小さな身体と大きな悩み

第25話 遠出

悪魔の襲撃の後。私は嬉し恥ずかしの温かい先輩の看病を受け、1日ぶりにギルドに戻ると。


「はっはは、少し位まけたっていいじゃない?」


「ムリ!早く払って!」


「そうだそうだ!」


「いや~でも、ホラ、ちゃんと私悪魔を倒したし、コレって要するにギルドから送られた私個人への依頼でしょ?それなのにこの仕打ちって、、、、」


私は降りて早々ジギルとハイドちゃんに交渉。もとい強請られてた。




なーに、内容は至ってシンプルなもんだ。


私が悪魔とギルド内で乱闘した為に壊れた椅子や、焼けた床等の損害を賠償されてるだけだ。


ただ――「ねぇ、二人共。言い方は悪いけどさ、二人共本当に子供?こんだけふっかけちゃってさ」


そう、金額が問題なのだ。


私が貧乏なのもあるが、その私から毟るだけ毟れるギリギリの金額を要求されてるのだ。しかもまけるつもりが一切ねぇ!


そんな二人と交渉し、無理だと悟ると、私は涙を飲んで要求を飲んだ。持ってけドロボー。




「はぁ、これからどうしようか。なんかやる気なくなっちゃったよ」


「ねぇねぇ空ちゃん。ご飯どうしよ」


「あの二人の目。ガチでビタ一文まけない目でしたよ。払う以外に方法はねぇと言ってる様な」


交渉終わり、三人で重い溜息をつく。


ここまで一方的に毟られてはやる気なんて起きる訳がない。せめてまけてくれれば多少は違ったのに。


負のオーラを纏い、項垂れてる私達に珍しくザッコさんから声を掛ける。


「なぁ、そんなに金が欲しいならよ、どうせ若いんだからいっちょ冒険してみねぇか?」


「冒険?」


「おぉ、リスクも高いし、先を越される可能性もあるが、コイツなんてどうだ?」


そう言ってザッコさんはクエストが貼ってあるボードの中で、一枚ポツンと貼られたクエストを指す。




「これは」


貼られてた物はクエストと言うよりかはニュースに近く、一応字の読めない人に向けて最低限意味が伝わる様に書いた言わば危険速報だった。


内容は『「オベロ村」の森林に人を好んで襲う魔物が出没。ナブルカ村とも近いから要注意。討伐者には報酬金を出します』と言う旨の内容だった。


「つまり、この魔物を討伐しろと?」


「あぁ、そういうこった」


ザッコさんは煙草を一服ふかすと、メリットを語る。


「その情報が出されて間もないからソイツは大きく移動してねぇだろうし、今はお前の様な若者がどっか行ってるから見付けれる可能性も大だぜ。更には運良く俺の様な実力者が倒し損ねたヤツが狩れるかもな」


言われるとまぁ確かになと思い、案外悪くないなと。




「そうだな。毟られてからコツコツ稼いでられるか!」私はやってやるぞ!」


少々自棄になっての決断だが、私の決断に皆は特に言わない。唯一セレナさんは心配な顔をしてるが、不満なのは私と同じだ。


拒否の声がないのを肯定と受け取り、私はこう叫ぶ。


「おっしゃあ!40秒で支度して出ていくぞ!ジギルとハイドちゃん!私は行くぞ!『オベロ村』!」







早速準備を整えた私達はジギルとハイドちゃんにオベロ村で魔物を討伐するから、暫く馬車は私なしでする様に伝え、途中森の中で一日挟み到着した。


「ふーん。ナブルカ村って結構発達していた方なんだね」


私は到着一番に自分の初期地点が案外良かった事を認識する。


いや、オベロ村も良い感じなんだけど、ナブルカ村が街と言えそうなのと比べれば、こちらは村の側面が非常に強く伺える。


全体的に人が少なかったり、何もない土地が多い気がする。


「まぁまぁ、村なんてそんなものだよ空ちゃん。多分だけど、ナブルカ村はここの地方で一番発達してるんじゃないかな?」


「ここでもギルドの支部があるので、普通の村よりも発達してますよ」


そう言われ、私はそうかと納得して取り敢えずギルドに向かう。


ギルドなら魔物に関して情報もありそうだし。




適当に歩いてると、私はこの村の“変なところ”に気付く。


「ねぇ、先輩。私の気のせいならいいんですけど、この村――男が全くいなくないですか?」


たまたま外に出歩いている人間を見ているだけだが、男が一切いない。しかも女性と言ってもお婆ちゃんの様な年齢の人しかいない。


「本当だね。でも、ナブルカ村も男ばっかりだったからそんなもんじゃない?」


「そうなのかな?セレナさんはどう思いますか?」


「正直、両方とも比率がおかしいと思いますよ。この村はまだ分かりませんが、ナブルカ村で女性は殆ど見かけませんでしたよ。冒険者なんて女性はお二人だけじゃないですか」


「あぁ、そういえば冒険者の皆んなおっさんだったなぁ」


なんでだろうね?




まぁ、そうこうしていると、村自体が小さいせいかギルドの門前に到着し、門を開けて入った。


いつも通り。いつも通りナブルカ村のギルドに入るつもりでドアを開けると、無数の視線が私達に刺さる。


ナブルカ村では全員おっさんだった冒険者が、ここでは全員お婆ちゃんで、更にはそのお婆ちゃんから品定めする様な視線を私達はギルド入って僅か1秒も満たない間に受けた。


最初に顔。次に体を見られてその他を各々が見る。


そのナメクジが体に這うと表現出来そうなネットリした視線を受けて30秒。誰かが一言零す。


「全く。最近の若い者はこうも“ふしだら”な格好をするのかねぇ。まぁ、いいか。見た所べっぴんさんだし、特別に許そう。ホラ、こっちに来な。干し肉をあげるよ」


そうか、私は許さんぞ。




「本当?ありがとお婆ちゃん」


私がなんだこの態度と驚く中、多分一番ふしだらな格好をした先輩が喜んで干し肉を食べる。


というか、私の格好は特にふしだらではない気がするが、それはともかくセレナさんの格好は全くふしだらじゃないだろ。僧侶だし。アレ?もしかしてふしだらって言われたの先輩一人じゃね?


そんなふしだらな格好の先輩だが、干し肉を食べるのを見てるさっきの人がもう一言。


「なんだ。案外かわいいねぇ。どれ、クッキーも食べるかい?」


「うん。食べる!ありがとうお婆ちゃん」


と、孫に接するちょっと冷たいおばあちゃんの様にクッキーを始めに様々な物も与える。


ついでに他の人も「これはどうかい?」、「これは好きかい?」と周りの人も食べ物を与える。




(もしかして、さっきの人単に口下手なだけかな?)


あれれ、と思う中。先程の人が私に声を掛ける。


「お前さん達は食べないのかい?」


「、、、、いえ、食べさせて頂きます。先輩、食べ過ぎない様にしてくださいよね」


「別に食べ過ぎてもいいんだよ。最近は若いのと接する機会がないからこの老い先短いおばば達を楽しませてくれよ」


「だってさ空ちゃん」


「もー先輩。そういう事じゃないんですけどね。あっ!このケーキおいしいですね」


「お婆ちゃん。あっしにもそれ下さい」


「勿論。こう素直な若い者はかわいいねぇ」




数秒前は険悪な雰囲気だったが、先輩のお陰もあり、私達は場に溶け込めた。ナイス先輩。


「あの~一つ聞きたい事があるのですが」


「なんだい?」


「その、私達ここに最近お尋ねのモンスターを倒しにやって来たんですが、何か知ってますか?」


私の発言にお婆ちゃんは「あぁ、、、、」と気不味い様な言葉を漏らす。


「まぁ、そうだね。あたしゃよく知らないが、熊の仲間が突然変異したヤツだってのは知ってるよ」


「熊ですか」


「そうだね。体長は多分4メートルあるんじゃないのかね?大きくて力が強くてな。止めといた方がいいさ」


と、至極当然な事を私は言われる。だが。


「でも――そうだね。一人じゃあのアイツも寂しかろう。一緒に組んでやれるか?」


「誰かいるんですか?その熊を討伐しようとしている人が」


私の問にゆっくり頷くと、お婆ちゃんは私に耳打ちをする。







オベロ村に到着した日はもう夜も近かった為、私達は一泊してから今日クエストに向かった。


熊の探し方なんて知らないが、取り敢えずは村から馬を借りてセレナさんに森まで飛ばしてもらった。


そこで私達は襲撃事件が最も多く起きるだろう道の付近を探索してた。


「全く見付かりませんね。もう日が傾いたので、今日は帰るかこのまま野宿しますか?」


最も出没するだろう確率がある付近を半日中くまなく探したが、やはり素人には無理があるのだろう。村に帰るなら、明日からは罠を利用して捕まえる事にシフトチェンジすべきかと悩む。


「そうですね。村に帰りましょう。あっしでも森の野宿は御免被りたい程に嫌なんで。更にヤバイモンスターもいるなら尚更です」


「私ももう蚊に刺されたくないから帰ろ~空ちゃん」




満場一致で期間が可決され、私達は引き上げようとした時。


「パアァァン!!」


聞き覚えのある破裂音と共に森中の鳥がはばたく。


「ソラさん!もしかして――」


「えぇ、間違いありません。誰かがこの森の中にいます!」


私は二人に目線を配った後にダッシュで音のした方角へと向かう。


(間違いない。昨日お婆ちゃんが言ってた人だ!)


引き上げずに済んだと喜びながら、私は先程の破裂音の事を考える。


まさかな、と。




茂みを突き抜け、木の根を飛び越えて私は音のした場所に着いた。


しかし、どうやら戦闘は終わってた様で、熊が見当たらない。


ただ、そこには驚く程にデカイ足跡や爪痕が残されてた。


「エグいな、、、、」


こんなモンスターと相手せにゃならんのかと気落ちする中。


私は声を掛けられる。




「誰?オベロ村の、、、、人じゃない?」




小さく、非常にかわいい声を私は掛けられた。


その声の主に私は一言。


「やぁ、はじめまして。『ハリィ』ちゃん」

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