第24話 不死身

「、、、、パードゥン?」


はて、意味が分からない。


なるほど悪魔。コイツを殺せとは分かった。


しかし――「なぁ、皆んな?あの悪魔。どうしたよ?」


、、、、、、、、。


おい、視線を逸すな。




私の質問に皆々沈黙で返すが、まぁ沈黙だから分かったよ。


「どこだ!どこにいる!あの悪魔を逃した大馬鹿者はどこだ!」


「朝一番でどっかに逃げました」


「それは嘘です。コイツがやらかしました」


コノヤローと思いながら昨日悪魔を任せた男にそう叫び、清々しい嘘をつきやがった事に一回引っ叩いてやろうかと悩むが、近くの椅子に座り質問を。つーか後ろのヤツ知ってるって事は多分協力したろ。




「一応聞くけどさ、昨日悪魔に何したよ。ちなみに拒否権と黙秘権はないからな」


おい、また目線逸すな。


「えっと、一応悪魔を任された後、俺達は飴と鞭の法則に従って飴を与えたんです」


「具体的に何したの?」


「溺れる様になるまで酒を飲ませました」


「それって鞭と何が違うの?」


ただ飲まされるならまだしも、比喩ではなく文字通り溺れる様になるまで飲まされたらさ。


「酒を飲ませながら、俺達に誰に命令されたか言っちゃいなよ~って聞いたんですよ」


「あぁ、お酒飲ませたのはそういう理由もあるのね。で、どういったよ?」


不思議だ。今日目線を逸らされるのは三度目か。




「あーそれなんだがな、あの悪魔があまりにも口を割らないから細切れにして馬の餌にしたんだぜ」


と、黙りした男の代わりに隣の男が答える。


そう言われると、カウンター辺りに何か赤いのがあるような~。


「スゲェ口硬いな。多分割りそうにないとは思ってたけど、酒に誘われて飴的な何かを与えても口を割らなかったのか。ん?でも、じゃあ死んだろソイツ」


殺して馬の餌にしたのなら悪魔は死んだのだろう。だったら何故このクエストが?


「それなんだが、昨日帰りに馬小屋に寄ったヤツが見たって言ったんだよ」


「何を?」


「その殺した筈の悪魔をだよ」




「それは何かの冗談とかじゃないよね?だとしたらジギルちゃんとハイドちゃんをどうやって抱き込んだんだよ。私にも教えてくれよ、その手をさ」


「悪いが、冗談じゃねえ。俺が見たわけじゃねぇが、アイツは少なくとも悪魔が蘇ってるのを見て、ソイツを追い駆ける際に一発殴られた」


チラリと視線をその男に向ける。


一発殴られたらしい男は、確かに頬が赤く腫れ上がっていた。


男が酔っ払った時に錯乱した記憶でなければ、この話しどうやら本当っぽい。




馬の餌に出来る位に細切れにしても生き返る。ならどうしようか。


「ジギルちゃんとハイドちゃん。あっしの掃除用具ってどこでしたっけ?アレ?どうかしましたかソラさん?」


あぁ、僧侶なら悪魔とかどうにかする方法知ってそうだなぁ。


「ねぇ、セレナさん。セレナさんは悪魔とか殺せる?いや、殺さずにどうにか出来る?こう魔法でパァーってする感じの」


「悪魔ですか?別に殺しても問題なんて、あぁそうですね。まぁ、一応どうにかするのは不可能ではないかと、、、、」


「本当?じゃあ私ちょっと寝るわ」


「おいおいソラちゃん。アイツを探さなくていいのかい?多分この街のどっかにはいるはずだが」


「いや~多分大丈夫だと思うよ」


本当かよと言葉が投げ掛けられるが、街中探して見付けるのは一苦労もいい所だ。


なら――ちょっと試してみたい事がある。







「へぇー。悪魔って生物じゃないんだ」


「そうなんですよ。魔物とかはれっきとした生き物なんですけど、特定の誰かが意図的に生み出したのを『悪魔』と呼びます。まぁ、ただアンデットとかの例外はありますけどね」


先輩の看病をする合間にこうおつまみを軽く食べながら、私は日が暮れるまでセレナさんにこの世界の事を聞いてて、今は悪魔の話しをしてた。


「というか、ソラさん。失礼ですが、本当に一体何者なんですか?こんな事も知りませんし」


「まぁまぁ、それよりもコレ食べませんか?」


「流石にもうその手には引っ掛かりませんよ!」


「え~そう?じゃあ、頼むのやめるわ」


「いや、その~。やっぱり頼んで下さい」




ゲヘヘと笑いながら私はもう一品頼んでみる。


花も恥らう乙女がゲヘヘと笑うのは汚いが、正直今頼む物は笑わざるをえない。


「アイスなんて久々だな~。てかそろそろ来てもいいのにまだ来ないのか」


「ソラさん。まだ頼む段階なのでアイスクリームは来ませよ」


「いや、アイスじゃなくて悪魔ですよ。悪魔。ってか、そういえば二人共今外にいるんだ」


「あの~もしかしてですが、悪魔が自分からここに来るとソラさんは言うんですか?」


「断言は出来ないけど多分来るよ」


「そんな馬鹿な」




一体何かトリックがあるのか、と疑う様な表情でセレナさんは私を見詰めるその時。


「おい何でテメェはオレサマを探さねぇんだよ!?しかも、ここでメシ食いやがって!」


大声を上げ、悪魔はこの酒場に乗り込み私に指を差す。


「え?嘘。本当に来ましたよ」


「ラッキー。来なかったらどうしようかと思ってたけど、やっぱり来たか」


「ハッ!まさかお前、オレサマがここに来ると知ってたのか!?」


「断言は出来ないけどそうだよ」


スッと椅子から立ち上がり、首を鳴らす。




「何故来るのが分かった!言え!」


「馬鹿だから」


武器を私に向け、馬鹿の身からは未来予知に等しい私の行動を問うが、私は即答する。


その答えに悪魔はポカンと、セレナさんは思わず吹き出して笑う。


悪魔に説明すべきかと悩むが、丁度よく先輩バカが降りて来た。


「空ちゃん~どこ~?寂しいから手ぇ握って~」


「あぁ、先輩。後で手を握ってあげますので少し質問に答えて下さい」


「いいよ~」


「先輩がもしも私に構って欲しい時、私が全然構ってあげなかったらどうします?」


「空ちゃんに構って欲しいって言う」


と、ドヤ顔で私は理由を示す。


「つまり、オレサマがこれと同じだと!?」


「同じだバーカ!同じ馬鹿でも天使みたいにかわいい先輩の方が100倍良い馬鹿だ!」


「いや、文字通り天使なんじゃ?」




自分からやって来て、更には自分で聞いて心が傷付いた悪魔はぐぬぬと歯噛みする。


「まぁ、いい。オレサマと決闘しろ!その為にオレサマはやって来たんだ!」


「いいよ」


その言葉と同時に私は近くの椅子を持ち上げて悪魔の頭を叩く。


細切れにしても生き返った奴に、私は一切の遠慮なしで次に倒れたコイツに剣を突き立てる。昨日と違って真剣の刃で。


「こっ、この卑怯者!」


「ガチの不死身に卑怯もクソもあるか!言え、誰だ!誰が私を殺しに行けと言った!?」


相手の右腕を完全に切断して、次に私は心臓を刺す。不死身ならこれでも死なないだろう。




「言わねぇ!オレサマは絶対に口を割らねぇ!」


「悪いが言わせて貰わないと私は恐怖でどうにかなるかもしれないんだよ!」


店の床ごと斬る勢いで剣を走らせ、私は心臓から悪魔の頭頂部までを掻っ捌く。


おびただしい量の血がギルドの床に飛び散るが、私はすかさずテーブルの上に置いてた物を取って隠れる。


セレナさんに聞いた悪魔をどうにかする方法。それは限界まで相手が弱いといいと言われた。故にこの一撃以外にももっと強い一撃を与える必要がある。




高鳴る胸を手で抑えながら、私は切り裂いた悪魔を見る。


昨日斬撃を私は与えてないから再生速度を知らない。しかし、流石に数秒で治る筈が――


そう思ってると、悪魔は槍を杖に立ち上がる。頭が心臓まで裂けた異常な状況で。


「マジか、アレで再生を待つどころか立てるのか」


悪魔は何か言いたげな表情で2つの顎を動かすが、声帯を斬ったせいかひゅーひゅーとだけ音がなる。


「何が言いたいか分からねぇよ!」


私は立ち上がって右手で剣を一振りする。


しかし、悪魔はバランスが悪いながらもヒョイッと躱す。


その悪魔に私は左手に持った“酒瓶”で避けた先の体にぶち当て瓶を壊す。


更にその割れた瓶で悪魔の脇腹を一突き。刺し、蹴り飛ばした。




「よし、おじさん。その煙草貸して下さい」


フェイントを混ぜた攻撃が効いたと喜び、私は近くにいたおじさんにそう語り掛ける。


「あぁ、別にいいんだが、、、、大丈夫か?」


「え?何が?」


「いや、その、お腹」


そう言われ、私は自分の腹部に目をやる。


すると、そこは血でびっしょりと濡れてた。無論、血液は腹部の刺し傷から。


瞬間。激痛が私を襲う。痛みで吐き気も込み上げる。


けれども、「大丈夫、おじさん。早くその煙草貸して」そう言って私は借りるというよりも奪い取る様に借りる。




アルコールで体半分が濡れてる悪魔に、煙草を一本。そうすればそこそこに燃えるだろう。


煙草片手に私は痛みに抗いながら前進する。


(凄い再生力だ。まさかもう繋がろうとしてるのか)


悪魔に煙草を投げる前に、私はその驚異の再生力に驚嘆する。それと同時にコイツを作り出したヤツがより気になる。


「もう一度聞くぞ。誰が私を殺せと命令した?」


「ひゅー、、、、。ひゅー」


「そうだな、喋れなかったか。いいか。どうせ、口を割らないつもりだろうからな」


ポイッと、悪魔に煙草を投げて悪魔を燃やす。


ぼうぼうと燃える悪魔。その姿を見詰めるとホッとするが、腹部の痛みがより強く感じた。最後に煙草を投げなければという使命感がなくなったせいだろう。




地面に倒れ込み、体から抜け出る血をどうしようかと悩む。


倒れる私に、セレナさんが駆け寄り腹部を触ろうとした。きっと『回復ヒール』をかけるのだろう。だが、次に私の体は宙に浮く。


「ぐっ、かぁ。なんっ、で」


直後、刺される様な痛みとは別に腹部に鈍痛が走る。


何が起きたか。確認しようと目を開くと答えは分かった。


(あぁ、、、、本当に、コイツは不死身だなぁ)


頭部が繋がりかけた悪魔が私の襟元を握ってるのだ。半身が燃えながら。




「オレサマは、不死身だぜ。だから、絶対に負けねぇ」


そう吐く悪魔に、私はヘロヘロのパンチを一つ。


当然悪魔は私の拳を避け、喉元に喰らいつく。


サメを思わせる鋭い歯は血管程度簡単に噛み切れるだろう。それを喉元に。


コイツの勝ちだ。と――今コイツは思ってるだろう。


最後の悪足掻き。私は残してた奥の手を使う。


「ガシンッ!!」


甲高い金属音がギルド内に鳴り響く。


その金属音を聞いて私はやったと確信し、悪魔は青冷める。あの時と同じ手口かと。




「昨日は、一方的にボコったから実力が分からなくてな。だから、もしも私の『魔力障壁マナフィールド』を壊せる程度の実力を持ったとした場合に隠し持ったんだよ、奥の手をよぉ」


悪魔の歯は私の喉元に届かず、代わりにセレナさんの杖を噛んでた。パンチと見せかけた腕で杖を押して空間を開けて丁度歯にはまるように。


「昨日と同じ手に引っ掛かるとは、マジで馬鹿だな。でも、強かったよ」


そう言って、私は死力を尽くしての頭突きを悪魔にかます。


おでこが割れる様な痛みを無視して、この勢いによって尻餅をついた悪魔に私は杖で突きまくる。


骨を砕き、臓器を潰して、血管を千切るが如く突く。


突いて突いて突く。ここで負けたら私は今度こそ死ぬ。


突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて突いて。




その連撃の中。事切れた様に私の腕が止まる。


もう、体の限界だ。


血まみれのいつの間にか血まみれの杖を抱えて私はテーブルにかけ寄るが、テーブルを豪快にひっくり返して地面に倒れる。


「セレナさん。最後に、コイツを、無力化して下さい。もう、私は体が限界です」


「分かりました。無力化が終わり次第腹部の傷を癒やすので、それまで待って下さい」


そう言ってセレナさんは私の持ってる杖を手に取り、目を瞑って言葉を綴る。


「――自立と不屈を定める我が神よ。我が小さき心に律を、愛を、義を。その御心を今少しばかし私めに。邪法によりこの世に創られた神を知らぬ罪人に痛みを与えぬ裁きを。『封印シグナトゥム』!!」


カッと目を開いて魔術名を名乗ると、悪魔の体が光に溶ける様に体がなくなってゆく。




「最下級ですが、一応封印は掛けておきました。暫くすればあの体は完全になくなって代わりに別の物として残るので、気にしないで下さい」


封印に関して簡単な説明をすると、セレナさんは腹部に手を当てて傷を塞ぐ。


「出血は酷いですが、幸い傷は浅いです。安静にすれば大丈夫になる筈ですから」


「そうですか」


くそうと内心思うが、言葉にする程の気力と体力はもう残ってはない。


塞がった腹部を撫でながら溜め息を零すと、ずぞっと音がする。肉が床を擦る様な。




(待て、失敗でもしたのか?そうならもうどうしようもないぞ)


二度の交戦を試みろうと立つが、ドンッと地面に倒れる。


流石に不死身相手の本気の戦いには勝てなかったか。


諦めた所。ずぞずぞと肉が床を擦る音が続いて一言。


「よくも、オレサマに、封印なんてかけやがったな。今日はオレサマの、負けにしてやる」


と、封印でも効いたのか、私が見た悪魔の姿は地面を匍匐前進してどうにかギルドを出ようとしてた程度に弱まってた。更にやけに再生が遅くもとれた。




しかし、一応は勝ったって事だな。


悪魔が出て行くのを見届けると、私はギルドの皆んなに一言。


「ねぇ、皆んな。ちょっと頼むよ。店の中。ジギルとハイドちゃんが帰る前に片付けてくれないかな?」


お願いに皆んなは引き攣った笑いを浮かべながら「一杯おごれよ」と承諾すると、拙い掃除を始めた。


だが、一安心も束の間。なんだろう。悲しいけど、何か楽しそうな顔をした先輩が、、、、。


「ねぇ、空ちゃん大丈夫?痛くない?立てるかな?死なない?」


「全然大丈夫ではありませんが、死にはしませんよ先輩。だから、安心して下さい」


「本当?本当なの?」


「本当ですよ」


私の返しが嬉しいのか、先輩はモジモジすると私に抱きつく。


「よかったよ~」


「私も、先輩がよかったよと言うのが聞けてよかったです」




素直に先輩が喜ぶ中。私は先輩のさっきの表情は一体なんなのかと悩むと。


「そういえば空ちゃん。体調どう?」


「暫く安静にしてろとセレナさんには言われましたよ」


「そう――」


あぁ、そいいう事か。


「あのね空ちゃん。私体調が良くなったから、空ちゃんの看病を、、、、」


「やだ」


「ガビーン!」

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