両手でしっかりと握ってお婆ちゃんは言う。


「今回ばかりはあの子が非常に危険だ。もし組んでくれるのなら、頼む。諦めず最後までハリィちゃんを信じてくれ。頼む」


涙を流し、お婆ちゃんがそうしてくれと懇願する。


「、、、、分かりました。もし会った時はがんばって協力します。ハリィちゃんと」

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